第11章 「迅雷の空中殺法」
間断無く続く、敵ロボットの猛攻撃。
全く、息つく暇も御座いませんわね。
「よし…だったら!」
それに業を煮やした葵さんは、ガンブレードを構え直されたのですわ。
しかしながら、土偶型ロボットを狙ったにしては、銃口の角度が妙に下向きなのですが…?
「葵さん…!?その角度では…」
「ガンブレード、撃ち方始め!」
私の戸惑いなど、何処吹く風。
葵さんにトリガーを引かれたガンブレードの銃口から、幾筋もの破壊光線が連射されたのですわ。
しかしながら、やはり銃口が下向き過ぎた…
フルオートで連射された破壊光線は、数発こそ敵の脚部に着弾したものの、無限軌道の履帯を断裂させたのが精々で、致命傷には程遠い有り様。
『脚部の履帯に軽微な損傷発生…戦闘続行に支障なし。』
自身の損傷状況を冷静に確認する戦闘ロボットの電子音声が、誠に憎らしい限りですわ。
そうして虚しく外れた破壊光線が、只でさえ銃創とクレーターだらけの路面に着弾し、凸凹とした悪路に変えていきますの。
戦闘ロボット周辺の路面など、一際に無残な破壊具合で…
「はっ…もしや!」
「そうっ!『細工は隆々…後は仕掛けを御覧じろ』だよ、フレイアちゃん!」
向き直った私に投げかけられる、葵さんの得意気な微笑み。
その瞬間、私は己が次に成すべき事に思い至ったのですわ。
「委細承知!心得ましたわ、葵さん!」
そうして葵さんに応じた私は、個人兵装であるエネルギーランサーを大きく振りかぶりましたの。
「ハアアッ!」
静脈注射で私の体内に投与された生体強化ナノマシンが、両腕の関節へと集中していくのを、自ずと知覚出来ますわ。
「エネルギーランサー・重力大地崩し!」
そうして裂帛の気合いと共に、個人兵装の穂先を路面にフルスイング。
エネルギーランサーを突き立てられて生じた亀裂が、路面に穿たれた銃創やクレーターを繋いでピシピシッと延びていきましたの。
そう、件の戦闘ロボットの足元へと一直線に。
やがて轟音と共に土煙が舞い上がり、戦闘ロボットの巨体は大地に飲み込まれていったのですわ。
脆くなった足場を地割れで破壊された土偶型戦闘ロボットは、バランスを崩して無様に転倒していたのですわ。
『当機体の周辺環境に異常発生…』
半ば地中に埋まったような姿は、古墳から発掘された本物の土偶を彷彿とさせましたの。
自重と破壊された履帯が災いして、すぐには起き上がれないようですわね。
「よぅしっ!今こそ好機来たれりだ…行くよ、フレイアちゃん!」
「お任せ下さいまし、葵さん!」
阿吽の呼吸で頷き合った、葵さんと私。
「うおおおおっ!」
「はああああっ!」
そうして助走を充分につけて、ビルの壁面を軽やかに蹴り上げ、戦闘ロボットの真上へ舞い上がりましたの。
重力を無視して宙を飛ぶ、この高揚感。
私達こそ、まさに戦場の舞姫ですわ。
空中へと躍り上がり、赤銅色の頭部ユニットを真下に捉えた私達。
「タアアッ!」
「往生なさいませ!」
そうして戦闘ロボットの土偶頭へ目掛けて、各々の個人兵装を高々と振りかざしましたの。
『敵対勢力を射程内に確認…直ちに排除します…』
しかしながら、敵もさる者。
額に第3の目の如く開眼したカメラアイで、私達の姿を捉えるや、両目の遮光器型殺人光線砲にエネルギーを集中させたのですわ。
「オオオッ!」
「ハアアアッ!」
50センチに満たない距離で並び、重力に身を任せて降下する私達。
『照準、合ワセ…』
それを確認した敵ロボットは、2門の殺人光線砲の射程を交差させ、十字砲火の要領で私達をまとめて葬る事を決定したのですわ。
空中で自由落下に身を任せた時、一部の例外を除けば、誰しもが無防備になる事は自明の理。
まして掃討すべき複数の対象が至近距離で並んでいるのですから、火力を集中させて確実に殲滅しようと試みようとするのは、妥当な判断ですわ。
しかしながら戦闘AIの浅知恵など、私達にはお見通しですの。
『排除、開始…』
殺人光線砲が宙に向けて照射される、その刹那。
「やっ!」
「とうっ!」
私と葵さんは、お互いの足裏を目一杯蹴り上げたのですわ。
「今だよ、フレイアちゃん!」
「心得ましてよ、葵さん!」
こうして相互に力を掛け合えば、たとえ自由落下の真っ最中であったとしても方向転換は可能ですのよ。
「エネルギーランサー・疾風紫電薙ぎ!」
「スラッシュモード・激震斬!」
それぞれ真逆の方向へ斜めに吹き飛びながら、私と葵さんが個人兵装で同時に発動させた斬撃技。
空中で生じた2筋の疾風は、合流の後に1陣の衝撃波へと成長を遂げ、赤銅色の土偶頭へと唸りを上げて襲い掛かったのですわ。
「ムッ…!」
「はっ!」
音も無く着地した私と葵さんの頬を、眩い閃光と毒々しい爆炎が赤々と照らし出しましたの。
『殺人光線砲、損傷甚大…戦闘力の低下率、イエローゾーン突入…』
ギシギシと関節を軋ませながら、炎の中から姿を現す戦闘ロボット。
土偶に似た赤銅色の巨体は、至る所が傷だらけ。
特に損傷著しいのは、楕円形の頭部でしたわ。
『メインカメラ、機能停止…索敵方法を熱感知へ切り替えます…』
遮光器に似た分厚いレンズの両眼はみる影も無く破壊され、剥き出しになった基盤が半ば溶けかかって燻ぶっておりますの。
既に殺人光線の発射シークエンスに入り、エネルギーチャージの真っ最中に衝撃波を直撃されたのですから、それも無理もありませんわね。




