第9章 「強襲!悪夢の土偶ロボット」
ガスマスク兵士を向こうに回した白兵戦は増援部隊にお任せし、私と葵さんは遊撃任務に徹する事と相成ったのですわ。
葵さんが個人兵装に選択されたガンブレードは、先端から破壊光線を発射するシューティングモードと、エネルギーエッジで敵を切り裂くスラッシュモードを使い分けられる可変式。
遠距離の敵は破壊光線で銃撃し、至近距離まで引き付けた所で一刀両断。
これに対して私のエネルギーランサーは、槍としての長いリーチを活かして、その中間距離での戦闘を得意としておりますの。
要は私と葵さんの2人が揃っていれば、如何なる局面においても死角無し。
その上、私と葵さんの個人兵装2つを合体させる「ガンブレードランサー」という奥の手だって御座いますのよ。
幸か不幸か、今回の出動では合体させる機会に至っておりませんが…
まあ、奥の手を無闇矢鱈と乱発するのも考え物ですわね。
合体させたガンブレードランサーで繰り出す「神雷断罪剣」は破壊力が強すぎる大技で、それでなくても扱いには細心の注意が必要ですのに…
私の胸中には、そのような欲求不満染みた思念が渦巻いていたのですわ。
そんな私の不満タラタラな思考を、現実へと引き戻した物。
「うっ…!」
「あっ…葵さん?!」
それは訝しげな葵さんの呻き声でしたの。
あどけなくも御美しい童顔はキリリと引き締まり、釣り気味の碧眼は何かを探るかのようにキュッと細められたのですわ。
「何か来るっ…!避けるよ、フレイアちゃん!」
「あ、葵さん…ああっ!」
そう叫ぶや否や、葵さんは私を後方へと突き飛ばし、御自身も素早く飛びすさりましたの。
次の瞬間、産業振興センターの外壁は内側からぶち抜かれ、砕け散るコンクリートの瓦礫と共に、鈍く輝く金属塊が私達に襲い掛かったのですわ。
全長は1メートル半程で、直径は75センチ程度。
メタリックな光沢を帯びた赤銅色の円筒には、万力のような鉤爪が3本もついておりましたの。
「これは一体?なっ…!?」
アスファルトの舗装を破壊して、路面に突き刺さった金属塊。
その後部には、特殊合金製と思わしきチェーンがついておりましたの。
それは次の瞬間には引き抜かれて反転し、凄まじい勢いで私に襲い掛かってきたのですわ。
「ぐはっ!」
鋭利で頑丈な鉤爪が脇腹を掠め、重厚な金属塊によるぶちかましが、強かに私の胴体を打ちのめす。
静脈注射された生体強化ナノマシンと強化繊維製のブレザーがなければ、この時点で私は内臓破裂と複雑骨折で命を落としていたでしょうね。
「あっ!ぐっ…」
もっとも、体勢を崩された点とマスキングしきれなかった鈍痛が私の隙になった事は否定出来ません。
金属塊の後部に繋がっていたチェーンに絡め取られ、私は胴体をギチギチと締め付けられてしまったのですわ。
謎の敵の攻撃により、優美な肢体をチェーンで縛められてしまった私。
縄目の屈辱に比べれば大した事は御座いませんが、締め付けられた四肢の骨が軋む音は気掛かりですわね。
「こ…コイツは…?」
肋骨を軋ませる締め付けに抗いながら、私はチェーンの先を見据えましたの。
半壊した産業振興センターの内側から現れた、巨大な影。
それは3メートルに迫る背丈を備えた、人型戦闘ロボットでしたの。
便宜的に「人型」とは形容致しましたが、そのフォルムは常人の身体と大きくかけ離れた物でしたわ。
赤銅色の重厚な装甲は丸みを帯びており、ひどくズングリとした印象がありますわね。
重厚な装甲で増大した体重を支えるためか、両足には大型の無限軌道があしらわれていており、まるで重戦車のよう。
今は私を捕らえるために射出している右腕を本体と正しく接続すれば、巨大な頭部と同様に無闇矢鱈と目立つでしょうね。
身体の半分近くを占める頭部もまた、人体のフォルムから大きく逸脱しておりましたわ。
横向きにした楕円形の頭部には、これまた分厚い横長のレンズが両目として嵌め込まれておりましたの。
『敵対勢力ヲ発見…コレヨリ攻撃ヲ開始シマス…』
機械的に合成された電子音声が、怪ロボットの口元から響いて来ますわ。
抑揚のない平板な声は、何とも不気味で生理的嫌悪感を掻き立てますわね。
『まるで斜光器土偶みたいなロボットだね、フレイアちゃん…』
緊迫した状況下には不釣り合いとも言えそうな葵さんの軽口は、敵の外見的特徴を一言で言い表すには最適な形容表現でしたわ。
「御無事ですの、葵さん!?」
『何とかね、フレイアちゃん。土偶ロボットのロケットパンチで、ビルの外壁にめり込んじゃった。オマケに鉤爪で私のお腹をガッチリ挟んでくるから、ホントにイヤんなっちゃう…』
軍用スマホのハンズフリーイヤホンから聞こえてくる戦友の声は、普段と変わらぬ何気無い物でしたの。
その内容の重大さとは裏腹に。
「な…何ですって?!」
戦闘ロボットの左肘から伸びるチェーンを注視しますと、斜め上方に向けてピンと張りつめている事が一目瞭然ですの。
黒光りする特殊合金製のチェーンを辿ると、土偶ロボットの豪腕がビルの壁面に突き刺さり、外壁に大きなクレーターを作っている事を確認出来ましたわ。
「なっ…!?」
しかし、ピンと張り詰めたチェーンの先を追った私の目は、驚愕と絶望によって大きく見開かれたのですわ。