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家族と他人と夢

「なんだ、私の事知ってたんだ。なら説明は要らないね。で、私の家に何か用か?」


汐華は、倒して塵になった猿の居た所にあった物を拾いながら聞いてきた。


「え、えっと…この手紙によるとその家を譲渡するって書いてあるのですが…」


目の前の光景に戸惑いながらも手紙の事を話した。


「はぁ?…あーそっか。そういえばそんな事父さんいってたな…」


手紙の事を聞いて、何かを思い出したのか複雑な表情を浮かべる。


「あ、あの汐華さんは、何をしているのでしょうか?」


「んー?あぁ、こいつら魔獣のコア、いわゆる心臓みたいな物だな、それを拾ってんだ。あと汐華でいい」


「魔獣…ですか?」


「そう、魔素の淀みから生まれると言われている生物さ」


取り出したコアを僕に見えるようにこちらに向けてくれた。


「はぁ…えっと…そんな物を拾ってどうするんですか?」


その質問を聞き、汐華はこちらを向き、コアを口元に持っていく。


「食べる」


そういって、コアを口の中に放り込んだ。


「え!?食べられるんですか!?」


突然の事に驚きを隠せない僕に、予想以上の反応が見れたのが良かったのか意地悪そうな笑みを浮かべた。


「いや、普通は食べられないよ。私は鬼人だから食べられるのさ、ってあー…鬼人なんていっても分からねぇよな…」


「鬼人…ですか?」


聞き慣れない単語に思わず聞き返してしまった。


「あぁ…えっとな、鬼人っていうのは、スルスの世界で大昔に絶対的権力を持っていた種族で、非常に好戦的な性格で、大岩を軽々と持ち上げる怪力や、さっき私が出していた特殊な血液を固めて武器に変化させる力を持っているんだ」


汐華は鬼人について説明をしてくれた。


「けど、他の種族が結託して戦いを挑んで来た事で殆どの鬼人が死んでしまって、残っているのは私ぐらい。そんな種族だ」


「そ、そうなんですか…なんかすみません…」


「謝る必要はない。この結末は当然の結果で、もっと他の種族と協調性を持つ事が必要だったってだけの話だ」


汐華は自身の種族の事を淡々と話しながら、拾ったコアを口に入れ、噛み砕く。


「さて…コアも食べ終わったし、家に帰るか。ついてきな」


そう言って、汐華は歩き出す。


「あ、分かりました」


「あと、その敬語は辞めろ。むず痒いから」


「わ、分かりま…分かった」


「よろしい。じゃ行くとしますか」


喋り方を直すと汐華は先に進む。

汐華の後に付いていくと大きな一軒家の前に到着した。


「着いたよ。ここが小隈研究所…もとい今日からお前の自宅になる家だ」


「こ、ここが…」


「ほら、入った入った」


汐華に言われるがまま、家の中に入っていく。

中はそこまで華美ではなく、意外と普通の家だった。


「驚いたか?お父さんは無駄な物は置かない性格だったから、物は少ないんだよ」


汐華は、リビングに入ると机の上にあった犬の置き物を手に取る。


「今は私が使っていたから物があるが、父さんが居た時は、今より物はなかったよ」


リビングの他に、キッチンや寝室、書斎などを見て回った。


「こんな感じにトイレと脱衣場の扉は似てるから注意しろよ。さて…家の説明は終えたし、私はいくよ」


浴室の説明をして廊下に出ると汐華が玄関に向かい始めた。


「え?こんな時間にどこに行くんだ?」


その問いかけに汐華は冷たい表情を浮かべる。


「はぁ…何を勘違いしてるか知らないが、家族でもない奴と一緒に住むなんてする訳ないだろ。それに、この家はお前が所有権を持ってるんだ、私が出ていくなんて当然だろ…?」


「は?家族でもないって…僕と汐華は一応家族」


僕が家族という単語を口にした瞬間、汐華は怒りを露わにして、首を掴みかかってきた。


「ぐっ!?な、何を…!?」


「私とお前が家族?ふざけたことを抜かすんじゃねぇぞ…。私の家族は小隈優市、お父さん()()1()()なんだよ…!」


そう言って、掴んでいた僕を壁に叩きつけるとそのまま出ていってしまった。


「カハッ⁉︎…い、痛てぇ…」


叩きつけられたことで身体中が痛み、立ち上がる気になれず、その場で横になる。


「痛てて…はぁ…なんか地雷踏んじゃったのかな…」


痛みに耐えながら、先ほどの事を思い出しながら考える。


「家族は親父ただ一人…か…」


僕が横になりながらの反省会をしていると、突然玄関が開き、汐華が入ってくる。


「やっぱり…最後にシャワーだけ使わせな…」


「ど、どうぞ…?」


横になっている僕に一言だけいい、返事を聞かずに横になっている自分の横の扉から脱衣場へと入っていく。

入ってからしばらくすると、シャワーを使用しだしたのだろう水の音が聞こえ始める。


「はぁ…すっかり嫌われてるみたいだな…」


汐華の冷たい態度に落ち込むが、その間に身体の痛みは薄れてきた。


「ふぅ…なんとか立るぐらいには引いてきたかな…よっと」


まだ微妙に痛む身体を起こして立ち上がろうとする。

すると、片脚が一瞬だけ力が抜け、体勢を崩しそうになる。


(やばっ⁉︎何か掴まれる物…‼︎)


何かに捕まろうとバタバタと痛む腕を動かすと、ドアノブを掴むことが出来た。


(よし!助かった!)


しかし、ここで掴まなければよかったかもしれない。

掴んだドアノブはしっかりと仕事をして扉を開けた。

そこには、丁度シャワーを浴び終わって脱衣所に入ろうと仕切りの扉を開けた汐華がいた。

当然だが、肌を覆う物など付けておらず、汐華の裸を見てしまった。

その姿は、スタイルは凄く良く、豊満な胸は目を見張るものだった。

しかし、それ以上に目に付いたのは戦いで傷を負っているからか身体中に傷が無数にある事だった。

そんな事を一瞬考えたが、そんな事を考えている場合ではなかった。


「何やってんだ…お前…?」


汐華が低い声で笑みを浮かべて問いかけてくる。

表情はにこやかではあるが、怒っているのが分かるぐらいの雰囲気が周りを覆っている。


「は、はは…スッキリした?」


「…そうだな。貴様に一撃ぶち込んだらスッキリするかもな…!!」


そういうと汐華は拳を振り上げてこちらに向かってきた。


(あ…終わった)


そこで僕の記憶は途切れる。

朦朧とする意識の中、僕はある夢を見た。

幼い赤髪の女の子が、炎上し崩れた建物の瓦礫の側ですすり泣いていた。

僕は、その女の子の側に寄ると、女の子は怖がっているのか身体を震わせた。


「いや…来ないで…‼︎」


僕はその様子に戸惑うが、意識とは別に身体が勝手に動き、腰に付けていたバッグからパンを取り出し、女の子に手渡す。


「大丈夫。君に危害は加えないし、何もしないよ」


その声は自分の声ではなく、低めの大人びた声でどこか懐かしいと感じる声だった。


「う、うわぁぁん‼︎」


怯えていた女の子は、その言葉に安心したのか泣きついてきた。


「よしよし、怖かったな…」


身体は、泣いている女の子の頭を優しく撫でる。

どうやらこれは自分ではない誰かの目線を見ている夢らしい。

その夢は、時間を飛びながら進んでいく様だった。


怯えている女の子にパンを手渡す場面から、女の子を保護したのか自宅と思われる所に連れてきて、風呂に入れてあげている場面に変化し、また別の場面へ。


次は、打ち解けたのだろう女の子が、満面の笑みでこちらに寄ってきたかと思うと、女の子が自分で作ったのだろう紙粘土の人形を見せてきている場面で、その人形を見たこの人物は酷く喜び、女の子の頭を撫でてあげていた。


次は、だいぶ時間が経過したのか成長した女の子が、この人物の為に手料理を作ってるのを見ている場面だった。

しかし、あまり得意ではないのか鍋から黒い煙が上がり始め、出来上がった物はなんとも言えない物だった。

女の子は失敗した事で落ち込んでいる様で、目に涙が溜まっていた。

しかし、この人物はその料理を躊躇なく口に運び始め、全て食べ切ってしまった。途中、吐き出しそうになっていたが、意地で呑み込んでいた。

それを見て女の子は、


「お父さん大好き」


と言いながら抱きついてくる。

そんな場面が何度か続いていたが、途中で雰囲気が変わり、成長して、どこか見た事ある顔で聞いた事のある声をした女の子と言い合いをしている場面だった。


「お父さんがなんでそんな計画に参加しなければいけないの⁉︎私は絶対にそんな所にいくのは許さないよ‼︎…どうしてもというなら…私も連れて行って‼︎」


「そんな事、許可出来る訳ないだろ‼︎お前は、ここで待ってなさい」


「お父さんの分からず屋‼︎大っ嫌い‼︎」


「嫌うなら嫌えばいい…。それで()()が満足するならな…」

そういうと身体の人物は家を出てしまい、車に乗り込んだ。


「待ってよ!!お父さん!!」


玄関の方から引き止める声が聞こえるが、ふりかえることはせずに、車を発進させた。

そして、運転中に車の中で目に付いた免許証には『小隈優市』とあった。

そして、その場面を最後に僕は夢から覚めた。

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