第二十九話 おわりのおわり
「……新菜。状況は?」
目を覚ます紬。
顔は痛みにしかめっている。静かに抱えたつもりだったが、傷に障ってしまったらしい。
「しゃべらないで。悪化する」
新菜は紬たちを地面に静かに下ろし、後ろを向く。
白衣の男が立っていた。
「二十人も向かえば焦土になると思ったが……しぶといな、お前ら」
男はポケットからカードを取り出す。
新菜は静かに立ったまま、男の方を見る。
「見に回るか。なるほど、単純に強いわけだ」
「あなたが黒幕といったところですか。剣野灯」
紬は白衣の男――剣野を睨む。
「ご明察だが……いいのかい? そこの嬢ちゃんが言ってたとおり、相当の深手に見えるがね」
「心配無用です。ちゃんと図ってのものですから。しゃべる程度で致命傷になる場所ではありませんし、最低限生きていれば後はバイタルが解決します」
「まあ、おかげで面白いデータも取れた。目的の品物も見つけられた。しくじったとは思ったが、間抜けが相手にいて助かったよ。本当にうまくいった」
新菜は剣野を観察する。
手札が見えない。
剣野は悠々とカードをポケットに仕舞う。
「じゃ、このデータと秘石を持ち帰らせてもらうか」
剣野が新菜ににじり寄る。
「そううまくは行きませんよ。新菜はわたしを守ると言ってくれました」
「ほう? ただの新顔だろ?」
「新菜はあなたが思っているよりはるかに硬いです。今を持って、わたしの守護者に任命します」
「審査はしないのかい? 自分の立場の重さがわからんわけでもないだろうに」
「そんなもの、あなたの差金で済みましたよ。彼女に任せれば、少なくともわたしよりも確実にあなたを抑えられます」
紬の言葉に、新菜は心強さを感じる。
――うん。あたしがやれるだけやらなきゃ!
落ち着いて剣野の動きを見る。
一歩、二歩、新菜のリーチと出方を伺っていた剣野が、一気に動いた。
「ふん。それならこっちから行くぞ」
走り寄り、手刀を新菜に当てる。
当たりは軽いが、動きはスムースだ。
ひらり身をかわす新菜だが、動きの先をとられ、地に返される。
「合気を餓鬼の頃にやっててね。考え方は嫌いだったが、案外使いではあるもんなんだ」
新菜の腕を取り、固める。
「合気って、受け専門じゃなかったかしら?」
新菜は外しにかかった。
「よく知ってるね。実力がある理由がわかる。確かにそうだが――」
超能力の助力を身体に回し、地を打って跳ね上がり、支えを無くした剣野の腕から逃げる新菜。
「そういうところが嫌いだったんだ。考え方が嫌いと言ったろう!」
転身のまま着地に入る新菜に近寄り、再び当てに来る剣野。
強引な力に頼らない分、パワーは放出されず、その分が気配の回りに集まっていく。
――このタイプはまずいかも……。
新菜は徹底して受けに回る。
下手に合わせに行くのは、分が悪かった。
「超能力者で争うのもいいんだが、下手に手を出すとこちらが悪者さ。いっそ割り切るまでは随分辛酸を嘗めてる気分になったよ」
新菜に合わせ、抑え、当てていく剣野。
新菜は動きを見きれないまま、押されていく。
こちらも動きの無い分、パワーが溜まっていく。
「媚びへつらって、なったのは重要な協力者止まり。我ながら馬鹿げてるね」
やがて、剣野のパワーが一気に高まる。
――さっきのが来る!
新菜は身を固める。
「おっと。力が入るとその分こっちに有利だ」
剣野は仕切りなおしに初めて大きなパワーを使い、それを利用してエンハンスに入る。
「君の言う『受け』にはね。力みも入るんだよ」
新菜の力の入った身体を崩し、電気を走らせる。
「あうあっ!」
感電のショックに反射的に叫ばされる新菜。
「こっちの方じゃ僕の有利は絶対に揺るがない」
剣野は当身と電撃で攻め立てる。
「今のうちに決めさせてもらおうか!」
「ううっ!」
電気ショックに、新菜は再び呻き叫んだ。
その時、新菜の身体にもパワーが溜まりきる。
――この感じ、初めてだわ。
身体の中を、満タンになったパワーが出口を求めてぐるぐると回っていた。
その動きは、新菜にある決断を促す。
「すべてを任せます!」
紬の声にも後押しされ、新菜は身体に力を入れる。
「全力で、ぶつかってやる!」
新菜は殴られながら、パワーラインを一気に開放する。
出たがりのパワーたちは、パワーラインを通って体の外へと逃げていく。
「出来るってなんわっ!」
紬の一言に発されるはずだった剣野の声が、その逃げ出したパワーに押され、止まる。
吹き飛ぶ剣野を一旦無視し、新菜はパワーの動きに全神経を注ぐ。
――身体を繰るのと同じ事……。
新菜はそう結論づけ、パワーを身体の一部として捉え、パワーをパワーラインに捕らえる。
トンファーと彼女の関係と同じだった。
道具、あるいは武器。
何より、大切な体の一部。
新菜はパワーを身にまとい、安定させる事に成功した。
エンハンスの完成だった。
新菜は身体に走るパワーを赤く光らせつつ、剣野に走り寄る。
「なんでそんなに出来んだお前!」
狼狽える剣野の胸ぐらを新菜は掴む。
「昔っからずっと見つからなかったものが見つかったからよ」
受けに回る剣野が対応の投げを見せる前に、
「砕けろッ!」
新菜は剣野の身体にパワーをねじ込み、そのまま体内で砕けさせる。
得意な超能力にしっかりパワーが乗り、剣野は受けを全く実践できない。
――そう。あの時のあたしと紬は同じ。
新菜はそのまま剣野を蹴り上げ、飛び蹴りを放つ。
「終わらせるッ!」
超能力で飛び蹴りを繰り返し、立ち位置を入れ替えて地面から剣野に突きを叩き込む。
――無理して、自分の意志を突き通して、八方塞がりになってた。
そのままトンファーを左右から当て、距離と残りのパワーを図り、
「弾けろッ!」
最後の一撃を剣野に見舞った。
――あたしはそんな人を守りたかった。
「新顔相手に……」
バイタルを全損し、気絶する剣野。
――だから、手助けのために選んだのが空手だった。
新菜は残心をしっかり、動かなくなった剣野を警戒していた。
「……おわった、のよね?」
「ええ」
力の抜けない新菜に、静かに答えた紬が、新菜に脱力を促す。
「病院へ連れて行ってください。……平気でも痛いものは痛いんです」
次回は6月2日更新予定です。
05/26追記:フォーマットミスから段落わけなどに問題が発生していたため、書式を整えました。本文に変更はありません。




