第12章 「唸れ、疾風紫電薙ぎ」
しかしながら、心を持たない冷たい破壊兵器の悲しさ。
ここまで甚大な損傷を受けながら、尚も向かって来るのですから、厄介極まりない敵ですわ。
『左腕ガトリング砲、機能正常…敵対勢力の掃討を再開します…』
辛うじて機能が生き残っている、左腕に仕込まれたガトリング砲。
その鈍く輝く機銃の銃口が、私達を捉えましたの。
間断無く吐き出される銃弾の雨霰。
しかし、むざむざと蜂の巣にされる私達では御座いません事よ。
「防御はお任せ下さいませ、葵さん!ランサーシールド、展開!」
エネルギーランサーを身体の前面で構え直した私は、そのまま柄を高速回転。
「ハアアアッ!」
そうして敵の機銃掃射を、一手に引き受けたのですわ。
「助かるよ、フレイアちゃん!攻撃は私が引き受けたよ!シューティングモード・アクティブ!」
そんな私の後ろにピッタリと密着された葵さんは、私の肩越しに構えたガンブレードで、果敢に銃撃を担当。
こうして攻守を分担して連携戦が出来るのも、私と葵さんの深い絆があってこそですわ。
「頼もしいですわ、葵さん…!」
美しい肢体の温もりと、生々しい息遣い。
背中から伝わる葵さんの気配に、思わず私の頬が緩んでしまいますの。
戦友への熱い慕情が、今、力に変わる。
エネルギーランサーをバトンのように回転させる手つきも、自ずと研ぎ澄まされるのですわ。
そんな私とは対照的に、ガンブレードで怪ロボットを狙撃する葵さんの愛らしい美貌は、どんどん険しく強張っていったのですわ。
「チッ…!あのガトリング、さっきからウザったいなぁ…」
そのように毒づくなんて、葵さんったら余程鬱憤が溜まっていたようですわね。
まあ、私と致しましても、機銃掃射を防いでいるばかりなのには、いい加減に閉口させられていたのですけど。
「そろそろ黙らせてやる!撃ち方始め!」
口汚く毒づく葵さんの碧眼が鋭く細められた、その次の瞬間。
先程まで絶え間無く弾丸を吐き出していた戦闘ロボットの左腕に仕込まれた機銃が、内側から爆発したのですわ。
『左腕ガトリング砲、機能停止…戦闘力の低下率、レッドゾーン突入…』
抑揚のない電子音声で自身の損傷箇所を確認する戦闘ロボット。
「やったねぇ!精密射撃、大成功!ホールインワンだよ、フレイアちゃん!」
怪ロボットの無機質な声とは対照的に、油断無くガンブレードを構えながらも快活に声を弾ませる葵さん。
恐らくは未経験であるはずなのに、ゴルフに喩えられるとは。
こうした比喩表現の無節操さもまた、葵さんの天真爛漫な魅力の1つですわ。
「敵の銃口を狙って暴発させたのですね、葵さん。毎度の事ながら、御見事ですよ。」
「そんな、私なんか…鉄壁の防御で私を攻撃に専念させてくれた、フレイアちゃんの協力あっての事だよ。」
御自身の御手柄を決して驕らず、戦友である私への配慮も忘れない慎み深さ。
そうした謙虚な奥ゆかしさもまた、私がお慕いする葵さんの長所なのですわ。
「だけど、油断は禁物!飛び道具を破壊されたアイツが、どんな最終手段に出るか分かんない!とっとと片付けないと!」
快活な笑顔から、キリッと引き締まった精悍な面持ちへ。
コロコロと千変万化する葵さんの百面相は、本当に見飽きませんわ。
「おっしゃる通りですわ、葵さん!彼奴が自爆テロを試みる前に、その電子頭脳を吹き飛ばしてみせましょう!」
言うが早いか、私と葵さんは大地を蹴り上げ、構えた個人兵装を頼りに目下の敵へと殺到致しましたの。
『熱源反応、確認…左豪腕ロケット、発射…』
「小賢しい真似を!」
怪ロボットの残る左腕が発射されるも、私の敵では御座いませんでしたわ。
「はあっ!」
すれ違い際に繰り出した私の薙ぎ技が、豪腕ロケットを捉えた次の瞬間。
赤銅色の鉄塊は中程からザックリと切り裂かれ、2つの小爆発となって虚空に消えたのですわ。
「御覧なさい!疾風紫電薙ぎ!」
誇らしき私の勝ち鬨は、あの醜い鉄塊には理解しかねる物ですわね。




