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鬼の心情と涙と詠唱

「こんな感じでいいか…」


私は気絶している男を寝室のベッドまで運び、そのまま寝かせた。

男の顔は一応簡単な治療を施しており、顔にはガーゼなどの治療跡が残っている。


「全く…人騒がせな奴だよ、お前は…」


そういって私は男が起きる前に置き手紙を寝室とリビングに一枚ずつを置いておき、リビングの手紙の近くには通帳も置いてそのまま家から出て行く。


「さて…これで本当に家無しになっちまったわけだ…はは…笑えないな…」


正直にいうと、一人になるのはどうでもいい。今までも一人で過ごしてきたのだから今更だ。

考えているのは、自身のタイムリミットの事だ。


「あと何日生きていけるかね…」


そんな事を考えていると、物陰からネズミのような魔獣が複数飛びかかってくる。

それを慌てる事なく血の剣で払い退ける。


「とにかく、こいつらのコアを喰らっていけば多少は凌げるか…」


私は、襲い掛かってくるか逃げる魔獣を片っ端から倒してはコアを喰らっていった。

「駄目だ…供給が消費に追いつかないとは予想外だった…」


家から出て行って2日目。

目にした魔獣を片っ端から倒して回るも、ギリギリの状態が続いていた。


「今まではそこまで気に止めてなかったが…改めて調べてみると、魔獣が増えてるのか?それでいて出てくる奴は鉄級ばかり…鉄級程度の雑魚魔獣じゃ魔素が足りなさ過ぎるな…最低でも銅級の魔獣のコアじゃないと…」


そう途方に暮れているとビルの建設予定地の近くで気配を感じ取った。


「この気配…銅級、いや銀はあるんじゃないか…?」


私は、予備にと残していたコアを喰らって、最低限の状態にしてから中に入った。



僕は魔獣に気付かれないように物陰に隠れ、様子を伺った。


「うぉぉぉ!!」


汐華が魔獣に向けて剣を振りかざす。

その攻撃に対して、魔獣は後ろに飛んで避けた。


「グオォ!!」


そして、瞬時に距離を詰め、鋭い爪で攻撃を仕掛ける。


「ぐっ!」


その攻撃を剣を使って寸での所で受け流し、すぐに距離をとる。


「や、やばい…汐華が押されてる!!」


このままだと汐華が魔獣に殺されてしまう、そう思った僕は何か使えないかと辺りを見渡すと、ある物を見つけた。


「これだ!!」


「クソ!万全の状態なら、こんな奴なんて…」


悪態つく汐華に休ませる気は無いと言わんばかりに追撃してくる。

汐華は、紙一重の所で受けきって凌いでいるものの反撃する事が出来ずにいた。


(一瞬でも隙が出来れば、反撃に移れるのに…!!)


その様に思い悩んでいると、いつの間にか鉄骨の柱まで追い詰められたのか、柱を背にした状況になった。


「しまった…!?これじゃあ、後退が出来ない!」


その状況を好機と判断したのか、魔獣は飛びかかってきた。

汐華は、何とか受け止めるも、魔獣は距離を取らせまいと押さえ込んでくる。


「くそ、このままじゃ…!」


絶体絶命のピンチに、突然どこからかスパナが飛んできて、魔獣の片側の目玉に直撃し、その目玉を潰した。


「なんでスパナが…って、お前!?」


「よし!命中した!」


魔獣は突然の事に驚き、よろけるように後退した。

その魔獣の隙を見逃さなかった汐華は、すぐさま攻撃を仕掛ける。

その攻撃はもう片方の目を捉え、潰すことに成功した。


「キャヒンッ!!」


魔獣は、甲高い鳴き声をあげながら距離をあけた。

それを確認し、汐華はこちらに目線を向ける。


「何とかなったが…なんでお前がここにいる?」


「あ、えっとだな…話と長くなるのだが…」


汐華の問に対して、どう答えようか考えていると、魔獣が僕の方に口を開けていた。

その行動にいち早く気付いた汐華はこちらに向かって飛んできた。


「危ねぇ!!伏せろ!!」


僕は突然の事に混乱していると、魔獣が開いた口の中で光が集まり始める。

そして、集まった光が光弾となってこちらに飛んできた。

そして、光弾なの直撃する前に、汐華が僕の前に立ち、剣で受け止めた。

しかし、完全に受け切る事が出来なかったのか後方に飛ばされてしまう。


「き、汐華!!」


僕は、すぐさま汐華の元に向かった。


「カハッ…ハァ…ハァ…私は…大丈夫だ…!それより、早く身を隠せる場所へ…!!幸い、今の攻撃で砂煙が舞って、目くらましになってる筈だ…」


そういって、汐華はよろよろと立ち上がると、近くにあった作業者の宿舎に指を指す。


「あそこに隠れよう…」


「わ、分かった!!」


僕は汐華に肩を貸しながら宿舎の中に入り込んだ。


「ここなら…多少は体制を整えられるかな…」


汐華は、壁にもたれ掛かるようにして力を抜いていた。


「ご、ごめん…僕が居たばっかりに…」


「気にすんな、それにお前が居なかったら今頃私は殺られてただろうし…」


それから、少し沈黙の時間が続いたが、ふと思い出した事を汐華に提案した。


「そうだ…汐華、僕と家族の契りを結ぼう!そうすれば、魔力供給も出来るし、あの魔獣だって!」


その提案を聞いた汐華は、前に見せた顔になった。


「それは無理な話だ」


「な、なんで!?」


「その契りは種族問わず家族と近しい関係にする契約だ。私はお前を家族とは認めることが出来ないし、そんな契約をして、家族になるぐらいなら…隷属の契りを結んだ方がマシだ」


「な…お前、こんな状況で何言ってんだよ!!」


「安心しろ。きっかけがどうであれ、巻き込んでしまったからには、お前だけは逃がせるようにする…」


「そういう事じゃなくてだな!?」


何とか契約をしようと粘る。


「…頼む。お父さんの息子とか義理の姉弟とか関係なく、ただ…私のせいで人が死ぬのも…嫌なんだよ。分かってくれ」


その言葉に何も言い返せなかった。


「どうか、分かってくれ…あと、少しで何とか足止め出来るぐらいにはなる。そしたら私があの犬野郎を押さえている間に逃げろ、いいな?」


「く…!!分かったよ…」


僕はそう答えるしか無かった。

そして、汐華は立ち上がると扉に手をかける。





「じゃあな、上手く逃げろよ?」


そういって、扉を開ける。

そして、初めに目に付いた光景は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の姿だった。


「しまった…!?気付かれていたのか!!」


汐華はすぐに防御の構えをとろうとするも、先に光弾が発射されてしまう。


(ダメだ、間に合わない!?)


次の瞬間、汐華の身体が横にそれた。

そして、同時に肉が弾け飛ぶ音とともに僕の左肩から腕がバラバラになって、吹き飛んだ。

そして、吹き飛んだ衝撃で後ろに飛ばされた。

ほんの少しだけ間があき、汐華が傍に寄ってきた。


「お前…?何やってんだよ…?何やってんだよ!!」


汐華の表情は怒りとか悲しみとか入り交じった表情をしていた。


「は、はは…身体が勝手に動いちまった…」


「馬鹿野郎!!そんな事をして私が喜ぶと思うのか!?」


「喜びは…しないよね…」


腕が吹き飛び、吹き飛んだ後からは血が出て、若干朦朧としてきた意識の中、何とか振り絞って会話をする。


「これは…運命なんじゃないかな…ここが僕の終点…なのかも。」


「な、何言ってんだよ!?諦めるな!!」


「無駄死には…したくないんだよ…だから…最後は人の役にたちたいな…」


そういって、僕は残っている右腕を汐華に向ける。


「まだ、死ぬ前なら契約は…可能…だろ?」


その言葉に汐華は戸惑いの表情を見せる。


「なんで…なんでお前は自分が死ぬ時まで人の事を心配してるんだよ!!」


汐華は、僕の事を思ってくれているのか涙を浮かべてくれていた。


「分からない…けど…助け…られるなら…僕は…助けたいな…」


僕は、朦朧とする意識の中、自身の思いを語った。

それに対し、汐華は何かを思い出したのか、ハッとしていた。


「そうだよな。お前は…お父さんの子供だから…分かったよ。契約する」


そういうと、汐華は僕の手を握る。


「あ…ありがとう」


これで安心、そう考えた僕だったが、次の発言に耳を疑った。


「ただし、家族の契りは結ばない」


「お…お前…こんな時に…まだ…!?」


「結ぶのは…これよ!!」


そういうと、詠唱を始めた。


『神々よ、お聞き下さい。我がこの身とこの者の身の間に契りを結ぶ事をお許しください。我は【()()】この者は【()()】の【師弟(してい)の契り】をここに結ぶ事を誓います!!』

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