僕を選んで
『好きでやってることだけど、さすがにちょっと疲れたな……』
塾の帰り、いつも通る公園でSNSに愚痴を書き込む。
別に誰かに慰めてほしいとか、共感してほしいとかじゃないけど、どこかに吐き出さないと疲れちゃうんだよね。
ピコーン
スマホが鳴った。早速返事が来たらしい。
いつもすぐに返信を寄越すのは、『自宅警備員のエリート』なんてハンドルネームの、引きこもりのニートだ。
『お勤めご苦労さま、トール君も早く自宅警備員になればいいのにw』
何がおかしいんだよ、おかしいのはお前の頭だろ。
こんなところで笑ってないでさっさと真面目に働けよな。
『自宅警備員とか、エリート中のエリートじゃなきゃなれないっすよ!笑』
ピコーン
『トール君が早くこちら側の人間になれるように応援してるよw』
言ってろ。僕はお前と違って立派な人間になるんだから。
トールとは僕のハンドルネーム、本名の早川透から取っている。
最初はそんなつもりじゃなかったんだけど、気が付いたら社会人ってことになってたので今はそれで通してる。
塾で毎日遅いだけなのに、こんな時間にブツブツ文句を言ってるのがまさか高校生だなんて思わなかったんだろうな。
身バレの危険も無くなって、今では都合がいいんだけど。
そんなやり取りをしながらベンチで休憩していると、ふと視界に黒い影が入り込んだ。
どうやら向かいのベンチに誰かいるらしい。
こんな時間に物音立てず近付いてくるなんて……まさか変質者?
スマホを通話画面の110に合わせ、それとなく顔を上げる。
そこにいたのは恐らく変質者ではなく、僕と同じ塾帰りの学生だろうか、セーラー服を着た女の子に見えた。
女子か……あんまり得意じゃないな。
いつだって僕のことをバカにしてくるのはクラスの女子だ。
「根暗でガリ勉とかマジでヤバイしw」
「勉強ばっかりして総理大臣にでもなるつもり?」
「ウケる!だったら今のうちにサイン貰っておこうよ!」
総理大臣のサインなんか貰ってどうするんだよ、家にでも飾るのか?
休み時間も勉強している僕の何が面白いのか、髪を染めた頭の悪そうな女子たちが、よく机を囲んで笑ってくるのを思い出した。
チッ、せっかくニートを蔑んで心の平穏を保っていたのに、嫌なこと思い出しちゃったじゃないか。
はぁ……とため息をついて地面を眺める。
さっさと帰るか、そう思って何の気なしにもう一度視線を女の子に向けると、じーっとこっちを見ているのに気が付いた。
「……!」
なんだよ、何見てるんだ?もしかして知り合いか?
心臓がバクバクなってるのを感じながら、もう一度スマホの画面を確かめる。
22時ちょっと過ぎ、110の数字が光って見えた。
大丈夫、相手は女子だし、いざとなればすぐに電話できるようにしてある。
「ねえ、ちょっといい?」
思いがけず声を掛けられ、息を呑んだ。
薄暗がりで顔はよく見えないが、声はどことなく沈んで聞こえる。
「え……ぼ、俺?」
僕?と聞き返しそうになって慌てて言い直した。
相手がどんな人間か分からない以上、少しでも強気な方がいいだろう。
「そう、君。ちょっと手伝ってくれない?」
「え……何を……?」
「さがしもの。校章を落としちゃったの」
こんな暗闇で探しものとは、大変だな……手伝ってやったほうがいいんだろうか。
近付いてしっかり確認してみるも、やっぱり知らない顔だ。
それにしても可愛い子だな、クラスの女子とは大違いだ。
「し、仕方ないなぁ、手伝ってやるよ……。この辺で落としたんだろ?二人で探せばすぐ見付かるよ……」
別に可愛いから手伝うわけじゃない、困ってるやつがいたら誰だって力になるだろ?
もちろん出来る範囲で、だけど。
月が出てるとは言え、街灯もない暗闇の中で校章なんて小さなもの、なかなか見付からないに決まってる……と思って覚悟していたのに、思いの外すぐに見付かった。
「ほら、これだろ?見付かってよかったね」
土が付いた校章を手で払い、彼女に手渡した。
「わ、すごい、こんなに簡単に見付かるなんて……さすが男の子だね、探しものが上手」
そこは男女関係ないだろ……なんて思ったが、褒められて悪い気はしない。
「ま、まあね……へへ。あ、じゃあ僕、もう帰るから……」
うっかり僕って言っちゃったけど、まぁいいか、悪いやつじゃないって分かったし。
じゃあ、とヒラヒラ手を振る僕に何か言いかけようとしたみたいだが、聞き返そうと振り向いた時には彼女の姿は見えなくなっていた。
なんだよ、お礼にお茶でも……とか無いのかよ、せっかく手伝ってやったのに。
本音としては、もう少し話してみたかったんだけど……可愛かったしな。
でもまあ、僕と仲良くしたがる女子なんていないか、どうせ根暗なガリ勉野郎だからな……
『黒髪美少女と喋れたから元気になった』
ピコーン
『警察のみなさんこの人です』
『事案発生ですか?w』
『ついに見えない美少女が見えるようになったのか……』
『ようこそこちら側へww』
こういうバカばっかりだから楽しいんだよね。
いい気分転換になるというか、一種の安心感さえ芽生える。
『通報やめて。笑』
『帰り道に困ってた女子高生を助けてあげただけですよ!』
家に帰り着く頃にはたくさんの通知が来ていたが、流石にもう眠い。
シャワーを浴びている間に母が夕食を温めておいてくれたらしく、流し込むように食べ終えると、フラフラと部屋に戻った。
あの制服、地元の女子校だよな……女子校か、あんなに可愛い子がたくさんいるなんて、羨ましいよな……
ベッドに潜り込んで目を瞑り、彼女と同じ学校に通う自分を想像しながら眠りについた。
今日は朝から体がだるい。
昨日いつもより夜ふかししたせいか、授業中も眠くてしょうがなかった。
僕としては珍しく、昼休みには塾の予習もせずに眠ってしまったほどだ。
それに、昨日の彼女を思い出すたび、なんとなく胸のあたりがモヤモヤする。
また会いたいな……なんて、何考えてるんだか。
そう簡単に会えるわけ無いだろ。
それに、会えたとしてなんて声を掛けるんだよ、女性耐性ゼロのくせに。
それでもまた塾帰り、あの公園に差し掛かるとついつい彼女を探して視線を走らせる自分が情けない。
「あ、昨日の彼!」
背後からの突然の呼び掛けに、心臓が飛び出るほど驚いた。
びっくりして振り向くと、昨日の彼女が立っていたのでもう一度驚く。
嘘みたいだ……会いたいとは思っていたけど、こんなにすぐに叶うなんて……
「昨日はお礼も言えずにごめんね、一緒に探してくれてありがとう」
ニコッと微笑んで一歩近付いてくる。
悔しいけど、やっぱり可愛い。
「そう言えば昨日もこんな時間にいたけど、何かやってるの?バイト?」
「えっと、こんばんは……塾の帰りなんだ。君は?」
「似たような感じ。私、吉岡美香っていうの。ミカって呼んでね」
こちらも自己紹介して、よろしく、とだけ言う。
下の名前で呼ぶなんて、ハードル高すぎだろ……
少し話そうよ、と言われ、真面目な顔をしてみせながら、もったいぶってベンチに座った。
内心嬉しくてガッツポーズものだったが、みっともない姿を見せるわけにはいかない。
会話の殆どが彼女からの質問ばかりで、あまり自分の話をしたがらない様子だったが、それでも充分楽しい時間だった。
僕の話をこんなに楽しそうに聞いてくれる女の子は、今まで一人もいなかった。
学年で上位の成績のことや最近の模試の結果など、いかに僕が勉強を頑張っているか、なのにクラスではあまり女の子と仲良くなれないことまで話してしまった。
変なの、昨日会ったばかりなのに、こんなことまで話しちゃうなんて。
でもすごく楽しい、ミカって聞き上手だよな、と止まらない会話を満喫していた。
「それはクラスの女の子がおかしいんだよ。透はすごく頑張ってるのに、誰もそれを分かろうとしないなんて……」
すごく残念そうな顔をして、まるで自分のことのように悔しがってくれている。
もしかして、ミカも僕と同じ思いをしているのかな。
「それに、見ず知らずの私を助けてくれるぐらい、すごく優しいし……私なら、透を理解してあげられるのにな……」
不意に上目遣いで顔を覗き込まれて、思わず目をそらしてしまった。
僕としたことが、これぐらいでドキドキするなんて……
でも……もしかしてミカも僕のこと……?
「ねえ、私、もっと透の事知りたいな……明日もここで話さない?」
「え……も、もちろん!僕もミカの事、もっと知りたい……!」
まだ信じられない。まさかこんなに可愛い女の子とこの僕が、明日も会う約束をするなんて……
これは実質デートと言っても過言ではないと思う。
『明日の夜は初デートです』
勢い余ってつい発信してしまった。
多少大げさに言っているかもしれないが、あながち嘘ではないだろう。
ピコーン
『はい!?トール君の裏切り者!』
『なるほど、妄想彼女とおデートですね、おめでとう』
『強めのお薬出しておきますね〜』
……ふふふ、そうやって僻めばいいさ。
お前たちがそうやって人生を無駄に過ごしている間に、僕は勝ち組への階段を順調に登り詰めてやるんだからな。
ピコーン
『そう言えば明日は満月ですね』
『お?満月と言えば、犯罪率が高くなるらしいじゃないですか』
『 いやいや満月と言えば狼でしょ!送り狼とかなんとか…』
『トール君、警察さんのお仕事増やしちゃダメだよw』
ニヤニヤと返事を眺めながら明日のことを考える。
おっと、こうしちゃいれない。
デートに備えて予習をしておかないと。
明日は土曜日で塾も夕方までだし、帰ってきてから少し仮眠を取れば問題ない。
よし、久々に一夜漬けでもするか。
SNSの通知を切り、黙々と『必勝!初デートで必ず落とす10の方法』というサイトを読みながら、ベッドに入る頃にはすっかり空が明るんでいた。
昨日はさすがに夜ふかししすぎたか、授業中もうつらうつらとしてしまった。
だが今は17時、待ち合わせの時間までまだ5時間もある。
家から公園まで歩いて15分、自転車で行けば10分もかからないだろう。
4時間半は寝れるな……着ていく服は用意してあるし、ゆっくり仮眠でもしよう……
早めの夕食を食べたあと、仮眠を取るから起こさないようにと母に頼む。
今朝より布団がふんわり膨らんで見える、干しておいてくれたのかな。
ふかふかと暖かなベッドに潜り込むと、期待に高鳴る胸を抑える暇もなく、僕の意識はすぐに途絶えてしまった。
ビービービービー!
……アラームがうるさい。
もうそんな時間なのか?
という事は今は21時半。
大丈夫、あと10分は寝れる。
睡眠不足で変なことを口走るくらいなら、たとえ髪の毛をセットする時間を捨てても眠るべきだ。
そう自分を納得させてまた目を閉じる。
もちろん分かってる、これが全て間違いだったことくらい。
……やけに静かだな……今何時だ?
よほど熟睡していたのか、スッキリした頭でスマホを見る。
0時ちょっと過ぎか……え、0時だって!?やばい!すっかり約束の時間を過ぎてる!
慌てて飛び起きたが、こんな時間に向かってもさすがにもう彼女はいないだろう。
自分で頼んだのだから仕方ないが、もちろん母が起こしに来た形跡もない。
それにしたってこんなに寝過ごしてしまうとは……後悔してもどうしようもないことだが。
深いため息とともに、うなだれるようにベッドに倒れ込んだ。
明日も彼女は来るだろうか。
もし来てくれたら、素直に謝るしかない。
彼女の怒った顔を思い浮かべながら、連絡先でも交換しておくんだった、と強く後悔しつつ目を閉じた。
翌朝、寝過ぎて痛い頭を抱えながら、朝食を食べにリビングに下りた。
普段は溜め込んだドラマを楽しそうに見ている母が、この日は珍しくニュースを見ている。
誰か俳優でも結婚したか、もしくは離婚したか。そうでもないなら引退発表か。
エンタメ好きな母が熱心にニュースを見るのは、だいたいこの3つのどれかだ。
興味無いな……
納豆を混ぜながら、ぼんやりと聞こえてきたニュースの内容に、心臓がドクンと飛び跳ねた。
『〇〇公園で発見された遺体は、◯✕学校に通う男子生徒で……』
〇〇公園で……遺体?
〇〇公園といえば、いつものあの公園の名前だ。
いや、でも男子生徒って言ってたから、大丈夫、ミカじゃない。
でももし事件に巻き込まれていたら……
急いでテレビの方に顔を向けるが、すぐに別の話題に変わってしまっていた。
「犯人まだ捕まってないみたいだから……透も気を付けるのよ」
こちらの視線に気付いたのか、母が不安そうに声を掛けてくる。
「……被害者は一人だけ?」
「そう言ってたけど?」
あーやだやだ、と首を振りながらキッチンに引っ込む母を見送りつつ、僕はミカのことを考えていた。
良かった、少なくとも彼女は大丈夫みたいだ。
でもこんな事件があったばかりじゃ、公園は封鎖かな……
僕の不安どおり、塾へ向かう道中もパトカーの数がすごく、もちろん公園は立入禁止になっていた。
教室でもこの話題でもちきりで、被害者の男子学生はこの近くの塾に通っていたらしいことも知った。
「ねえ知ってる?……なんだって!」
「うそ?ほんとに?」
「だってみんな噂してるよ、……が犯人だって!」
「やだー、こわーい!」
女子のうわさ話ほど耳に入りやすいものはない。
どうやらこの事件の犯人を知っているそうだが、どうも名前の部分だけがハッキリ聞こえない。
トイレに行くフリをして、噂をしている女子生徒の後ろをゆっくり歩いてみる。
「だから、みんな言ってるんだって!殺された女子生徒の呪いだって!」
「ほんとにあった事件なの……?」
「10年前だって、公園に埋められてたらしいよ!」
「だからあの公園ではよく行方不明者が出るんだって……」
馬鹿げた噂話だ、幽霊の仕業にすれば警察はいらない。
行方不明者だって、どうせ家出かなにかに決まってる。
そう頭では分かっているはずなのに、なぜかスッキリしなかった。
『殺された女子生徒』
授業中も全く話は入ってこず、ただ事件の事だけを考えていた。
帰りももちろん警察は大勢いて、公園内は未だ立入禁止のテープが貼られている。
急いで家に帰ると、着替えもせずにパソコンを立ち上げる。
『〇〇公園 女子生徒 殺人』
思いつくキーワードを打ち込んで、ヒットしたニュースのページを開いた。
確かに10年前、あの公園で殺された女子生徒がいるらしい。
今回の事件と同じく、塾の帰りに襲われたと書いてあった。
手の震えを必死に抑えながら、恐る恐る被害者の名前を読む。
『被害者の名前は吉岡美香、当時17才』
そこには聞き覚えのある名前が書かれていた。
いやまさかそんな、同姓同名の可能性だってある。
どれだけ必死に否定しようとしても、そこに貼られた写真を見て、疑惑は確信に変わった。
ミカだ。
写真に写っていたのは、僕が何度もまた見たいと願っていた、あのミカの笑顔だった。
噂は本当だったのか、信じられないが体験した僕自身が証拠だ。
ピコーン
『トール君、デートはどうだった??』
『詳しく教えろ!』
『どこまでいった?』
『警察のご厄介になってないだろうな?w』
全身の力が抜けるのを感じる。
この僕をたぶらかすなんてたいしたやつだよ……
ぼーっとスマホの通知を見ながら、力無く返信を打った。
『デートはキャンセルになりました……弄ばれてただけだったっぽい……』
ピコーン
『かわいそうすぎるww』
『今夜は残念会ですな……』
『さすがに同情するww』
『相手に見る目がなかったと思って次行こw』
せっかく女の子と仲良くなれると思ったのに、まさか幽霊だったなんて。
せめて写真でも撮って、思い出に残しておけば良かった……
ほんと、やっぱり僕みたいなガリ勉野郎は、こいつらと仲良くしてるほうがお似合いなんだろうな。
『だから女って嫌いです……!』
ありったけの想いを込めて送信する。
『恋人の作り方ぐらい必修科目に入れといてくれよ……!』
こうして、僕のウブな恋心は一瞬で闇に葬られることとなった。
彼女がどうして僕に声を掛けてきたのかは分からないし、この事件の真相が殺された女子高生の呪いだなんて、実際ただの噂でしかない。
ただの噂だから、その理由だって分かってないわけだし。
でも、もし噂が本当だったとして、ちゃんと約束通りに公園に行っていたとしたら、あの日死んでいたのは僕だったのか。
それはそれでゾッとするし、今となっては代わりに死んでしまった見知らぬ男子学生の冥福を祈る以外に出来ることは無い。
それでも僕にとっては、初めての女の子との触れ合いだったのも間違いなかった。
もしかしたら殺されずに彼女と仲良くなる方法も見付かったかもしれないし、
徹夜で予習した知識を使いミカを僕の虜にして、成仏するまで付き合う未来もあったんじゃないかな。
代わりに死んでしまった男の子は、どうしてミカに選ばれたんだろう。
もしかしてミカは僕と彼を天秤に掛けていたのかな。
だとしたら僕は、顔も知らないどこの誰かも分からない男に負けたということになる。
信じられない。僕はクラスで一番の成績で、模試の結果だって常に上位をキープしている。
そんな僕が、負けたのか?
いや、これはフェアな戦いじゃなかった。
だって僕はまだ2度しかミカと会ってないし、しっかり話したのは1度だけだ。
死んだ彼は、もしかしたらもっとミカと過ごした時間が長かったかもしれないし、もしかしたらすごいイケメンだったのかもしれない。
僕は決してブサイクじゃない。それは間違いない。
でも眼鏡のせいで顔が分かりにくかったかもしれないし、身長は残念ながら高いほうじゃないからそこも不利だ。
まあそれもこれも、もしミカが見た目で選ぶような人間なら、の話だが。
それにしたってやっぱりどう考えてもこの戦いはフェアじゃなかった。
だから僕は勝負に負けたわけじゃない。たまたま僕が選ばれなかっただけで、くじ運が悪いのと同じようなことだ。
無性に苛立つ気持ちをぶつけるように、僕はいつもどおり塾の課題に取り掛かった。
そもそも学生の本分は勉強だし、恋人なんて将来いくらでも作れるに決まってる。
絶対にいい大学に入って、一流の会社に勤めて、ミカなんかよりもっと綺麗な、生きてる女性とデートするんだ。
参考書のページをめくる音に紛れて、階下から母の笑い声が聞こえてくる。
ドラマでも見ているのか。そう言えば夕食がまだだったな。
思い出したように立ち上がり、リビングに向かう。
用意されたカレーを食べながら母の笑い声を聞く僕の頭からは、もうすっかりミカの存在は消えていた。
もうすぐ夏休みか、夏期講習で忙しくなるな。
そんな事を考えながら、頬張りすぎたひと口を水で流し込んだ。




