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超能力の守護者  作者: プラナリア
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第二十五話 おわりのはじまり・2

 追撃に現れた相手は、一気呵成に畳み掛けに来た。

 デニムシャツの男を中心に、先の相手と同じくセレナに飛びつく。

 迎撃に入った新菜たちだっただが、高く飛んだ一人を通してしまう。

 落下の勢いにしっかり体重を乗せた蹴りが綺麗に入り、後ろに倒れるセレナ。

 全員セレナの方を見ようとするが、敵はそれを許さない。

 新菜の前に立ったデニムの男はフットワークも軽く、メリケンサックをはめた拳を的確に打ち込んでくる。

 ――まずいわね。数は向こう有利、付け入る隙もまだ見えない。

 合間を縫って皆の動きを確認したい新菜だが、そう簡単に余裕を持たせてはもらえなかった。

 その理由は相手の超能力にある。

 磁石か何かを仕込まれているかのように、身体が男の方へと引き寄せられる。

 対抗する新菜の方も、超能力のおかげで勝手が完全に狂う事は無かったが、拳の届く、動きやすい距離を維持し続けられるのもあって余裕がない。

「シュッ!」

 音になるほど強く息を吐きつつ繰り出される拳が、新菜にとって嫌な間合いで飛んでくる。

 かわし、受け、間合いの調整を測り、新菜はなんとか自分の動きを取り戻そうとしている。

 ――新菜も捕まりましたか。

 紬は七首(ひしゅ)を構える女性相手に難儀していた。

 女性はメリケンサックの男とは違う意味でよく動く。

 鎌のリーチの更に外を確保し、小さな隙を綺麗に縫うように突いてくる。

 ――どの相手も手馴れています。

 メリケンサックと違い隙を穿つ戦法なので、紬はそれを逆用して周囲を確認するタイミングだけは得ているが、そこで垣間見られる状況は厳しいものだった。

 弘美は支援が専門だが、近接戦闘も出来なくはない。

 が、出来なくはないレベルなので、目の前の相手にきっちり押されている。

 対する腕の立つ新菜はメリケンサックの男に文字通り引きつけられている。

 切絵も二人に挟まれて満足の行く立ち回りとはなっていない。

 一番ひどいのはセレナだ。飛び蹴り一発で大勢が決まってしまい、今はいいようにやられて、バイタルが減る一方の戦いを強いられている。

 出来る事ならセレナの助けに回りたい紬だが、今は相手に動きをえられてしまい、それが出来ない。

 匕首が腕を掠める。

 身体を通った部分はバイタルがその量を減らしつつ傷を癒やすが、服にははっきりと傷が残り、熱い痛みも紬を襲う。

 ――逆転の一手を……。

 それでもなお先を考え始めた紬へ匕首が飛んで来る。

 ――本当に慣れていますね。全体を考えるのは無理です。

 紬は周囲へ注意を向けるのをやめ、目の前の女性と匕首にだけ目を向けた。

 ――一対一で遅れを取るほど、わたしは鈍らではありませんよ。

 二度三度、前に出ては差し込まれる攻撃を防ぐ事を繰り返す紬。

 少しずつ、動き出しを変えていく。

 彼女の頭に入る情報は、何をどのタイミングで女性が受け取っているかだ。

 そして、それを煎じ詰めれば、相手が何を判断基準にしてカウンターを狙っているのかがわかる。

 ただそれだけに集中し、絞り、測り、推定した紬は、一度博打に出る。

 前に出ている左の足をぐいと伸ばす。

 重心が一瞬前に出た途端、女性は紬に匕首を伸ばしてくる。

「かかりましたね」

 紬は伸ばした足を後方へ蹴っぱり、全身を後方へ下げた。

 女性の初動だけ確認する紬。

 さっき前に出た位置で空を切る匕首。

 後ろに引いていた鎌を振り上げる紬。

 そこから切り伏せ、転移能力で倒れこむ相手の下から鎌を突き出し無理やり追撃に持ち込みながら、紬はセレナの方を見る。

 されるままに蹴り飛ばされている彼女のバイタルが切れるのを確認し、ぎりと奥歯を噛み、女性にもう一度直接鎌を叩き込む。

 ――間に合いませんでしたか……。

 女性を見据える紬の目には、怒りの炎が灯っていた。

 

 セレナのバイタルが完全に切れた瞬間、新菜はようやく男の攻め手を抜けた。

 声にならない動搖を見せながらも、新菜は受け身を取るなり男に猛攻を浴びせる。

 拳自体は読み切れるようになっていた。

 しかし、身体を引きつけられるのが厳しかった。

 攻撃を防ぐだけであれば如何ようにも手段があるが、その後は再び男の拳を防ぐ事になり、守り一辺倒の戦いが続いていた。

 そこで新菜は、殴り飛ばされる事にした。

 事によっては悪手となるが、セレナが倒れた今となっては四の五の手を検討した事のほうが悪手になってしまっていた。

 ――ここを抜けないと、何も始まらないじゃない!

 今更になった事実で自分に鞭を打ち、新菜の動きが変わったのに気づいて守勢に回った男の防御を、あえて予備動作を大きくしてまで威力を上げた双手(もろて)(かぎ)突きでこじ開ける。

 ――視野が狭い! 防御を完全に打ち破る一撃に昏倒する相手にしっかりとダメージを叩き込みながらも、新菜は自分の問題点ばかりを考えていた。

 ――こいつに勝つんじゃなくて、ここを全員で抜けないと意味が無い!

 身体は流れに沿えば動ける。

 最初に紬の動きを見きれたのも、男の動作を見切れてはいたのも、人体の動きには拭いようのない流れがあるからである。

 超能力の恩恵で常人より遥かに流れの影響を受けずにいられるが、それでも確かに普通のセオリーが残っているのは、今までの戦いで学べていた。

 現に、新菜が殴り飛ばされたのは、人体の当然の構造、身体は既に身体として存在している以上、大きく伸び縮みさせるのは特殊な条件がなければ不可能という、基本中の基本に則って、その伸びるリーチのはるか先に転がり出るための手段だった。

 紬のような超能力を身に着けている可能性があるとしても、打つ価値のない手ではなかった。

 ――単純な手なのに、目の前の拳が防御できるからって、あたしは考えさえしてなかった!

「弾けろぉぉぉっ!」

 新菜の身体に、赤い光が灯る。

 前回と同じ流れで超能力を確実に発現させるために発した言葉は、痛々しいまでに強く響いた。

「新菜! 弘美の援護に!」

 紬がダウンした女性の腹に鎌の柄を突き立てながら叫ぶ。

 優勢を得る事で生まれた余裕が、彼女に次の作戦を取るタイミングを与えた。

 ――数的には不利になりますが、新菜ならやってくれるはずです。

 信じ、視線を切らずに気配だけを追う。新菜の気配は吹き飛ぶメリケンサックの男を無視して弘美の元へ移動していく。

 セレナを仕留めた相手も弘美の方へ向かっているので、数の上では三対二だ。

 しかし、新菜を含まない二体一よりは遥かに動きやすくなるだろう。

 パートナーがいる時、弘美の得意な超能力が真価を発揮するのを、紬はよく知っている。

 自分はまだ動けない。

 誰も彼もが一箇所に集まって混戦になった時、新菜のように対応出来る自信が無い。

 自分も合流するか、新菜のみ合流させるかを天秤にかけると、後者のほうが重くなるという判断。

 女性が立ち上がり、目の前にいる紬を斬りつける。

 紬はこれを鎌の柄で受ける。木の柄ではないので、匕首の刃で簡単に切られる心配はない。

 一瞬押し合い、女性が匕首を振りぬく形で均衡が崩れる。

 女性に押され、地面を滑る紬。

 女性はカウンターを取られた事から作戦を変え、インファイトに持ち込む。

 紬の鎌は、大きすぎるのが弱点だ。

 目の前の相手に振るうためには持ち方を変える必要がある。

 それ自体はすぐにできるが、動きの速さには差がでる。

 押される紬。

 更に地面を滑る。

 匕首を上から下から差し込みに来る女性。

 しかし、匕首は元々単純な斬り合いより、隠し持っての暗殺に向いた武器である。

 刃は包丁程度の長さしか無く、器用に柄を利用する紬に、今一歩届かない。

 しかし攻め手は成功している。

 紬はクリーンヒットを貰わないために、刃を防ぐ事に注力している。

 そのせいで、攻めに転じづらい状態が続いている。

「いつまで続けるつもり?」

「反撃できるまでです」

 女性の挑発じみた言葉に冷静に言い返し、冷静に刃を止めていく紬。

 ――じれてきていますね。

 冷静に相手の心境を汲み取り、防御の意識を強くしていく。

 女性の顔が険しくなる。

 紬は待つ。

 女性は動く。

 紬は防ぐ。

 女性の腕が、大きく振りかぶられる。

「根比べはわたしの勝ちです」

 攻撃に移るまでの時間が長くなった分、紬は動きやすくなった。

「これで終わりにします」

 紬は、自分に向かって断言するように静かに言って、柄の先端で軽く女性を突く。

 腕が高く上がった影響で綺麗に前が空いた肩口に打突を受け、女性は腕に入れた力を緩めてしまう。

 バイタルで守られ、すぐに回復するとはいえ、痛みを発する瞬間は肉体にダメージが入っている。

 関節は簡単なダメージで強い影響を受けてしまう部位だ。

 新菜にそれで抑えこまれた経験が生きた。

 女性の腕は力なく下に落ちる。

 その間に鎌を持ち直した紬は、上段から一発、鎌でざっくりと女性を叩く。

 裂傷にはならないが、その分体勢は大きく崩れる。

 そこへ振りぬかれた鎌が翻され、女性を斬り上げる。

 紬の身体に赤いパワーラインが走る。

 紬が鎌を地面に突き刺す。

 鎌が空中から忽然と現れ、斬り上げられた女性を上から斬り落とす。

 紬は突き刺したまま、鎌を振るう。

 鎌が地面から生え、叩き落とされ地面に倒れた女性を下から斬る。

 紬が刺さったままの鎌を更に動かす。

 空中に鎌が生え、女性を下へと斬り落とす。

 紬が地面をかき混ぜる。

 地面から生えた鎌が女性を斬る。

 紬が動く。

 鎌が空中から女性を襲う。

 バイタルが刈り取られる。

 紬は深く息を吐く。

 身体からパワーラインが消えた紬は、あたりを確かめ、切絵がかなりバイタルを削られているのを見て、彼女の援護へ向かった。

 

 新菜は弘美と合流してから、三人を相手に余裕のある戦いができていた。

 ――もっと早ければね……

 後悔の念を抱けるほどに。

 弘美が地面を叩く。

 そこから黒い剣が生まれ、メリケンサックの男へ一直線に伸び、顎を穿つ。

 新菜は今まで弘美が苦戦していた、棒を振り回す女に神経を集中させ、構えを整えた際に生まれた一瞬の隙を突き、懐へ飛び込んで掴みかかる。

 その間に弘美は最初に撃った罠のような縄をセレナを踏み倒した男に当て、拘束に成功する。

 即座に女を投げ飛ばし、弘美と一瞬視線を交わした新菜は、メリケンサックの方へ向かう。

 投げられてはそう簡単には自由に動けない。

 超能力者の恩恵を生かして猫のように姿勢を立て直したところへ、弘美のハイキックが飛んでいた。

 新菜は気配と音で弘美が不利でないと判断。

 メリケンサックを仕留めにかかる。

 引きつけられる力でどのように体勢が崩れるのかは、間合いを抜けるまでのやり合いである程度把握している。

 あとは身体に染み込ませた立ち回りを、その崩れ方に沿わせるだけだ。

 ――身体のコントロールの仕方はわかってる!

 踏み込みを浅くし、必要な体重移動の一部を引きつけられる力で生み出し、しっかりとした左の刻み突きを打ち込む。

 想像以上にしっかりした動きに対応できず、男は防御に失敗、新菜に有利な状況を許してしまう。

 右のトンファーを回し、思い切り打つ。

 骨も砕けん一撃にのけぞる男に、更に左、右。

 ――まだ追える!

 振りぬいて身体を落とした姿勢から、身体のバネに超能力の恩恵を受けて飛び蹴りを放ち、更に蹴り上げを追加する新菜。

 ――動ける。動かなきゃ!

 もう一つ飛び蹴りを追加したところで、男のバイタルが空となった。

 ――ようやく人数的には五分……

 新菜は額に出た汗を腕で拭い飛ばす。

 疲れからではなく、緊張によるものだった。

「新菜ちゃん! 一分だけ時間稼いで!」

 状況を把握した弘美の声に、新菜は女と男の様子を伺う。

「っくしょう! 好き勝手しやがって!」

 拘束を逃れた徒手空拳の男の声を聞き、新菜は単純に戦うのではなく、弘美と相手二人の間に入って守りを固める方針を取る。

 三者の位置をおおよそ確かめ、まずは弘美へと走っていく男を止めるべく、進路へ一歩足を出す。

 新菜の妨害を警戒して足を止める男。

 女の方も新菜の出方を伺っている。

 ――さっきのあたしと同じだ……。

 二人の様子に、メリケンサックの男の超能力をかわすため警戒に注力した自分を思い出す。

 ――ほんと、どうするのが正解だったの?

 新菜は油断なく二人の判断を見つつ、自分にも判断を問う。

 誰も答えは出さず、動かなければならない相手も、動かさせてはいけない新菜も、限界までにらみ合いを続ける。

 ――少なくとも、動かないのが正解じゃない。

「よし。行ける……こっちに下がれ!」

 弘美の合図に身を引きながら、新菜は不正解への道を塞ぐだけに終わった。

 弘美の足元から、彼女の身体を包むほど太い何かがのたうちながら生まれる。

 それは黒く、どこまでも伸び、蛇のように残った四人の敵を食い散らかしていく。

 通った後には気配が残らず、敵のバイタルは完全に食い取られていた。

 それは、発生地点に立っていた弘美も同じだった。

「弘美!」

 新菜はフラリと倒れそうになった弘美を支える。

「よくやってくれた……」

 弘美は体勢を崩し、倒れこむ。

「姉さん!」

 弘美の攻撃で助けられた紬は、意識を失っている弘美に駆け寄ろうとするが、足を止める。

「……後回しに、せざるを得ませんわね」

 全身の感覚を引っ張られた紬と切絵、そして新菜は思考を切り替える。

 ――三連戦……。

 無言で構える新菜。

 紬を見やる。

 普段の彼女が構えていた鎌で答える。

 切絵に視線を送る。

 が、切絵は気づかない。

 一人目を瞑り背筋を伸ばし、刀の鞘と柄に手を当てていた。

「切絵。弘美とセレナをお願いします」

 超能力が完全に使えない二人は、完全なウィークポイントなので誰かが守らねばならない。

 紬はさっき、二人相手に粘り続けた切絵の堅実さを買って、それを任せた。

「あ……はい」

 紬の指示に、はっとして焦るように応じる切絵。

 ――切絵?

 新菜は言い知れぬ違和感を抱いたが、それが何なのか判別できない。

 ――緊張? 疲れ?

 スッと右前に構え、現れた気配に正対する切絵を見ながら、新菜は答え後回しにして待機する。

 ――ここで判別つけとくべきなの?

 答えのない事にまた言い知れぬ思いを抱いたまま、新菜も敵に対して左前に構える。

 数は五。

 一方から迫ってくる。

 まとまっているのはありがたい。

 切絵だけでなく、新菜と紬も一旦は守りにつけるからだ。

 敵は、全員同時には動かない。

 一人が後方に待機し、残りの四人が二人ずつ組んで走ってくる。

「あたしは左!」

 新菜は敵のコンマ単位の動きと、その予備動作、更に前段の判断に要した動きを総合し、距離を詰められる間に相手の布陣を見切り、分担する事を勝手に決め、紬に伝える。

「私は右、ですね」

 紬は言葉の意図を汲み取りつつ、相手の出方を観察して新菜の判断を察し、注意を自分が担当すべき敵の方に絞る。

「わ、わたくしは!」

「動かない! 相手も動かない奴がいるから、そっちを警戒して!」

 切絵の戸惑いの声に、新菜は叫びつつ、違和感をはっきりとさせる。

 ――こんな判断が付かない切絵じゃないのに。どうしたの?

 この手の動きは切絵の専門分野だった。

 小さな頃、喧嘩の仲裁に当たる時、彼女は状況の把握を新菜より早く行っていた。

 もちろん、誰がどのような状況にあるから喧嘩が起きたのかは仲裁には必要不可欠な事なので新菜も試みようとしていたのだが、単純に切絵のほうが早かった。

 切絵は剣術の鍛錬でその技術を培ったという。

 居合からの抜刀に重きを置く彼女の剣術では、先に向けられた刃を後から抜いて返す「後の先」の判断が重要であり、自然と機微に目を光らせる技術を学んでいたのだ。

 それが全く発揮されていない。

 新菜は自分が判断のつくような状況で、切絵が遅れを取る事を想像できなかった。

 それ以上に、明らかに自分や紬が動いてもなお把握しきれていなかったのは危険だ。

 判断力の低下、認識の狭量。

 切絵は冷静さを明らかに欠いている。

 ――打って出るのはより危険……紬の割り振りはうまくはまってたけど……。

 新菜は接敵し、おそろいの金槌を振り下ろしてくる男二人を相手にしながら、一つの心配を抱いた。

 ――動ける相手を一人にしておくのは少し不安かも。

 しかし、戦況を見れば次善策は思い浮かばない。自分と紬が動かなければ、フリーになった二人は如何ようにでも切絵を狙える。

 仮に新菜が切絵とともに守りに残ったとしたら、一人を後ろに置いたまま、数ではイーブン、守る対象がいる以上こちらが不利な戦いを挑まれる。

 あるいは、そうなったなら最後の一人は守る人間の方へ動き、数の優位を確実にするかもしれない。

 切絵を前に出すのはそもそも一人にしておく不安への回答として何の意味も持たない。

 ただでさえ切絵は一番緊張の強い状態を続けていた。精神的な疲弊が大きく出てもおかしくない。

 冷静さを欠いた彼女が再び二人を相手にして、遅れを取らない保障はない。

 相手に心得がなかろうと、数は威力となる。

 現状よりも悪手だ。

 新菜は今がベターだと結論づけ、一人待機する男を見やる。

 落ち着いて自分や紬、そして切絵の三人を観察している。弘美がしていたように後方から動く様子は見せない。

 いざという時には何もしていない方が動きやすいが、何も手を打たないあたり、弘美のように援護を得意としているわけではないらしい。

「あの顔は知っています。彼はこの五人グループの大将です」

 紬が新菜に声をかける。

 新菜が男を警戒しているのを見ての判断だ。

「へえ。よくもまあ知られたもんだ。言うとおり、俺さえやればこいつらは終わりだわな」

 男は紬の言葉に嘲るように笑う。

 ――あれは挑発。

 新菜は大将の提示した勝利条件を無視する。

 本当にそうであれば自分から言う必要はない。

 あるいは本当であっても、それを深追いするという事は別の事が疎かになる事と同義だ。

 相手もそれをわかっている。

 だから大将は堂々と大きな事を吹き、こいつら呼ばわりされた他の四人は気にせず戦っている。

 完全に作戦だ。

 紬も同じく、大将を張り倒して勝ちを拾う手には出ない。

 ただ一人、足を踏み鳴らした切絵を除いて。

 新菜は思わず彼女の方を見やる。

 本当に動こうとしていたらしく、一旦前に出た姿勢を戻している。

 今は踏みとどまったらしいが、それは後方の二人を考えてか、それとも新菜や紬が目の前の相手に集中しているのを見てなのか。

 ――切絵が駄目になってる。

 新菜は違和感の理由をようやく悟る。

 ――焦ってるから。

 連戦の疲労は、やはり彼女に大きくのしかかっている。

 このままズルズルと引っ張られ続ける事に対する危機感が、焦りとなって判断を逸らせ、視野を狭めさせ、お手つきを誘発しようとしている。

 ――まずいけど……。

 新菜は完全に相手の術中に嵌っている事に気づく。

 金槌持ちはおそろいだけあり、今まで相手にした誰よりも息がぴったりだ。

 一発一発の攻撃も重い。

 金槌は武器としての破壊力は抜群だ。

 釘を打つ道具としてこれ以上ない扱いを受けるだけの力がある。

 新菜は丁寧にトンファーで金槌を受け止める。

 他の受け方ではダメージがシャレにならないと踏んだからだ。

 金属同士がぶつかる甲高い音が、周囲を包む。

 これも、新菜を攻め手に回させない原因となっている。

 防御方は軽い打撃を簡単に手早く捌くものから重い打撃を難しくともしっかり確実に受けきるものまで多種多様だが、今振るわれている金槌を相手にして使えるものは後者に限定される。

 前者を選んだが最後、新菜がメリケンサックの男にかましたように、防御ごと潰すクリーンヒットを叩き込まれる。

 丁寧に受けきりながら、突破口を探す新菜。

「凌いでばっかじゃ終わんないぜ?」

 大将の嘲りも、再びスルーする新菜と紬。

 切絵もビクリと動きつつ、なんとか堪える。

 ――パターンが出尽くしてきたわね。

 防ぎに防ぎながら、新菜は目の前の二人の動きを見切りにかかる。


次回は5月5日金曜日更新予定です

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