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8モフ目

お読みいただきありがとうございます

 今日もまたうちの子をモフモフするただれた時間を。

 そういえば昨日モフナー来なかったな。まあ、急用とかそんなところか。

 べ、別に寂しくなんかないんだからねっ。

 トトさん。その生暖かい目は何でしょうか。新しい世界に目覚めさせるつもりですかちがいますか。

 今日のブラッシングはトトとシンシナティ。淡雪ばかりじゃ不公平だからね。

「だーれだ」

 急に眼をおおわれたかと思ったらそんな声をかけられた。

「セクハラ防止コードが働いていないだと!?」

 要するに過度な肉体的接触を防止するプログラムのことなんだけど。

「あれ、結構ファジーな理論で動かして、実際の行動を一個一個識別してるとか言われてるからねぇ」

 なんというCPUに負担をかけそうな仕様。まあ、何はともあれ。

「一日ぶり、モフナー」

「昨日はちょっと用事ができちゃってねー。それよりもさ。なんか港の方で人だかりができてたよ」

「イベントか?」

「わかんない」

 まあ、何か仕込まれててもおかしくはないけれど。

「行ってみるか」

「うん」


 港は確かに人があふれていた。桟橋にとくに多いようだ。

「見ろ!人がごm「はいはーい、早くみにいきましょうねー」

 くそう被せやがって。てか痛い痛い!耳を引っ張るな!新しい世界に目覚めたら、もとい、また禿げたらどうしてくれる。

「んー、人が多すぎて見えないね」

 うん。人大杉。

「なんか変なこと考えてない?」

「イイエベツニ」

 しかし見えないのはなんか悔しい。

 ふっと思いついてシンシナティを見る。

 じーー

 にらめっこ勝負に負けはしない。

 シンシナティさん。ちょっと乗せてもらいますよ。


「おい、あれ」

「うそだろ。あれをやるのかよ」

 人ごみの中でちらっとこちらを見たプレイヤーが騒ぎ始める。

 そう、僕は今シンシナティの背中に腕を組んで立っている。

「マ、マスター……」」

 突っ込み入れないよ、うん。

「何か見える―?」

 人だかりの視線の先。

 一匹のイルカがいた。


イルカ  オス


知能が高い海の人気者。ギターは持たない。


 弱ってるのか、水面に浮かんだまま動かない。

「イルカがいる。瀕死なのか動かない」

「誰もテイムしてないの?」

「しないんじゃなくてできないのさ。みんな枠が埋まっちまってる」

 野次馬の一人から教えられて僕らは納得した。

 枠か。ふむ。


スキル:テイム:4 [3/5]


 さんざんブラッシングしたおかげでテイム枠はあるな。うまくいけば海に出やすくなる。

「試してみるか」

「お、兄ちゃん行くのか?」

「物は試しだな」

 一通りの装備を解除。鞄にほうりこむ。

 声をかけてきた野次馬が目を見張るが、それはまあスルー。

「おーい!テイムに挑戦するやつがいるから場所開けろー!」

 その声に野次馬が道を開ける。モーゼかよ。

「じゃ、ちょいと行きますか」

 【水泳】はないけど、そこはリアルスキルで。

 必要はないだろうけど気分の問題で軽く準備運動。

 飛び込む必要はないので桟橋から静かに海に入る。

 イルカの視線がかすかにこっちに向くけれど、体はほとんど動かない。

「お前、こんなところでどうした。モンスターに襲われたか」

 答えがないのを承知で声をかける。

「一緒に海に行けるやつを探していたんだ。よかったら来ないか?」

「きゅ~」

 瞼をぎゅっと閉じ、すぐそばにいる僕にしかわからないくらいの小さな声でなく。

「よし。スキル:テイム!」

 ≪イルカ オス のテイムに成功しました。名前を登録してさい。≫

 どうしようか。


イルカ:ワタツミ Lv:1


 HP:31

 MP:23



 STR:10

 VIT:12

 DEX: 5

 AGI:18

 INT:21

 MIN:15


スキル:潜水 音波探査


「よし」

 このままではまずいので、一度送り返す。

「あれ?」

 急に周りが静かになった。と思ったら。

 うおおおおおおおおおおおおおお

 急に叫びだした。わからなくはないけどうるさい。

 桟橋から上がろうとしたら、近くにいたプレイヤーが引き上げてくれた。

「やるじゃねえか兄ちゃん」

 声とともに最初に話していた野次馬がバシィっと背中をたたいてくる。

 地味に痛い。

 そんなことをしているうちにモフナーとシンシナティが近づいてきた。

「毛皮丸、どうするの?」

「あいつの治療をしつついろいろ、かな」

 まずは魚だ。



スキル:召喚

我が呼び声に応えよ 汝我が友ワタツミ 来たりて現れよ 


 師匠ときた入り江の洞窟。そこで僕はワタツミを呼び出した。

「きゅ~」

 うん。送り返していた時間で多少は元気になったようだ。

 鞄から、ここに来るまでに買った魚の山を取り出す。するとワタツミの視線が魚にくぎ付けになった。

「お前、腹減ってたの?」

「きゅ~」

 うん。状態異常回復のポーションなんかもいろいろ買い込んできたけれど、無駄になったようだ。

 自分で使うからいいけど。

 ……トトさん、目を合わせましょうよ。

 合わせてくれた目はじとっとしていた。

 そんなトトもいいのぉぉぉ。

 こほん

 気を取り直して、水族館のイルカショーでよくやるような感じでワタツミに魚を投げてやる。たまに口から外すこともあったけれど、買ってきたすべての魚がワタツミの胃に収まる。

「ちょっとは元気出たか」

「きゅ~」

 目の前で泳いで見せてくれる。あとは送り返してる間に元気になるかな。

 さて、問題が一つ片付いたところで、次の課題をこなしますか。

 そう。【水泳】と【潜水】の取得だ。

 早速水着に着替える。これも、ここに来るまでに買っておいたものだ。いくらゲームの中とはいえ、水にぬれて服が重くなるのは再現されている。それに、風邪の状態異常もあるのだ。港で海から上がったときは【火】魔法の使い手が乾かしてくれた。

「ワタツミ。ちょっと一緒に泳ごうか」

「きゅ~」

 イルカだから、おぼれかけた時に助けてくれることを期待しよう。

 ワタツミをテイムしたときはそこまで気にならなかったけど、ちょっと水温が低いな。動けなくなるほどじゃあないけれど。

 さあ、泳ごうか。


 ワタツミと一緒に、洞窟の中を何周かゆっくりと泳いだ

 ≪スキル:水泳 潜水 耐寒 が有効化されました。≫

 おっと。うれしいおまけもついてきた。とりあえず熟練度上げのためにもうしばらく泳ごうか。

 しかし、ワタツミと一緒に泳いで思ったけど、イルカの背中に乗せてもらうのって結構憧れってあるよね。

 で、試してみた。

「ぬおおお」

 背びれにつかまる形で背中にまたがったけど、結果失敗。

 速度が遅いうちは大丈夫だけれど、少し速く泳いでもらうと一気に波の抵抗が来て押し流されてしまう。

 まてよ。前に何かで読んだな。確か。

「背びれの前が一番安全、だったか」

 とりあえずもう一度乗せてもらう。

 うん。今度はある程度の速度でも大丈夫だな。

 これ以上の安定を望むなら鞍が必要になる、か。

 イルカの皮膚に木を当てると危なそうだ。となると全部革製か。シンシナティの鞍を作るつもりで買った金属パーツがあるから、ハミはともかく流用して。

 うん、なんとかなるかもしれない。

 とすると、水中の戦闘が問題になるか。どう頑張っても水中で格闘戦は厳しい。

 突進力を生かすなら、槍、か。

 決まりだ。善は急げでワタツミの採寸をしてしまおう。

 ……トリ○ンの真似は出来なかったけど、まあいいや。


 ワタツミを送り返してパツダまで帰ってきた。シンシナティに乗れるようになってから移動がかなり楽だ。

 まずは手軽に済む槍からかな。人が多いところに行くのでシンシナティを送り返し、淡雪を呼ぶ。

 とりあえず露店を巡ってみるも、

「ないなー」

 気に入った槍がない。硬くて太くて大きい突き上げるものがぁぁぁぁ。あ、色は黒じゃなくていいですよ。

「…淡雪さん。何でほほに手を当てて微妙にうつむいてるの?」

「きゅいー」

 なにそのなんでもありませんよみたいな反応。

 まあ、いいや。

「ようあんちゃん。探し物か?」

 声をかけられ振り向いたそこには、いつか金具を買った熊のおっさんが露店を広げてた。

「ちょっと槍を探しててね。でも、なかなかいいのがないや」

「なんだ転向すんのか?」

「いや、ポールウェポンじゃないと厳しいとこに行くからさ」

「新マップか?」

「そこは内緒だ」

「ふむ。依頼はしないのか?」

「材料がない。柄になるような木材はともかく、穂先になるような角とか鉱石かなぁ」

「まあ、確かにな」

 この辺で角のあるようなモンスターはいないし、このあたりで取れる銅を使った槍では水中モンスターに対してはちょっと心もとない。

「知り合いの職人当たってみるか?」

「いいのか?」

「おう」

 僕の拙い人脈よりはよっぽどあてになる。

「そういや前は名乗らんかったな。俺は大五郎」

「毛皮丸だ」

 握手をしながらフレンド登録をして僕は引き上げる。大五郎はまだ露店を続けるし、僕も一つ心当たりを思いついた。


 すーはー

 心当たりを訪ねてきたけれど、在宅かどうか。

 ドアノブをひねり横にスライドさせて引き戸を開ける。

 開くってことはいるかな?

「師匠いらっしゃいますかー?かわいい弟子が来ましたよー」

「「誰がかわいいって?」」

 うおっとステレオ!

 え?

「師匠が二人?」

「「わしの従魔、化けポンが変化しておるだけよ」」

 知らない名前だ。【識別】は……どっちも師匠の名前が出るだけだ。

「「で、何の用だ?」」

「実は……」

 ステレオ?もうあきらめて流してるよ。


「なるほど。槍の素材か」

「何かいいものはないでしょうか」

「ふむ。あるにはある」

 え?ほんとにそんな都合いいのあるの?

「まあ、欠点もあるがな。毛皮丸、突撃隣のクロマグロというモンスターを知っているか?」

 どこの晩御飯だよ!テイムしたら名前はヨネか?

「すいません。不勉強で」

「いや、必ず知っていた方がいいというモンスターではない。必ず近い方の相手から突撃するからそのような名前がついているが」

 そんな理由かよ!

「その頭というか鼻というかがな、いい感じにとがっている」

「それが?」

「うむ。水中で使える槍となろう。ただ一点。角だけあって切断攻撃はできんがな。加工は木工職人に頼むといいだろう」

 もとより振り回すことは考えていない。水中で振り回したらほぼ確実に水圧に負ける。

それはともかく。【木工】……。取るしかないよね!

「わかりました師匠。ありがとうございます」

「うむ。はげめよ」

 禿げ、だと!?

 また髪の話をしている……いやいや勘違いしてはいけない。敏感な僕のハートが傷ついてしまう。

ぽーん

 師匠の家から出たところで大五郎からメッセージが入った。

『すまんこっちでは何もなかった』

『こっちで情報得たんで行ってみる。結果は後ほど報告』

 まずは港だ。


「おう兄ちゃん。朝の魚じゃ足りんかったのか?」

 港にある市場。ワタツミ用に魚を大量に買ったばかりだから、しっかり顔を覚えられている。

「いや、あれとは別件で。突撃隣のクロマグロ探してるんですけどあがってないです?」

「あれは深海魚だからなぁ。そうしょっちゅうは水揚げされないぞ」

「あー、やっぱり」

「なんだ兄ちゃん、喰いたいのか?」

「いえ、角が欲しいんですよ。槍の材料に」

「そっちか。いいぜ兄ちゃん。おれっちが持ってるやつやるよ」

「え?」

「あんだけ買ってくれたからな」

 店のおっちゃんが出してくれたのは僕の身長ほどもある角。


突撃隣のクロマグロの大角 


煮込むといい出汁が出る角。硬くて太くて大きい。アッ―――――


 運営――――!

「あ、ありがたくいただきます」

「おう。頑張れよ」

 微妙にやる気をそがれつつ市場を後にする。

 後は木工用の道具を買って、最後に図書館だ。


 ≪スキル:木工 が有効化されました。≫

 図書館で写してきた木工入門を読み終わり、有効化するためにとりあえずの腕輪を一個作る。

 さあ、槍を作ろうか。

 とはいえ、むやみやたらに木を削ってもどうにもならない。角との接合部をどうするかが一番の問題だな。さてどうするか。

 うん。無難に行こう。

 まずは角の底辺を丸く削る。柄の太さが決まるので重要な工程だ。

 次に、用意した木の中心あたりに角の削った部分がはまるだけの穴をあける。

 そして手になじむ太さの円柱に仕上げていく。

 最後に柄と角をはめたところを貫通する穴をあけ、穴に棒を差し込んで、穴に棒という言葉ではぁはぁしてから膠で固めて完成だ。


突撃の槍 


突撃隣のクロマグロの角を使った槍。柄にチーク材を使い粘り強い。


 これでよし。膠が固まるまでは養生しないとな。明日には大丈夫だろう。

 これで明日には海に出れる。野営もすることになるかな。

 明日のために夕飯食べて早めに寝よう。


 大五郎に結果送って、おやすみ、淡雪。


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