表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

工事現場に住み着いた犬

僕が夢から覚めると、寝室のベッドで横になっており、外はもう太陽が昇っていた。


「今の夢は何なんだ…夢にしては鮮明だったが…」


ベッドから身体を起こしてみる。

体は昨晩の時より、痛みを感じることはなくなっていたが、汐華から殴られたと思われる顔はまだ痛みを感じた。

痛む顔は、手当がなされていた。


「汐華が手当てしてここまで運んでくれたのか…?」


真意を確認しようにも等の本人は見当たらない。

変わりに近くにあった机に一枚の紙を見つけた。


『最低限の手当てはした。もう関わる事はないだろうから、これぐらいしてやる。』

このように書かれていた。


「置き手紙ってやつか。もう関わる事はない、か…」


寂しいという気持ちが溢れてきたが、相手からしたらいい迷惑だろう。

気持ちを切り替えて、寝室から出る。

リビングに入ると、ここの机にも置き手紙があり、その横には通帳が置いてあった。


『お前宛に届いた手紙には通帳のことも書かれてるの見たからここに置いていく。変に無駄遣いするなよ?これは父さんが遺した金だ。無駄遣いしたら今度は殺す。覚悟しておけ」


「はは…それは恐ろしい…」


汐華が鬼の形相でこちらに迫ってくる光景が目に浮かぶ。

別に無駄遣いする気はさらさら無いが、用心しておくとしよう。


僕は通帳を鞄の中に移動させた後、書斎に入った。

理由としては、親父、もとい小隈優市の本が多数あると聞いていたので、目を通したい。そう思ったのだ。


「確か、これが親父が最初に出した本だったよな…」


そういって一冊の本を手に取る。

題名は、【砂漠と泉】

内容としては、デゼールとスルスの違いについての研究内容や種族の種類についてなどが記されていた。

スルスの世界の生態系や食べ物についてなどが色々ある中で、僕はある物に目が止まった。

それは、スルスの世界の住人の特性についての論文で、

『スルスの住人は、魔素という空気中に存在する特殊な物質を呼吸で身体に取り込み、巡回させる《魔素巡回線(まそじゅんかいせん)》という血管のような物が身体に巡っている。

魔素を巡らせる事により、魔素は魔力に変換され、魔法を使用する事が可能になり、また新陳代謝機能などが強化され、傷は数時間あれば綺麗に無くなってしまう。

瀕死の重症でも巡っている事で数日すれば動けるように。

腕や脚が欠損した場合でも、魔素が巡回している限りは細胞が死ぬ事なく数日保ち、死滅するまでに接合すれば、くっついてしまうのだ。』と記されていた。


改めてスルスの凄さを認識したと同時に、疑問に思った。


「なんで、汐華は傷だらけなんだ?鬼人もスルスな筈だから傷なんて直ぐに治るよな?」


僕が出会った時は、攻撃なんて受けてなかった筈だし、その前に負ってたとしても、時間がだいぶかかっている筈だ。

その疑問に答えるかのように文章が続いていた。


『ただし、スルスの中にも例外が存在している事も確認している。それらは別の形で補っていると考えられる。補う為の一例として血の契りを結ぶという方法がある』


この文を読み、契りという単語を頼りに探すと一冊の本を発見した。

題名は、【契りのすすめ】で初めは扱い方についての説明と注意点が書かれており、終わると図面と説明が記されていた。


『【隷属の契り】契約した対象に絶対的命令権を得られる。その他にも魔力の剥奪といった制限を掛けられる。

【家族の契り】擬似的な血の繋がりをつくる。』

僕は、その本の他に様々な本を食事を忘れるほどに読んでいって、気が付くと日をまたいでいた。


「本に書いてある事が本当なら汐華は…いや、だとしても汐華自体がいないのならどうしようもないのか…」


調べた事を整理して汐華の事が心配になったが、どうすることも出来ない事を実感し、限界が近いお腹を満たすために食べ物を腹に入れていく。


「さて…今考えても拉致があかないんだ、明日の準備をさっさと済ませて寝床に着こう…」


お腹を満たしたら、持ってきていた荷物を整理して寝床についた。


目覚ましの音と同時に手を伸ばして音を止める。


「音が鳴る前の音で目が覚めてしまうのはちょっと不便だな…」


嫌々ながら身体を起こして顔を洗い、朝食をとったら服を着替えて出かける。

行先は僕が通っている学校だ。

前の家にいた時は電車通学していたが、この家は学校の近辺にある為、徒歩通学が可能になったのだ。


「おはよう!優太」


教室に入り、席に着くとある人物が話しかけてきた。


「おはよう、午那」


こいつは雨尾午那(うびうまだ)

高校に入学した時に仲良くなった親友的存在だ。

うまだという変な名前だが、本人的には気に入っているらしく馬鹿にすると凄く怒る。


「どうだ、新しい家、しかも一人暮らしを始めた感想は?」


こいつにはあの家に住み始めたことを言ってあったので感想を求めてきた。


「えっと…あんまり考えてなかったわ」


そりゃあ、あんな出会いや出来事があったら考えている時間はないよ。


「なんだそれ?どんな感想を持つのか楽しみだったのによ〜」


「ごめんって!後でまた感想聞かせてやるから」


拗ねる午那を宥めているとチャイムが鳴り始め、一人の女の子が手を叩きながら声をあげる。


「ほらほら!始業のチャイムが鳴ったから席に着いて!」


彼女は、雷皇月夜(らいこうつきよ)といって、生徒会長を務めている、ちょっとした豪邸に住んでいるお嬢様である。


「ほら、雨尾さんも早く席につきなさい!」


「あーへいへい…生徒会長さんのご命令とあっちゃ従うしかねぇな。じゃ、また後でな?」


「おう」


午那がそそくさと席に戻っていくと、隣の席に月夜が座る。


「全く雨尾さんは…反省をしている気配がしません…。貴方からも何かいってくれませんか?」


「えぇ⁉︎僕がですか?無理ですよ…あいつの傍若無人ぷりは知ってるでしょ?」


午那は、何かに縛られるというのが嫌という性格で、誰もあいつを拘束できないのだ。


「そうですよね…」


生徒会長は落ち込んだ表情になったが、無理なものは無理なのだ。


時は経ち、国語の授業を受けているとスマホにメッセージが届いた。


『この授業は暇だからよ、話そうぜ?』


相手はもちろん午那だ。


「はぁ…直ぐ横に生徒会長がいる僕の身になれよ…全く」


まぁ、暇という点では同感である為了承した。


『さっき、話そびれたんだが、こんな話は聞いたか?』


『どんな話だ?』


『丁度学校と今のお前の家を挟んだ辺りにある工事現場に、でっかい犬が住み着いてて工事が中止になってるらしいぜ?放課後に見に行ってみようぜ』


「放課後か…まぁ特に用事は無いし、こいつの事だ強制的に連れて行かれるだけだろうしな…」


承諾のメッセージを打つと横から嫌な視線を感じた。


「小隈さん…?授業中に何を触っているのでしょうか?」


「あ…その…」


「没収です!」


その後、放課後になるまでスマホは返ってこなかった。


「くひひ…‼︎取り上げられてやんの‼︎」


「あのなぁ…?元はといえばお前がメッセージを送ってきたのが原因だろうが‼︎」


「了承したのはお前だろ?」


「ぐぬぬ…正論で何も言えないのが余計に腹立つ…」


「まぁ、返してもらったんだから良いじゃねぇか。ほら、行くぞ?」


午那は先に教室から出て行ってしまった。


「お、おい待てよ‼︎」


僕は直ぐに後を追いかける。

僕は、基本的に運動が得意で、脚の速さは学年で二番目に速いのだが、一番は誰かというと…


「おーい、置いていっちまうぞ〜?」


「ちょっと待てや⁉︎」


午那だ。

こいつは脚の速さと力が強く、記録は人間離れしている。

そのせいか、僕はいつもこいつの影に隠れる事になる。

僕が午那に追い付いたのは目的地の工事現場の前だった。


工事現場は中止になっているため音はせず、出入口には立ち入り禁止の仕切りがされていた。


「到着っと…どうしたそんな息を切らして?風邪か?」


「ハァ…ハァ…お前……後で覚えとけよ…?」


僕はそういって午那を睨むも、午那は気にする事なく工事現場の方に目を向けた。


「さて…でっかい犬は何処にいるのかな?」


そういって午那は、仕切りの間から中を覗き始めた。


「どうだ?なんかいたか?」


そう聞くと午那は何か見つけたのか手招きをしだした。


「犬では無いんだが…誰かいるぞ…?」


「は?なんで中止になっている工事現場に人なんて居るんだよ?」


僕も恐る恐る中を覗く。

そこには、赤色の髪をした見覚えのある女性がいた。


「汐華⁉︎」


「ん?あの人と知り合いなのか?」


「あ、えっとあいつは」


午那に汐華の事をどう説明すれば良いか考えていると、中から低い唸り声が聞こえてきた。


「な、なんだ今の声⁉︎」


直ぐに中を覗くと建設予定の建物の骨組みの影に大きい何かが動いていた。


「あそこにいるのがでかい犬…?」


そして動いてる影はゆっくりとその姿を表す。

それは、ぱっと見のシルエットは犬だが、体長は2メートル程あり、皮膚は(ただ)れているようにボロボロで、脚には鋭い爪、顔はナイフのような鋭い牙が何本も並び、その上にはそれぞれ3個、合計6個の目が付いている化け物だった。


「な、なんだあれ…⁉︎」


「あれは…まさか魔獣…⁉︎」


化け物の姿を目の当たりにして茫然としていると、汐華と化け物が交戦し始めた。


「汐華…⁉︎」


「これは…嫌な予感がする…優太、今のうちに早くここから離れるぞ‼︎」


午那が僕の手を掴んでその場から立ち去ろうとする。

しかし、僕はそれを払い退けた。


「ごめん‼︎お前は先に逃げてて‼︎」


「お、おい⁉︎優太‼︎」


引き止めようと声をかけてきたが、僕は止まる事なく中に入った。


「くっ…⁉︎どうなっても知らないからな…‼︎」


午那はそういって立ち去っていった。


「すまん午那…けど、このまま汐華を一人になんてできないんだ‼︎」


そういって、僕は中に入ると一度物陰に隠れて様子を伺った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ