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5モフ目

お読みいただきありがとうございます

 朝起きれば、見えるのはそろそろ見慣れてきた部屋の天井。

 意味があるかどうかわからないけれど、宿に入る前にいつも姿を見せている淡雪に交代している。

 さて今日はどうしようか。夕べ疲れたから戦闘はなしの方向で。

 シンシナティに乗るために【乗馬】を有効化するなら馬具がいる。でも、さすがにそんなのリアルでも作ったことがない。

 …構造を調べないといけないなー。鎧の作り方も。

 最初から、素材を集めてメニューから一発作成なんていう便利なものはこのゲームにはない。一度作ったものは手動でレシピ登録すればできなくはないらしいけど、まだやったことがないし。

 これは運営からアナウンスがあった。まあ、だからこそ自由度が高いわけなんだけど。

 図書館に行けば情報あるかねぇ。

 とりあえずは午前中こもってみるか。

 ……淡雪さん。仮にもドラゴンがひっくり返って腹丸出しでぐーすか寝るってどうなのよ。


 まずは朝食をとりに一階へ。いつものようにざわめいている。

「よう」

「おっちゃん。朝飯」

「それはいいが、お前今日で予定の日だが、宿でるのか?」

 ああ、そういえばそうだった。

「んー、まだやりたいことあるし、一週間追加で」

「あいよ」

 もう四日目、なんだよな。現実では二日だけど、濃い時間過ごしてるよな。

 今日の朝食は海鮮チヂミもどきだった。

 うまいけどね。


 図書館の入口でいつもより多く白紙の本を買う。せっかく【写本】があるんだから有効活用しないと。

 書架を探せばすぐに目当ての本を見つけた。その名も防具入門と馬具入門。初級編なり中級編なりも探してみたけれど、こっちはないようだ。司書さん曰く、もっと大きい街に行けばあるかもしれないと。

 次の町はプレイヤーの間でまだ開拓されていないはずだし、僕もまだまだ移動の予定はないので、ここは我慢するしかない。

「スキル:写本」

 とりあえずは防具入門の方を写本スキルで写すことにして、馬具入門を読み進める。


「うわ、これは…」

 ちょっと考えが甘かった。そもそも鞍というのは革だけで作られているのではなく、中に木材の芯が入っていたり、馬が咥えるところ、ハミは金属で作られるものらしい。ベルトをつなぐ金具は予想していたけど、【金工】と【木工】もいるのか。いや、いずれは有効化したいけど、いきなり二つは無理だな。特に【金工】。炉のあてなんかまったくない。【木工】なら多少の経験はあるから、まあ、なんとか。

「あの」

 顔を上げればいつかの司書さん。

「それ、【写本】ですよね?」

 指で示すのは【写本】中の防具入門。

「まずいですか?」

「いえ、それは大丈夫なんですけど」

「はあ」

「不躾なんですが、仕事の依頼をしたいのですが」

 NPCの直接クエスト?何かフラグ立てただろうか。

「僕でいいんですか?」

「実は今日、当館で【写本】の力を使った業務があったのですが…」

 話を聞けば、どうもNPCには【写本】が使える人は少ないらしい。今日は古くなった議事録を書き写す作業があったのだが、【写本】持ちの人が急病でこれなくなったらしい。冒険者プレイヤーは図書館に来ず、そもそも【筆記】から有効化してる人はいないだろう。

 で、ちょくちょく顔を見せる僕が【写本】を使っているのを見て、ダメもとで声をかけてみた、と。

「報酬と拘束時間は?」

「拘束時間は今日の20:00まで。報酬は世界図書館無料入館券です」

「世界?」

「図書館組合は世界中すべての図書館で構成されています」

 個人的にかなり魅力的な報酬だ。

「この二冊の写本が終わってからでいいですか」

「では、終わりましたら私まで声をかけてください」

 現状僕の【写本】は一冊一時間。ページ数が関係ないのはありがたい。

 馬具入門の写本を終えること、防具入門に先駆けて20分。それはもう頑張った。すべては入館パスのために。

「終わりました」

「はい。では、こちらにお願いします」

 司書さんに連れられて行ったのは二階の一室。

「この街の領主会の議事録がおさめられています。奥から古い順になっていますので、そちらから順番にお願いします」

「わかりました」

 すべては入館パスのために。


「一度休憩されませんか?」

「わっ」

 おおう。司書さんが入ってきたことに全く気がつかなかった。

「すいません。驚かせるつもりはなかったのですが」

「いえ、大丈夫です」

 時刻は13:00を回っていた。

「では、少し昼にでてきます」

「戻られたら受付の館員に声をかけてください。またご案内します」

 礼を言って図書館から出る。

 さて、何を食べようか。

 おっとまずは淡雪を呼ばないとな。


「まいど!」

 最初に見つけた屋台で食べることにした結果、本日の昼はブイヤベースとなった。

 淡雪も満足そうに平らげる。

「戻るにはまだ時間があるな」

 あまり行ったことのないところを歩いてみるか。


 何本か裏通りに入ってもいわゆるスラムのようなものはないらしい。ここだけにないのか、ゲームを通してないのかはわからないけど。

 ぶらぶら歩いているけれど、怪しい魔法屋とか、ガラクタを売ってる露店とか、掘り出し物の武具屋とか、道端に転がってる人だとか、期待したものが何もない!

 ごく一般的であろう住宅地ばかり。

 期待を返せ!

 と、思っていたところに一つの看板が目に飛び込んできた。

[写経体験実施中]

 なぜに写経?

 フラグが立つのかどうか気になってドアをノックしてみたけれど、留守のようだ。残念。


「お待ちしていました。またお願いします」

 そろそろ顔なじみないつもの司書さんに案内されて、またひたすら写本する仕事に戻る。

 山のように筆記作業をするので熟練度もどんどん上がる。筆記速度もどんどん上がる。

 【写本】は現在三冊目。その間に終わらせた【筆記】製写本は30冊。【筆記】が育たなきゃやってられない量だな。


「お疲れ様です。時間になりました」

 かなり集中していたか。司書さんが入ってくるのにまたもや気が付かなかった。

 スキルは育ったかな?


スキル:テイム:2 [3/3]

    召喚:1

    徒手空拳:1

    皮革加工:1

    筆記:3

    写本:2

    鑑定:1

    識別:1

    ブラッシング:2

    高笑い:1

    愛撫:1



「では、こちらが世界図書館無料入館券。通称コネと後ろ盾にまみれたパスです」

「え?」

「え?」

「え?」

「すいません。冗談です」

 おい、運営!

「こほん。あらためてどうぞ」

 うん。うれしいはずなんだけど、すっごい微妙な気分。

「今日はどうもありがとうございました。今後も図書館をご贔屓にお願いします♪」

 とても微妙な気分のまま、司書さんに見送られて図書館をでた。

 さて淡雪を

 ≪イベント:司書さんのお願い を達成しました。称号:書記官 を獲得しました。スキル:筆記 にて会話ログを本に書き込むことが可能になります≫

 は!?

 今日は突っ込むことが多いな。そもそも会話を書き込むことってできなかったのか?

『筆記:ペンを用いた筆記速度が上がる。』

『書記官:称号 会話の内容をシステム上から白紙の本に転写し、ローカルメモリに保存可能になる。』

 なるほど。ログアウトしたときにも確認できるようになるのね。現状あまり関係ないけど。

 すぐに宿に帰る気分じゃないな。少し掲示板に書き込んで露店でも冷やかすか 


 露店は無人販売所になっていた。

 何を言ってるかわからねぇ……いや、わかるか。

 プレイヤーがいない間も、商品を買うことはでるらしい。もちろんプレイヤーがいないため、値引き交渉はできないが。盗みはシステム的に保護が働いているらしい。商品を手に取ってみることはできるが、持ち出すことはできない。持ち出そうとしたところで麻痺にかかり、警備隊がすっとんでくると。

 うん。今目の前の状況だ。犯人はプレイヤー。抵抗しても警備隊はびくともしない。

 何ができるわけでもなく、犯人は連行されていった。

 ……。

 まあ、気を取り直して。

 微妙な気分がさらに微妙になったけれど、一応の目当てはある。【木工】をやるための材料採取。そのために斧とか欲しいけど【斧】スキルはリストの中にない。カンだけど【鉈】から派生する気がする。木を切るしね。

 そうと決まれば鉈を探そう。どっかに掘り出し物でもないだろうか。

 お、あそこはプレイヤーがいるのか。七割ほどモフモフしている、……おっさん!?

 まあ、モフモフしているなら気にしなくていいか。熊だからそこまで違和感もない。

「まいど」

「ここは、何屋だ?」

 露店のスペースに並んでいるのは、武器の類にあわせて金属の棒や丸や三角のパーツ。

「うちは金物屋だよ。今、防具はちょっと手持ちにないけど、武器と金具は現時点でそれなりの物だぜ」

 なるほど。あっちのパーツは金具なのか。とすると、

「もしかしてそこの棒ってハミか?」

「おう。よくわかるな」

「ちょうど探していてな」

「とすると【皮革加工】持ってるのか。どこの工房だ?」

「いや、初期スキルでフリー」

「マジか!頑張るなあ」

「本業は冒険の方だけどな」

「あんちゃん、そりゃ無茶ってもんだぜ」

「ちょっと訳ありで、他人より長くログインしてるからな」

「それは……いや、聞いちゃいけねぇな」

「悪いな」

 突っ込まれても答えたけどね。

「で、欲しいのはハミだけか?」

「いや、そこの金具全部と、あと丈夫さを優先した鉈ってないかな」

「また豪気だな。鉈はちょいと待ちな。手持ちを見てみる」

 そういっておっさんが探るのは、ああ、容量拡張ないんだよな。大柄の熊の体と対比してもなお大きい鞄だ。

「ちょいと値が張ってもいいか?」

「五桁くらいなら余裕だ」

「すげぇな」

 淡雪の毛さまさまだな。

「持ってみるか?」

 受け取ったその鉈は、


ハードマチェット 


頑丈さを特に追求した鉈。ワンピースが似合う女性が持つといいかもしれない。


「ぶふっ」

「どうした?」

「鑑定の説明文がな、くくくっ」

「ああ、それな。俺は元ネタがわからんのだけど」

「だ、だめだ、くっくっくっくっあーっはっはっはっはっはひーっひっひっひっひ」

「お、おい大丈夫か?」

 ≪スキル:爆笑 引き笑い が有効化されました。≫

 !?

 またかよ。運営、どんだけ妙なスキルが好きなんだよ?

「お、おい。頭大丈夫か?」

「心配すべきは僕の頭じゃなくて運営の頭だな」

「よくわからんが、大丈夫ならいいか。で、どうする?占めて10,800Fだ」

「買った!」

「おし、持って行きな」

 トレードウィンドを確認して、アイテムと交換完了。素振りで【鉈】を有効化できるかな?ダメそうならまたウサギ狩りだな。

 おっさんとあいさつを交わして宿へと戻る。

 さて、やることが増えてきたぞ。

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