裏切りと追放の元聖剣勇者
「キース、君は今日限りでこのパーティーを抜けてもらうぞ」
強力なモンスター、グリーズベアを倒して、ステイン王国の王都ストレインに帰るために野営中、俺のパーティーのメンバーである第二王子のレインに急に宣言された。
「ちょっと待て、このパーティーのリーダーは俺だし、俺のために結成されたギルドだろ」
この世界に昔から存在し、人間と対話ができる伝説の剣、聖剣。この世界に十数本しかないその剣はそれぞれ異なる特殊な能力や技を持つ。この俺、キースも中級冒険者だった1年半前の二十歳の時に聖剣アッシュに選ばれて勇者となった。その後、勇者になった俺のために第二王子などのステイン王国のトップが集まってできたのがこのパーティーだ。聖剣持ちでもある俺が抜けたらパーティーの存在意義そのものが無くなる。
「ああ、それなら心配はいらね、ほらな」
レインの右手には黄金に輝く稲妻の装飾が特徴の純白の剣が握られていた。この一年半、俺とずっと一緒にいたあの剣を。
「おい、どう言うことだよ!!何で、認められた者しか握ることさえできない聖剣をレインが握ってるんだよ!!」
「それは俺がこの聖剣に認められたからだな。というか、これが当然だろ」
第二王子であるレインは王都の剣技祭で優勝して、俺のパーティーの剣士として入った。金髪のロングヘアーの王族、挙げ句の果てに超絶イケメンということで行く先々でキャーキャーいう女子が後を絶たない。世間からはクールなイケメンなんて思われているが実情はプライドが高く、高圧的な奴だと、俺は思っている。
「認めたってどういうことだ!!」
「あー、もう、うるせーな。なら、本人の口からちゃんと聞けよ!」
レインが聖剣を手放すと聖剣が十歳ほどの低身長の茶髪ショートの少年に変わる。
「君に愛想がついたからだよ、キース。君は僕と会ってから、ほとんど成長がない。僕の特別な能力だって未だに使えない。あんなに僕を連れ出して、特訓をしてもこのザマ。僕も最近はっきりしてね。僕が認めるべきだったのはレインだって」
人間形態の聖剣アッシュは淡々と応える。最近、アッシュが特訓の参加を断るようになったのはもう俺を見限ることを決めていたわけか。
「というわけで、アッシュは俺を使い手だと認めた訳だ。よって、俺が新しい勇者になり、キースは勇者からただの中級冒険者の剣士になる。そんなキースは俺ら勇者パーティーには要らないよな」
レインが他のパーティーメンバーに尋ねる。
「私は賛成。ていうか、聖剣使ってレインと同程度、またはそれ以下ってやばくない。魔法も最弱の水系統しか使えないし。とっとと去った方がいいよ」
このパーティーの攻撃魔法担当のルージュが1番初めてに賛同した。赤髪を後ろで束ねている彼女はこの国の貴族の長女だ。代々、魔法に優れた家系であり、彼女はレインの婚約者でもある。まぁ、断る訳ないよな。
「我、ガンズも賛成だ。無意味な者はこのパーティーにいる資格なし。守る価値無いものを我は守らん」
「私も賛成します。キースはいつもいつのまにか体力ギリギリになっていますし、レイン様に比べると能力は5段階くらい下ですし、このパーティーにいる意味はありません」
無精髭を生やした角刈りのディフェンス担当のガンズも賛同の意を示すと、回復魔法担当のリシアも続いた。ガンズは王国騎士団の中でもトップの大楯使いとして、敵の攻撃を引き受ける役割を担っている。肩までかかった白い髪が特徴のリシアはレインの熱狂的なファンだ。回復魔法の質は一級品なのは間違い無いんだけど、この2人は基本的にレインしか見ていない。ガンズはいつも俺を無視してレインを守りに行くし、リシアはレインがかすり傷を負ったぐらいですぐに回復魔法を撃つのに、俺にはいつまで経っても撃たない。そんなんだから、守られもしない俺はいつのまにか体力ギリギリなってるって。
「お前以外、全会一致だ。俺たちが最上級なのにお前が中級だから、俺たちは他の勇者パーティーよりも討伐実績がないんだよ。後任の剣士はお前より強い奴がもう決まってほら、さっさと去れ。去らないならわかってるよな」
レインが剣を構え、ルージュも火属性魔法を準備する。ガンズとリシアに至っては、レインが負けるわけないと思っているのか、何も準備してないし、アッシュはさっきからずっと高級お菓子に夢中で俺のことを見もしない。
もう、俺の中で結果は決まっていた。
考えれば、よくいままで、このレイン用のパーティーで1年半も過ごせたと思う。
「もちろん、出ていくさ。今まで、世話になったな」
俺は寝袋ぐらいしか入っていない唯一の荷物を持つと野営地を出た。
「気を付けろよ。夜の森にはお前なんかには倒せない奴が出てくるな」
レインの馬鹿にした悪そうな顔が俺のことを見送った。
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