第二十四話 おわりのはじまり・1
今回は敵の方から近づいてきた。気配を感じるとともに、姿も目視できるようになる。
五人が一斉に新菜たちの方へ走り寄る。
「あいつだ!」
誰かが音頭を取り、全員がセレナに向かっていく。
新菜たちは走りよる相手を迎撃する。
狙いをくじきたいところだったが、新菜が男女二人、切絵と紬が一人づつ足止めに成功するものの、弘美は相手を捉えきれず、一人の男がセレナに肉薄する。
「接近されると厳しい」
セレナは拳銃を抜き撃ちし、迎撃に成功。しかし、一発で倒れる事はなく、体勢を立てなおして更に近寄っていく。
――手馴れてるわね。
新菜はその様子を見て、作戦を変え、セレナに一発食らわせようとする男に向かって飛び込む。
背後を取る形でクリーンヒットを入れる新菜。しかし、一旦迎撃を打ち切った二人の女性も近寄ってくる。
「支援する! 二歩下がれ!」
弘美の叫びを受け、即座に位置を変える新菜とセレナ。
不意の声に警戒し、足を止めた三人の敵に、足元から何かが伸びる。
黒い紐のようなそれは三人の内、新菜が引きつけていた方の男を捉えるが、残りの男女はすんでの所で反応し、一気に新菜たちの方へ詰め寄る事で難を逃れた。
「それっ!」
振りかぶってセレナへと右ストレートを打ち込む男。
しかし、セレナと、近くにいてセレナがかわせば当たる所だった新菜は身を捩ってかわす。
――大振りだから、一対一なら見切れるんだけど……
更に横から、新菜が足止めしていた女が小さな予備動作で腕を伸ばしてくる。
男の一撃に気を取られていたせいもあり、セレナが掴まれる。
「こうすれば、手は出せないでしょ?」
セレナを引き寄せ、首を締める女。セレナは肘打ちで振り払おうとするが、抵抗は虚しく空を切ってしまう。
わざわざ口を開いたのは余裕からではなく、それが有用だと判断したからだ。
セレナを盾にされた二人が動けなくなる事を狙っての行動。
「ああ。そんだけ近いと支援のしようもない」
打開策を考える弘美。
他方新菜は、この状況を逆手に取る。
――もう一人が邪魔だったんだけど、おかげで動きやすいわ。
再び見え見えのストレートを放つ男の足を払って転倒させる新菜。
「まだ言ってなかったけど、抵抗はダメよ?」
女はセレナの首にかけた腕に力を込める。
ギリリ、と全身の筋肉が締める動作に動ききった瞬間。
「筋肉って、力を入れてる時が一番動かしにくいのよね」
新菜は女性の後ろに回り込む。
女は反応した。
が、対応は出来なかった。
急いでセレナを盾にし直そうと身体をひねる頃には、新菜のトンファー突きが女性の脇腹に刺さっていた。
バイタルがある以上、そう簡単に人質は成立しない。
通常の手段では、何の後遺症も残さないのだから。
うめきつつ体勢を崩し、セレナを開放する女。
「こっちのほうが手馴れてるわ。あの男をお願い」
新菜はセレナが離れたのを見て、左右のトンファーを振り抜きながら言った。
「見ればわかる」
セレナは男の方を向き、今度は積極的に距離を作りつつ拳銃を撃っていく。男はうまくかわせず、防御に専念せざるを得なくなる。
「セレナ、バックアップする!」
弘美はセレナの後ろについて一昨々日のように片膝を地につけ、地面に手をおいた。
新菜も女が立っていられなくなるまでトンファーを繰り出し、
「弾けろぉっ!」
叫んだ。
今までで最高の出力を実現するため、新菜の身体に赤いパワーラインが生まれる。
爆風は女性を地面に叩きつける。
衝撃の強さにバウンドして跳ね上がる女性。
未だバイタル切れを起こさない女性に容赦なくジャンプで近づき、追撃を入れながら、新菜は切絵と紬の方を見る。
どちらも堅実に相手をいなし、バイタルを削っている。
切絵は刀のリーチを活かし、徒手空拳の相手を近寄らせていない。
紬も転移による縦横無尽の鎌捌きで、相手のバイタルをガリガリ削る。
――とにかく、あたしは目の前のこいつのバイタルを空にしないと。
大きく距離が離れたところで今一度超能力の爆発をぶち当て、地面を滑るように倒れる女性の方へ近寄り、小さく回るように受け身を取った相手に上から肘落としを見舞った。
膝を折る女性に再び追い打ちを加える新菜。
切絵の相手がバイタルをすべて失い、気配を消す。
「切絵ちゃんはそこの動けない奴を!」
「お受けしますわ!」
弘美の指示が飛ぶ。
弘美はセレナのフォローを重視しつつ、全体を見ていた。
新菜は飛び蹴りで女性のバイタルを奪い切り、状況を再確認する。
一番優勢なのは紬だ。相手は鎌に全く対応できていない。
次いで切絵。腕の差を活かし、引き受けた相手を寄せ付けない動きを徹底している。
比較的苦戦しているのはセレナと弘美だ。二体一、更に相手を完封しやすい遠距離からの攻撃という事もあって、今の状況になってからは全く反撃をもらっていないようだが、相手も相手で動けない状態と冷静に認識し、防御に徹して有効打を取らせていない。
新菜はセレナたちの援護に向かう。
「こじ開けるから一秒時間を!」
声を受けた二人が手を止め、相手は新菜を警戒してがっちりガードを固める。
その首元へ、新菜のトンファーが伸びた。長い棍の部分を手に持ち、持ち手の部分を相手の首に引っ掛ける形で。
「打つだけがトンファーじゃないのよ」
グイッと男を引き込んだ新菜は腹に膝蹴りを入れる。
グラリと後ろへよろける相手ヘ向けてセレナの銃弾が飛び、次いで弘美の鞭状の黒い何かが伸びる。
二人の遠距離攻撃が延々叩きこまれ、相手がバイタルを切らす。
足元には男が一人転がっていた。
「さて、後は……」
「丁度終わりましたよ、姉さん」
一人残った紬の方を向いた弘美に、紬は軽く鎌を掲げて勝利を誇った。
「だけど、遠距離からチクチク援護されるのを避けようってセレナを狙ってくるあたり、この前の奴らより随分しっかりしてるのね、こいつら」
新菜は転がった五人を観察しながら言った。女性の絞め技もしっかり決まっており、戦い方もしっかり考えていた。
しかし、弘美は新菜の評に顔を曇らせる。
「いや、それならオレが狙われてるはずだ。技量は依頼の指標になるから、オレたちは得意な事を喧伝してる。その結果オレについた評判は『フリーにしたら危険』ってとこだ。当然、オレたちが絡んでくる可能性のあるここいらの犯罪グループには知れ渡ってる。セレナの方を狙う理由は……」
自分で言いながら自分で考えていた弘美は急に顔色を変えた。
「セレナ! 大至急周囲を探索しろ!」
セレナは返答の代わりに目を瞑り、身体にパワーラインを浮かび上がらせる。
先日新菜の前で行った探索よりも早く広範囲の、全力探索だ。
「……超能力者がいる。六人」
探索結果を聞き、他の面々も敵の狙いを把握する。
――あたしの勘違いね……。
特に新菜は、見当違いの認識で狙いとは別の方向へ話をずらしてしまった事に忸怩たる思いを抱いた。
敵の狙いはセレナだったのは間違いない。
しかしその理由は武器ではなく、得意な超能力にあった。
彼女はハイパースペースから現実世界を認識できる、高度な探査を得意とする。
それによって、周囲に超能力者がいるかを誰よりも早く感知できる。
現に今、周囲にいる六人の超能力者の存在を知覚出来ているのはセレナだけだ。
そして、敵が探知範囲の外側で待機している理由も自明だ。
「こっちに来る」
セレナの報告の直後、新菜は全身を引っ張られるような違和感に襲われる。
「何この感覚」
「離れかけたハイパースペースへ引っ張り戻されたんです」
紬が鎌を構える。
目前に、六人の超能力者が姿を現した。
「延長戦ですね」
紬の握った鎌の刃が、強く照りつけるハイパースペースの日差しを浴びてきらめいた。
次回更新は4月28日金曜日予定です




