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超能力の守護者  作者: プラナリア
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第二十話 ぬいぐるみと夢

「久し振りだね、一緒に遊ぶの」

 新菜は座卓に置かれた湯のみをすすりながら言った。

「ええ。超能力に目覚めて以来ですから……半年ぶりでしょうか」

 同じくお茶を飲んでいた切絵が柔らかく笑う。

 新菜は切絵にお呼ばれして、彼女の家に遊びに来ていた。

 地元でも大きめの邸宅に切絵は住んでいる。二階建ての日本家屋を、手入れの行き届いた生け垣が囲む。敷地内の道場では、今も切絵の父が居合術を教えている。

 土地が大きいぶん、家も大きく、その中にある切絵の部屋も七畳と大きい。押入れ収納を含めると更に半畳増える。

 が、実際に使っている部屋の広さはその半分を超える程度だ。残りはぬいぐるみが埋めている。所狭しとぬいぐるみが並ぶ部屋は、見る人によっては息苦しさも感じるだろう。もっとも、今部屋にいる新菜と切絵は全く意に介していないので問題はないのだが。

 流石に湯のみには特に何もついていないが、お茶うけ菓子を入れるお盆には小さな熊のぬいぐるみが鎮座していた。

「また増えたのね」

 新菜はその熊のぬいぐるみを眺める。昨年の夏休みに来た時には無かった。この部屋に入るのはそれ以来だ。

「元旦に伯父から頂きました。他の方の選んだものというのはまたいいですね。小物系はほとんど猫でしたから、新鮮です」

 切絵は人差し指で熊の頭を撫でる。

「にしても、流石にちょっと冷た過ぎたんじゃない? 別に超能力があったって、遊ぶ障害にはならないでしょ?」

「ええ、まあ……実害はないのですが、なれるのに時間がかかったのと……新菜には超能力見抜かれそうな気がして」

 切絵の言葉に、新菜は思い切り笑った。

「酷いですわ」

 本気でしょげかえる切絵

「いや、ごめんごめん。流石にそれは買いかぶりすぎよ。あたしの目なんて節穴。この前だってさ――」

 お詫びとばかりに新菜は話し始める。

 休みにちょうどいい、とりとめもない内容。

 二人の笑い声が、廊下にまで響いていた。

 二時間ほどして、切絵の母が新菜を昼食に誘った。

「それじゃ、お言葉に甘えて……」

 すーっとぬいぐるみの合間を縫って部屋を出る二人。生活動線は当然確保されているが、単純な出入りも大量の小物の影響でどこか精密作業になるのがこの部屋の特徴だ。

 食卓には鶏の照り焼きとつけもの、味噌汁とご飯が並んでいる。立派なものだが、この家の普段の食事である。普通の食事とあれば極端に遠慮だてする必要もない。今日は切絵からの誘いでもあるし、申し訳無さそうに頂いてはそちらのほうが失礼というものだ。

 ハンバーガーにケチャップが好物になるのも納得の行く上品な味だった。

 毎日きっちり作られたものがこうも食卓に並べば、自然と舌はこれに馴染んでいっても仕方ない。

「美味しいです」

 新菜の感想に笑顔を見せる切絵の母。

「新菜ちゃんもまだ空手続けてるんでしょ? タンパク質取らないと、身体に悪いわよ」

「ありがとうございます」

 自分の家のお昼ごはんにはこの半分のタンパク質が出てるかどうか……という愚痴は心の奥にしまう新菜。それでも自分がいない時の昼食の倍は出ているはずなので、文句はあれど家でも外で言うほど酷くはない。つまり、一応努力をした結果ではあるのだ。結局タンパク質が足りないのは純然たる事実だが。

 食器を家で食べる時の癖でまとめてしまい、切絵の母に止められて、新菜は切絵の部屋に戻る。

「お手伝いぐらいした方がいいんじゃないかしら」

 切絵の部屋に戻った新菜は、伸ばしすぎて痛くなってきた背筋を縮めるようにして座卓につく。

「もてなしは受けて初めて礼儀になるものですよ。お気持ちを示していただけるだけで十二分です」

 切絵もピンと張った糸を切る。他所様の前で普段の姿を見せていると親に思われれば、それこそ礼を欠いていると言われかねない、というのが彼女と両親の関係のわかりやすい例だった。彼女にとって、親は尊敬の対象であり、同時に緊張の対象だ。

 新菜はそんな姿を見て、ふと思う。

「バレてないの? 結構見る目が厳しいんでしょ? 特にお父さんが」

 顔を寄せ、ヒソヒソと話す新菜。万が一にも聞かれたくない。

「流石に超能力を身につけたとは見抜かれていません。一昨日話したとおり、腕が落ちたと言われた時には焦りましたが、つつがなく過ごせていますわ」

 切絵も小声で返す。一昨日の説明で出てきた以上の問題は今のところ無いようだ。

「にしても……切絵は超能力持ってないほうがいいんじゃない? 道場、継がされるんでしょ?」

 引き続きヒソヒソ声で心配する新菜。桐生家に跡取りは切絵しかいない。道場の後だけを考えるなら門下生に引き継いでもらうという手もあるのだが、なまじ素直に学んで剣を収めつつある娘への親からの期待は非常に大きい。切絵は度々それをぼやいていた。

 そういえばこの愚痴も半年は聞いてないなと思い出す新菜。

 ――ほんとに、ご無沙汰だったんだなぁ。

「まあ……最近は継ごうと努力しています」

 切絵は凛として言い切った。

 目を見開く新菜。剣術は学びがいがあるが、将来まで決まっている事に並々ならぬ不安が見て取れた半年前とは真逆に近い。

「へぇ。将来の夢ってやつ?」

「いいえ。希望はまた別ですわ」

「何? 結構忙しいんでしょ? ここの道場って」

 どこに需要があるのか、切絵の家の剣術は引く手あまたで、門下生も多い。切絵の父は昼食を取った後も道場に向かう。もちろん仕事であり、休みの日に出てこれる門下生の稽古が夜まで入っている。平日も昼行灯とはいかず、切絵の父曰く東京あたりから偉い人が学びに出てくるという。こちらのほうが変な緊張感があるらしい。

「ええ。ですがそれは昼から夜です。わたくしたちに与えられた時間は、その後のほうが重要でしょう?」

 切絵は物言いたげな笑みを見せる。

「何? 超能力でなんかするのが夢って事?」

「ええ。自宅が仕事場であるという条件と、剣道場の師範代という名誉があるのであれば、超能力者のボディーガードが十二分に務まるでしょう?」

 新菜は切絵の説明に、ああ、と納得の頷きを見せる。

 言葉だけではまだ説明が足りていないが、新菜は切絵の事をよく知っている。新菜はまだいいたい事がありそうな切絵の、勿体つけた言葉から彼女の考えを読み取る。

 弘美に語ったとおり、新菜と切絵は喧嘩の仲裁を良くしていたが、新菜は別として、切絵には切絵で目的、考えがあった。

 それが、ボディーガードという言葉に集約されている。

 彼女は新菜とある意味でよく似ていた。他人のために身を粉にする人間だった。

 それは生まれつきの性格で、新菜がトンファー少女と出会ったような切っ掛けがあったわけではい。変にこじれずまっすぐ変わらず成長した結果だったのだが、それ故に自分の行動に説明出来るような理由を持てなかった。新菜が鮮烈な出来事の影響で人のために尽くそうと努力するという、明白な切っ掛けを持っていた事に羨望の眼差しを向けた事もある。

 そんな彼女の性格に、言葉という姿を与えたのがボディーガードという単語だった。

 どこでだったかは本人も覚えていないのだが、小学三年の時に聞きかじった言葉だったのはよく覚えている。この日から、切絵は自分が何故喧嘩を率先して仲裁するのかをはっきりと意識するようになった。

 喧嘩で殴られる人間のボディーガードになるのが、彼女の理想だった。

 それはやがて知識を増やすに連れ、ボディーガードではなく仲介人だと理解したのだが、切絵にとってそれはあまり大きな意味を持たなかった。

 身体で誰かを守る事、それが目的であり、役割はボディーガードでも仲介人でも彼女にとってあまり大きな意味を持たない。

 切絵は昔思い描いた希望を、今では仕事として見据える事までできるようになった。

 それが普通は人に言えない事であり、唯一共有できるのが自分をかつて突き動かしてくれていた親友であるとなれば、もったいぶりたくもなる。

 聞く側も、ずっと隣でその人となりを感じ続けていたとなれば、理解も早い。親友の放つ一つの言葉が持つ意味は、彼女たちにとって知らない人間が口にする万の言葉よりも雄弁だった。

「お見通しですわね」

「当然」

 切絵は言う意味のない言葉を返事に変え、二人はただ笑う事で切絵の夢を確認し合った。

 

「そういえば、ボディーガードになるならいろいろ手続きが必要なんじゃない?」

「まあ、具体的にはまだ何も計画が立っていないのでなんとも言えませんが……少なくとも正規の手続きは――」

 言葉が少ないと、すれ違いも生まれる。

「届け出なんてやったら逆効果でしょ。紬に潰されるわよ」

 新菜はさっきとの落差にまただ、と思いつつ話に割り込む。たった一言の切れ味が鋭くなったのは、ある意味いつもすり合わせを試みている結果と言えなくもない。万に一つのクリティカルヒットは、積み重ねが偶然綺麗に繋がった時に生まれるものであり、普段は言葉を尽くすのがセオリーだ。

「ですが、手続きと言ったら……」

「超能力者の方。結構しがらみがあるとかで、あたしたちが今やってる事も、本当は手続きが必要らしいわよ」

「あら。全く聞いていませんでしたわ」

「あたしも昨日聞いた。一応例外扱いになるようにしてくれてるみたいだけど」

「どうして今になってそんなお話になったのですか?」

「昨日ちょっと紬と話してね。紬の事を守りたいって言ったら、守護者になって貰いたいって話になってね。今のあたしたちの話はそのついで。後日手続きと試験をしてもらう事になったわ」

「試験ですか。どのようなものですか?」

「まだ聞いてないわ。案外抜き打ちかもよ」

「何故そうお思いに?」

「いざって時対応できるか見たいわけでしょ? 今みたいなイレギュラーな時、万全の準備ができない、あるいはほころんだ時こそあたしたちの出番。だったらどう動くかが重要になるはず。案外、端末が壊れた、とかいう単純な嘘をついて、じゃあどうするかって考え方のほうを見るとかいう手もありうるわ」

 新菜の言葉に小首をかしげる切絵。

 ――流石に例が適当すぎたかしら。

 より実戦的な試験法を考えている新菜に、切絵は伺うように告げる。

「端末の破損不具合等の連絡は別途電話で済ませるだけですよ? 番号は交換していますよね?」

 切絵の疑問に、今度は新菜のほうが首を傾げる。

「番号って、端末じゃなくて携帯? した記憶ないなぁ」

 新菜は携帯を取り出し、調べるが紬の番号はない。それと思しき別の連絡先も無い。

「やっぱりしてないわね」

 新菜はふと、端末が故障した時の連絡は土地の守護者にと説明書に書いてあった事を思い出す。喩え話は完全なボーンヘッドエラーとなったが、そこに紬の連絡先が書かれていたわけではない事も同時に思い出す。

「普通はするものなのよね?」

「ええ。それこそ新菜のおっしゃったとおり、いざという時に困りますからね。カリキュラムの最後に、信頼出来たなら交換するという形を取るはず――」

 切絵が無言になると同時に、新菜は連絡先を知らない理由に気づいた。他方、切絵もまた同じ結論に達する。

「説明、途中で終わってたわよね、確か」

「そうです。あと一日分のカリキュラムが丸々残っています」

 二人は顔を見合わた。

次回は3月31日金曜日更新予定です

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