森の中で拾った卵~わたしが結婚できない理由
教会からの帰り道、近道の森をうつむいて歩いていると、黒い卵を見つけた。
卵は拳ほどの大きさで、一つだけゴロンと地面に転がっていた。
何の卵だろう?
あたりを見回しても親はいないみたい。
「このままじゃ死んじゃう……、かわいそう……」
わたしは卵を家に持って帰ることにした。
家に帰って卵を眺める。
鳥の卵かな?
お父さんの図鑑を開いてみるけど、よくわからない。
とにかく、まずは温めないと。
「わたしが守ってあげるからね」
優しく卵をなでてあげる。
「元気に生まれてくるんだよ」
黒い卵を白いハンカチで包んでから懐にいれて、ソファに腰かける。
服の上から卵をなでながら、わたしはいつしか眠ってしまった。
コンコン
小さな音がして目を覚ます。
部屋の中は真っ暗。夜になっていた。
「卵!」
わたしはあわてて部屋の明かりをつける。
卵を服の中から取り出して、タオルを敷いた籠の中に乗せてあげる。
潰れていないか心配だったけど、大丈夫だった。
ホッと胸を撫で下ろしていると、
コツンコツン
「もしかして!?」
もう孵るの!?
じっと卵を見守る。
カツン
卵にひびが入る。
ゴン! カシャン!
殻が割れる音と共に、小さな黒い足が卵から出てきた。
「頑張れ!」
わたしは手を握りしめながら卵を応援する。
カシャ……カシャ……
卵はどんどん割れていき、ついに小さな黒いトカゲに翼をつけたような生き物が中から出てきた。
「……もしかして……ドラゴン……?」
ドラゴンを見るのなんて初めてで、ドキドキする。
黄金色の瞳と目が合った。
「かわいい……」
丸っこいフォルムにキュンと胸がときめく。
そうっと指を出して首筋に触れてみる。
「キィ」
ドラゴンは高い声で鳴いた。
その日からわたしとドラゴンの生活が始まった。
ドラゴンの名前は『クロ』。黒いから。
クロはいつでもわたしの後をついてきた。
ごはんを食べる時も寝る時もクロと一緒。
クロはお母さんのレシピのホットケーキが大好きで、たくさん食べた。
少し大きくなると一緒に作れるようにもなった。
ホットケーキをひっくり返すのはクロのほうが得意。
そうして、クロはわたしのたった一人の家族になった。
――10年後、クロは身長5メートルになって森の中で住むようになっても、おやつの時間にはウチに来る。
庭でホットケーキを食べながらクロは言う。
「母さんが結婚する相手は僕より強くないと!」
頼もしい息子が空に向かって火を吹く。
おかげでわたしは結婚できない。