第8章 「超震動・ソニックダガー」
斯くして私達は、鉄十字機甲軍に酷似した謎の武装勢力との戦闘に突入したのですわ。
「アトランティス・ゲルマンの敗残兵め!欧州の土になったお仲間に、今すぐ再会させたげるよ!」
真っ先に口火を切ったのは、明朗快活で元気の有り余っていらっしゃる葵さんでしたの。
流石は我が最愛にして最良の戦友ですわね。
「シューティングモード、アクティブ!ガンブレード、撃ち方始め!」
変形させたガンブレードから間断無く連射される、紫色の破壊光線。
それは、拮抗した戦局を我が方に傾けるには充分過ぎる威力でしてよ。
「一思いに殺してあげちゃうから、二度と再び迷い出て来ないでよね!」
普段のホワホワとした素振りからは想像もつかない苛烈な怒罵を口走っていらっしゃいますが、民間人を狙った卑劣なテロリストが相手ならば、致し方は御座いませんわね。
「よし!我々も神楽岡葵准佐と共に、江坂班を援護せよ!」
「はっ!承知しました、六地蔵ミオ上級曹長!」
そうして装甲の破壊された敵兵士に追い討ちをかけるべく、天神川分隊六地蔵班は一斉に銃口を向けましたの。
「総員、撃ち方始め!」
「撃ち方、始め!」
六地蔵ミオ上級曹長の号令一発。
小銃攻撃のリズミカルな銃声が高らかに鳴り響き、当座の敵は戦場の露と消えましたの。
こうして私達は、民間人を庇って防戦に徹していた江坂芳乃准尉達の危機を見事にお救いしたのですわ。
「皆さん、こちらです!慌てないで!避難を終えるまで、我々が責任をもって護衛します!」
当面の危機を脱した事で、江坂芳乃准尉にも余裕が戻ってきたようですわね。
支局から駆け付けた輸送車両に民間人を誘導する御声1つ取っても、平素と変わらぬ落ち着きと暖かみが感じられますし。
とは言うものの、先の攻撃は手近な敵部隊を退けたに過ぎませんの。
早くも次の敵が迫って来ましたわね。
「西来天乃中尉、これより江坂分隊の皆様を援護致します!」
ボリューム豊かなセミロングの銀髪を美しく揺らし、軽やかな身のこなしで最前線に突入した、1人の防人乙女。
それは、ソニックダガーを逆手に握った天乃さんでしたの。
「ええいっ!」
ライフル弾や銃剣突撃を巧みに回避しながら、巧みな足捌きで肉薄して得物を一閃。
ザックリと薙ぎ払われた胴体からは、ショートした火花が鮮血のように飛び散っておりましたの。
「!?」
「まずは…1匹!」
遊撃服の背中を追わんとしたガスマスク兵士共は、次の瞬間には遅まきながら自覚するのですわ。
自身の中枢回路を、致命的に破壊された事に。
「次っ…そこっ!」
内側から破裂する敵兵の爆発に頬を照らしながら、新たなる標的を求めて駆ける西来天乃中尉。
「たああっ!2匹目っ!」
時には手にした得物でダイナミックに円を描いて、敵の首級を切り落とし。
「3匹、4匹目!」
またある時には、一撃必殺のヒットアンドアウェイを行い。
軽やかにして巧みなステップは、さながらフィギュアスケートか新体操を思わせる程に、可憐にして華麗な物でしてよ。
特捜車の中では「母程の腕前は無い。」と謙遜されていましたが、どうして、どうして。
そこまで鮮やかにナイフを取り扱えるならば、申し分ありませんわ。
「御無事で何よりです、横堤ツバキ曹長!」
「貴官が援軍とは心強い限りであります、西来天乃中尉!」
天乃さんに応じる江坂分隊の曹長さんは、実に親しげで、また誇らしそうな口調でしたの。
かつては部下にして妹分だった天乃さんが、今や特命遊撃士として頼もしく成長し、自分達の援軍に颯爽と駆け付けてくれた。
その心持ちたるや、感慨無量でありますわね。
やがて、周辺地域を巡回中だった部隊が続々と集結する事で、謎の武装勢力への迎撃態勢が徐々に整ってきましたの。
特命教導隊の加森千姫子上級大佐が前線の最高指揮官に就任された事で、特命遊撃士達は各部隊における野戦臨時指揮権を返上。
その本来の主要任務である遊撃戦に戻っていったのですわ。
紺色のヘアバンドで束ねられたボブカットの銀髪に、貴公子を思わせる凛々しくて爽やかな美貌。
そうしたボーイッシュな出で立ちに違わず、加森千姫子上級大佐は竹を割ったように明朗快活な気質の方ですの。
勤続22年と経験豊富な上級大佐は、支局の方々の支持も厚くて指揮能力も申し分なし。
指揮刀代わりに握ったバスタードソードを振るう御姿にしても、威風堂々として実に頼もしく感じられますの。
そんな加森千姫子上級大佐になら、安心して指揮をお任せ出来ますわね。
そのため、私や葵さんと致しましても、肩の荷が下りたような心持ちですの。