第二十三話 種明かしとミス
新菜と紬は、何事かと部屋から出てきた。
弘美は忌々しそうに端末を見ながら、電源を切る。
「ややこしい事になった。全員、端末が起動してないか確認してくれ」
弘美は端末をポケットに滑り込ませつつ全員に促す。それぞれがポケットを弄る中、弘美は事情を説明し始めた。
「相手の手口が割れたって、小折から連絡があったんだ。が、都合が悪い事に端末を使った手口だってんだ。あらましだけざっくり話す」
小折――先日の警官――と弘美は、今回の一件に絡んで互いに情報を交換していた。弘美は小折に捕らえた超能力者の情報を流し、他方小折は自分の追っている筋の犯罪グループから得られた情報を弘美に伝えていた。
一昨昨日の白髪の男は、犯罪グループのリーダーである。これは小折の追っていたグループではないが、犯罪者筋からの情報もほしい。小折は時間があるかぎり本家での男の取り調べに立ち会い、情報を引き出していた。
警察内部で見ればそこまででもないが、外部から見れば彼女はその手の行動のプロでもある。本家や紬の側から見ても、彼女が協力してくれるのは有難い事だった。
小折の取り調べは効率的に進み、非番の今日は朝から詰めていた。そこで、白髪の男を上手い事揺さぶり、犯行動機を引き出すのに成功した。
男の犯行動機は、端的に言えば紬が忙しいと知ったからである。どうやって知ったのかが問題になる。
男は端末に繋いで起動する機械を所持していた。取り立てて見どころもないような、ただ受信だけに対応した端末で、本家は所持している理由を見出すことも出来ないような微妙な品だったのだが、男はこれを情報ツールと呼び、紬が忙しくなったという情報をこれで得たという。
小折は別件で追っているグループにもその情報ツールの所持者がいる事を調べ上げていた。といっても、グループの末端を捕らえた時に、上役の人間がそういうものを所持している様子を見たと証言しただけで、その実態は全くもってわからなかった。ただひとつ言えるのは、それを信頼できる機能を有していると犯罪グループでも判断しているという事だけである。
小折の中でこの情報ツールが何なのかあたりがつく。
情報ツールは本当に信頼できる情報を受信するのだ。但し、ツール自体にそれを選別判断する機能はない。ただメッセージの受信機能しか無いのだから。
とすれば、糸を引く人間がいるはずだ。情報を入手し、ツールに流す。犯罪者間で情報が正しいと判明すれば、有用なものとして買い手がつく。あるいは第三者のふりをして手柄を掠め取れば、ツールを売りつつそれによって犯罪者が得た利益も手に入れられて両得である。
では情報をどうやって取得するかだが、これはそこまで難しい問題ではない。
今回、紬が狙われた理由は「紬が忙しいから」だが、紬が忙しくなったのは事件が起こる一日前である。普通に考えれば早すぎる。この間の紬の動きは大きくなく、新菜にいろいろと教えた他には、本家に新しい超能力者が生まれた事を報告し、切絵にレクチャーの手伝いを依頼しただけである。新菜自身の動きの中でも目立つのは爆発事故と端末の入手ぐらいで、他には爆発の隠蔽のために小折が動いただけだが、大きく小折が動いたのは翌日、検証資料を作る段になってからだった。その時には既に事件が動き出していた。
そもそも、事故以外は外から覗くには小さな事で、事故は超能力者の覚醒と直接は結び付けられない。
この間に情報を的確に抜き出す最も簡単な方法は、端末の連絡を傍受してしまうことだ。内容が知れるのならば、紬たちがいろいろと動くタイミングがはっきりする。翌日紬の家に新米超能力者とまだまだ詳しい事を知らない超能力者がやってきて、本当に忙しさを増すとわかるわけである。この間に用いられたのは音声通信であり、並大抵の干渉では抜き出すのが難しい。が、端末に詳しければ不可能ではない。
つまり、相手は端末で交わされる連絡を元に情報を集めていると考えるべきである。
「と、まあそんなところだ」
話し終えた弘美に、新菜の指摘が飛ぶ。
「じゃあ、その話って端末でしないほうが良かったんじゃない?」
弘美は呆れ顔をして頷く。
「そうなんだよ……そこまでわかってて何で端末使ったんだあいつ……取り敢えず、小折の話が正解なら、相手は動く。オレたちが手口に気づいたってのも傍受されてるだろうからな」
紬は四人を見る。
「黒幕がいると考える場合、今の状況は危険です。こちらが真壁を捕らえた時、彼の事を本丸と考えて動いていた事も知られてしまっています。数日動かなかったのは、この考えに沿った状況を演出する事と共に、自分の準備を整える時間を稼いでいた可能性もありえます。ツールがそれなりに普及しているのならば、それを利用してぶつけるグループを更に増やす事も可能でしょう。本人も犯罪グループに属していれば、そのグループも動かすかもしれません」
切絵が眉根を潜める。
「とすると……全てが露見した事を受けて、動く可能性もあるのでは?」
「ある。というより、そうなると踏むべき。相手の掴んでいる情報を類推すると、今この家には三人しかいない事になっているはず。私たちは新菜や切絵のようなイレギュラーじゃない。誰であり、どういう存在か普通に超能力者が得られる情報で判断がつく。少なくとも、後手に回らない人数を計算するのは簡単」
セレナがどういう状況下にあるか判断した時、部屋に警報が響く。
「折り悪く、と成りきってないのは幸いですかね……」
紬はぼやき、警報を聞き取る。
場所はこのマンション近辺。数は五人だ。
「全員で行くか?」
「はい」
弘美と簡単な会話を交わした紬は、全員にバンドを確認させ、ハイパースペースを展開する。
――最初の時と同じ匂いだ。
一面に広がった草原に立ち、新菜は思った。
次回更新は4月21日予定です。




