【口裂け女】其の二 ー霧ー
空はまだ暗く霧雨が降り霧に満ちていた。そんな中、無空は静かにたたずんでいた。しかし静かとはいいがたかった、周囲はサイレンが鳴り響き警察が慌ただしく動き回っていた。そんな中、制服姿でいる無空は異様だった、ここは小学校の通学路の一つ、だが今はKEEP_OUTのテープによって塞がれている。
無空は、警察たちの集まる中心へと歩いていく、すると一人の警察官に呼び止められる。
「そこの君、KEEP_OUTのテープが見えなかったのかい?早く出てって、」
そう言われた無空は、何も聞こえなかったかのように警察官の隣を通り過ぎる。再度呼びかけようと、した警察官が同僚の警察官によって止められる。
「何するんです?」
「あれは、都市伝説管理委員会の人だ、つまり俺たちの範囲外ってことだ」
「都市伝説管理委員会?」
そう疑問を零す警察官に、同僚の警察官は、ため息を吐きながら答える。
「そう言えば末端のお前には伝えられてなかったな、今回の事件、おかしい所が沢山あるだろ?そういう化学じゃ証明出来ないような超常現象によって起こされた事件、都市伝説専門の管理委員会だ。」
そう言われ警察官の脳裏に今回の事件についての情報が浮かび上がってくる。前触れのなく突如として現れた死体。推測された凶器の大きさ。圧倒的情報量の少なさ。
「今回の事件がその…都市伝説のせいって言うんですか?」
「分からん、だが都市伝説管理委員会の人が出るっていうことはそういうことだろう。」
「そうですか…でも本当にしんじて良いんですか?」
「さぁな、俺たちは上に従うだけさ」
無空は携帯を取り出すとある電話番号に繋いだ、そこには〖☆会長☆〗と書かれている。三回ほどコールが鳴り響き、『おーい、むーくん聞こえる?』そんな明るく元気な少女の声が響き渡る
「聞こえますよ、会長。朝っぱらから、こっちは三徹なんですよ、もうすこし声を抑えてください。」
『ははは、ごめん、ごめん。で、むーくん。被害者ていうか、犠牲者の様子は?』
今までの陽気な声とは違い、真剣さを感じられる声に同じく真剣みを出しながら話し出す。
「ええ、酷いものですね」
そう言いながら警察の集まっている中心に向かって歩き出す。
中心にいる警察たちの顔は真っ青になっており見ないでもその惨劇の恐ろしさ伝わってくるようだった。
「今回で13件目だそうです」
『うわー何でもっと早く気づけなかったんだろう』
今回で十三件目、なんの前触れもなく虚空から現れる死体、犠牲者は小学生に絞られ、常に犠牲者の口が裂かれ、血が口紅のように口についていることから通称[紅色連続殺人事件]。余りにも不可解な点が多く、確固たる証拠も、犯人像すら特定できないことから、箝口令がしかれていた。
「まあ、仕方ないですよ。俺たちは噂が広がってからしか動けませんからね」
『で、どんな感じ?』
「ていっても会長の事だから見てるんじゃないんですか」
見てる、それは会長の能力に関係している。会長は、あらゆる
場所を監視する能力、いわゆる『千里眼』と言われるものを扱っている。そのため都市伝説の発見、監視においては会長のみぎにでるものはいない。他にも会長は、様々な能力を持っているのたが、それはまた別の話
『まあね』
そう言って無空は虚空に目を向ける
『うん?そっちじゃないよ?』
「・・・・」
誤魔化すように中心に入っていく、中心に近づくにつれ血と鉄の匂いが強くなっていく、中心にいたのは、やはり死体だった。死体・・・・・・それも小学生の死体。見るだけで吐き気がくる光景だった。体はめった刺しに切り裂かれており血に濡れていた
そして何より酷いのは顔だった。元の顔がわからないほど切り裂かれていた、唯一綺麗に残った口は、耳元まで切り裂かれていた。
「・・・まあそんな感じです、死因は、大量出血による出血性ショックでしょう。」
『うわー酷いね、見たくないなぁ、でも見ちゃう。後で写真とってね』
「なんでですか・・・・」
『資料作り』
「はぁ……」
「最近、流行の去った都市伝説が具現化して騒ぎを起こすってことが多くなってきたからね」
『で、どんな感じ警察は?』
「捜査は難航しているようですね、何せ犯人と思われる人の髪をDNA鑑定したら機械がぶっ壊れたらしいですよ」
『あはははははははっはは』
「はぁ、笑い事じゃないんですよ、それにハイヒールを履いているらしく、身長が2mあるそうです。」
『人間じゃないことは確定したね』
「ええ、まぁ大体正体がわかりました」
『ん、聞かせたまえ』
「・・・・はぁ、まあ最初から気づいてましたけど絶対【口裂け女】ですね」
『んーそのとーり』
「なんで、そんなに偉そうなんですか・・・・」
「なんで、そんなに偉そうなんですか・・・・」
『偉いからね!』
そんな風には茶化してくる会長にたいして深くため息を吐くと
再び虚空を見つめその場を離れた・・・。
『【口裂け女】か・・・何で今さら出てきたんだろう』
「大方、誰かが噂でも流したんでしょう、そうやって生まれたんでしょう」
KEEP_OUTのテープを乗り越え、道路沿いを歩く
『うーん、私は黒幕を疑うね』
「黒幕って・・・・いませんってそんなの」
そうやって会話が続いていくのだが不意に電話にノイズがはしった。“ザザァ、ザッ、ザザザザ"
『きこえる?』
荒々しいノイズにさいなまれながらも会話を繋げる
『そうそう、被害者の名前、なんていうの?』
「え?あぁえーと中村 智輝小学5年生ですね」
その言葉を聞き会長は、無空に忠告をする。
『今回の任務はあくまで捕獲だよ〜、消しすぎないようにね』
「・・・・・・わかってます。ノイズが強いですねそろそろ切りますね」
『あ、そうそう【口裂け女】一人じゃないからね』
「え?」
最後の言葉は強いノイズに遮られ無空に届くことは無かった。
助かった・・・・・・・・・そう思うと力が抜け涙が出てくる。年甲斐もなく泣きじゃくる渉に、無空はそっと近寄り背中をさすってくれた。とても安心感に包まれる。だが安心は直ぐに消え去ることとなる、希望は絶望に、安心は恐怖に、塗り替えられていく、渉の目が驚愕に見開かれる。鋏を今にも振り下げようとする【口裂け女】の姿がそこにはあった。
その瞬間、鋏を振り下げようとした【口裂け女】は、仰向けになり青空を除くことになった。後ろに目があるかのように俊敏に背負い投げを決めた無空は、そのまま【口裂け女】の手を掴み、能力を発動させる。
〖名前なき霧と限りない空虚〗
何かありそうで何も無い、霧であって霧じゃない、そこにあるようでそこには無い、始まりでもあり終わりでもあるような奇妙な霧、空っぽで底のない穴を見続けるような空虚な霧。見るだけで頭が真っ白になっていくような、頭が真っ白に塗り替えられ全て白紙に戻されるような、矛盾した霧。
その瞬間、【口裂け女】の手がゆっくりと消滅していく、周りに溶けるかのように、消しゴムで消すように、存在が薄れていく、霧は手からだんだん腕へと上がり消滅させていく。
【口裂け女】と渉の目が見開かれる、【口裂け女】は、自らの片腕を切り落とし、霧がこれ以上消していくのを防いだ。だが霧は、【口裂け女】を離さず少しづつゆっくりと肉体を消していく。
だんだん消えていく体に動揺し必死に暴れる【口裂け女】の頭を掴み電柱へと叩きつける、ゴンッという生々しい音が響く、常人なら致命傷だが【口裂け女】は生きている。それを確認した無空は、更に霧を増やす。
「〖雲散霧消〗」
その言葉を合図に霧が更に増殖する、増殖した霧が腕を、足を、手を、内臓を、体の部分を消してく、霧は【口裂け女】の四肢を完全に消滅させた後、空気に溶けるかのように消えていった。無空は木の子箱を取り出し、四肢を失った【口裂け女】に向ける。するとその木箱は瞬時に大きさを変え【口裂け女】を吸い込み元のサイズへと戻った。
「都市伝説【口裂け女】…無力化成功。」
そう言い無空は、手袋の汚れを払い、再び少年に近づいてきた。
「今度は、大丈夫なようだな、えーと何くんだっけ?」
「渉です!」
名前を全く覚えていない無空に少し冷めた目線を向ける、全く詫びれていない様子の無空は、そうそうにきりあげた。
「そうだっけ?まあいい、いくぞ」
「え、どこへ?」
そう言って、二人は歩き出す、終わりの見えない道を、異界と化した通学路を…
30分ほどたったころだろうか・・不意に思い出したように携帯を取り出す、そして〖☆会長☆〗と書かれた電話番号に再び電話をかける。響き渡るコール・・・・しかし誰も出ない。諦めかけたその時だった。
『ぶるるるるるるるるるるる』『28661089』誰とも分からない電話番号から電話がかかってきた。
(誰だ?)
何故こんなと時に?そんな疑問よりも不気味さを感じるこの電話番号に警戒心を隠せずにいた。この異界に迷い込んだ状況でかかってくる電話、あきらかに罠、だがただでさえ情報が少ない、この時に電話に出ないなど愚策、・・・・・そう思い電話を受ける
「もしもし・・・・・あなたは?」
『え?俺?ははははははhそんなことどうでもいいじゃん!』
男か女か分からない声で、話す相手・・・・・そんな相手に違和感を覚える。
違和感・・・・それが何なのか分からなかったが人ではないことは明らかだった。
『まぁ、とにかく、君たちはここから出られません・・・・・あははははははははははははははっはあははははははっははははっはははははははっはhhhhhh』
甲高い声が辺りに響き渡る、それは………渉にも聞こえていたらしく。不気味以前にその声に、聞きおぼえがあるのか、青ざめながら震えていた・・・・・
「どういう事だ・・?」
『どういう事かなんて・・・・・ただの遊びだよ!僕の楽しいね!』
『まぁ、頑張りたまえ、これは、ゲームなんだ!君たちは、この化け物が彷徨う異界を脱出できるのか!?僕は応援してるよ~ああっははははははははっはははははhhhhh』
ブチィ、荒々しく切られた電話のノイズが酷く耳元に残った。
今の人物は俺たちをこの異界に呼び寄せた者と考えていいだろう、無空は当然の状況に戸惑いながらも思考を続ける。つまり今回の紅色連続殺人事件の黒幕は【口裂け女】ではなく今の人物ということか?いや、実際に事件を起こしたのは【口裂け女】なのだろうが。
電話が終わり、少したったあと、おどおどした様子の渉が話しかけてきた。
「あ、あの?大丈夫ですか?」
「ん、どうした?」
「い、いやあ、あの電話の人は・・・・知り合いなんですか?」
「いや、別に・・・」
「そうですか・・・・・」
渉の様子に違和感を覚える、しかしそんな疑問を持つより、鎌が飛んでくるほうが早かった。
ガキンッ!隣の電柱に突き刺さる鎌・・・・
一瞬反応が遅れるが何とか避ける、そこには、倒されたはずの【口裂け女】がいた、霞がかかった頭が冴える、脳裏にはあの【口裂け女】の顔が浮かぶ、しかし先ほどの【口裂け女】と違う点がいくつもあった。
先ほどの【口裂け女】と違い、真っ白なワンピースに身を包んでいた、そして何より先ほどの【口裂け女】とは違い車にひかれたような跡を持っていた。服の至る所にタイヤの跡があり片方の腕は逆に曲がっていた。
先ほどまでとは、全く違う【口裂け女】に驚きを隠せないでいた。
「一人じゃないだと・・・会長、何で重要なとこ言わないんだよ・・・・。」
そう悪態をつくも状況は一切変わらない、再び拳を構え、【口裂け女】と向かい合う
そして、【口裂け女】は、マスク越しでも分かるほどニッタリと笑うと、再び鎌を持って斬りかかった、方向が、逆に曲がっている腕は、もはや人間の動きをしておらず、電柱を貫き、鎌を握り潰すほどの握力を持ち合わせていた。
次々と迫る攻撃を的確に避けながら、反撃の一手を探す、しかし、さすがは、バケモノということだろうか、隙を一切入れずノーモーションで攻撃を連続で繰り出す。
それもそのはず、都市伝説に伝わっている内容によれば、高速に動き、百メートルを六秒で走り空中に傘で浮かぶという
そんなバケモノである。【口裂け女】は、懐からメスをいくつか取り出すと、それを投擲した。投げられたメスは、真っ直ぐ渉に向かって飛んでいった。
しまったッ、無空は、再び霧を出現させ渉に向かっていったメスを消し去った。
これは・・・・・少しキツいな・・・・あれを使うか・・・・しかしそうポッケの中の物を触りながら考える、しかしそんな暇を与えない【口裂け女】は、ポッケに入った腕を確実に狙い鎌を振り下げた。
無理矢理体制を変え、鎌を避けがら空きになった【口裂け女】の腹に正拳突きを喰らわせる
(どうしよう、このままじゃお兄さんがっ)
見るだけしか出来ない渉は、その事に悔やみながら見るだけだった。
【口裂け女】についての情報を頭の中で探っていく、不意に【若瑠羅徒穂手符】《ニャルラトホテプ》くんの言葉が頭に浮かぶ
『【口裂け女】はね、犬が嫌いなんだって、あんなバケモノが犬を嫌ってるんだよ、おかしいよね。』
・・・・・・・・そうか!
「犬が来た!犬が来た!犬が来た!」
渉は、そう言いながら無空の腕を掴み逃げ出した。
回り込まれることなく逃げ出すことが出来た。
【口裂け女】は、酷く怯えた様子を見せ、しかしいないとしると、無空達を追いかけ始めた。
無空は、渉を抱えて走る、百メートルを六秒で走る【口裂け女】には、及ばないがそれでも常人よりは、10倍は、早く走っていた。
「お兄さん・・・・もう少し運び方ってもんがあるんじゃないかな」そう言うのも仕方ないだろう、脇腹に挟んで走ってるのだから、ジト目で話す渉に、無空は苦笑いをしながら返す
「仕方ないだろう、非常事態なんだから」
そんな話をしている中も【口裂け女】との距離は、確実に近づいている。
隠れる場所を探さなくては、渉を抱えながら走る中、同時に逃げ場所も探っていく、そう考えるも住宅街が広がるだけ路地裏もなく、隙間なく敷き詰められた家があつまってるだけだった。その家は、どれも鎖と錠前に閉ざされており全ての家にそれがついているからあまりにも現実からは、ほど遠い光景だった。牢獄・・・・不意にそんな考えが浮ぶ。
しかしそんな中一つだけ錠前が壊れた、家があった。その家は、廃墟だろうか?人が何年か手入れしていないことが分かるほどボロく所々コケが生えていた。こんな都合の良いことがあるか普通?しかし入らぬ事にはならないか、疑問を持ちながらもそのままその家に入っていった。
古くなってボロボロになった表札には、″三原家″と書かれていた。その家は、やはり何年も人が入っていない事が分かっていたが
それにしては、外見と違い内装は綺麗に残っていた、しかしテーブルに巻き散らかされた書類、イスは倒れ、大量の化粧道具や、ほつれた衣類が大量に散らばっていた
「酷いな・・・・」
そうとしか表されない程の惨状に思わず呟きがこぼれる。
とりあえず、身を隠そうと家の中を調べて見ると、一つの書類に目がとまった、それには、“医療事故報告書”と書かれていた。
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1979年 2月23日 ※※※県@**&&市*※♯町&*※&番地
整形外科
三郷整形外科 **※*@*県*&※*@市&♯&&町@ー@@*番地
医療責任者 田中 啓一郎 担当医師 多里橋 見下
女性 26歳
&♭♭、~】~』】】】『*::@!~!??!_???~:??@
結果 医師の不注意による患者への傷害 口元を大きく裂ける結果となった
管理者の手により担当医師の多里橋を解任、患者へと慰謝料
払った。
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これは・・・・・・・・医療ミス?それに口元を大きく裂ける結果だと・・・・・これはまるで【口裂け女】のようではないか、その書類の隣には、もういくつか書類を見つけた。
自賠責保険金支払い請求書、交通事故証明書、事故発生状況報告書、診断書、診療報酬明細書、そこに共通して書かれていた名前は、先ほどの女性の姉妹だろうか?そんな名前が書かれていた。 そして診断書には、先ほどと同じように口元が大きく裂けたと言う結果が書いてあった。書類にはってある写真には、白いワンピースに身を包んだ少女の姿だった。