出会い
私こと橘祐樹は自分でいうのもなんだが、およそ普通とは程遠い高校生であった。
幼い頃に父親を強盗に殺され、俺自身も数週間意識不明の状態で生死の境をさまよった。
その時から俺には不思議な力があるのだ。
普通の高校生では持ち得ない、不思議な力が。
「眠い…眠すぎる。この世はどうして朝と夜があるのか、嗚呼眠い。」
祐樹は今にも閉じてしまいそうな瞼を無理やり持ち上げながら桜並木を歩く。
この道を行くのもだいぶ慣れた。
高校生になって2年目の春。私橘祐樹始業式に向けこの長ったらしい通学路を行くのであります。
春。それは始まりの季節。
4月2日、今日は始業式の為に学校へ向かう。今日から高校2年生となる祐樹。
桜が咲き誇る並木道を抜けると彼が通う私立明峰学園高等学校が見える。
「よーっす!」
祐樹の後ろからうるさ過ぎる挨拶が聞こえた。と、同時に頭に衝撃を受ける。
「相変わらず朝に弱いのかー!?大丈夫かー!?」
声の主は同級生の本橋大介であった。
「朝に弱いのはそうだがそれよりもお前の手荒い挨拶の方が辛い。意識が飛びかけた。」
祐樹は涙目になりながら怒りの視線を大介に向ける。
「今日から高校2年生!!元気出していこうぜ!また同じクラスだといいな!先行きぜ!じゃあな!」
そう言って大介は走り去って行った。
やれやれ全く忙しい奴だ。
大介はうるさいが悪い奴ではない。
祐樹はため息と欠伸を同時に出すという器用な事をしながら校舎へ向かうのであった。
暫く。
張り出されたクラス表を確認後新しい教室へ向かう。
教室へ着くなり大介の奴がまた同じクラスになったなと祐樹の背中を叩きながら声をかけてきた。
「なかなかどうしてお前のデカイ声からは逃げられないようだ…。」
ストレートに嫌味を言ったつもりだったが大介は意に介さずドッと笑うだけだった。
暫くして担任であろう教師が入ってくる。
「おはようさん。このクラスの担任の上本だ。よろしく。」
簡潔な自己紹介だったが彼の身体は筋肉の鎧かというほどゴツくそっちが気になりしょうがなかった。
「これからすぐ始業式なんだが、その前に。」
と言って入れ。と教室の外に声をかける。
教室のドアが開けば恐ろしく綺麗な少女が入ってくる。
祐樹は一瞬で心を奪われた。
初恋である。
肩まで伸びたサラサラの黒髪。全てを見透かすような大きな目。薄く色付くピンク色の唇。
全てが衝撃だった。可憐でお淑やかそう言った言葉がぴったりの完璧な美少女がそこにいた。
「クラス分けの表にはなかったが、昨日急遽転校が決まってな。転校生だ!自己紹介よろしく。」
担任の声で我に返った祐樹だが視線がその少女から離れない。
「転校生の白鳥楓です。今日からよろしくお願いします。」
あぁ、なんて綺麗な声なんだ…。
祐樹の頭は彼女の事でいっぱいになってしまったのであった。
「じゃあ始業式だから全員体育館へ行けー。」
担任の声が祐樹の思考を呼び覚ます。
クラス全員が各々立ち上がり体育館へ移動しようとしている中。
しかし祐樹は一瞬強烈な、そして寒気を伴う視線を感じた。
可憐でお淑やか。そう言った印象を持った少女から。