3モフ目
道具の名前など専門用語が増えております。
広場の片隅で淡雪のブラッシングタイム也。
「ふはははは! モフモフになるがいい!」
「きゅいっ」
淡雪はおとなしくブラッシングされている。
「気に入ったか?」
「きゅい」
「そうかそうか。気に入ったか。ふはははは!」
周囲の目など気にしてはいけない。
いけないったらいけない。
≪スキル:高笑い ブラッシング が有効化されました。≫
!?
な、なんだってーーーーー!?
慌ててスキル画面を確認してみれば
スキル:テイム:2 [1/3]
召喚:1
徒手空拳:1
皮革加工:1
筆記:1
鑑定:1
識別:1
ブラッシング:1
高笑い:1
なんかいろいろ増えてた。
待て待て待て待て。整理しよう。落ち着け。まだ慌てる時間じゃない。
ブラッシングはいい。実際に淡雪をモフモフにして恍惚とさせていたから。
高笑いってなんだ。さっきのしか考えられないがどんなスキルだ?
とりあえずはもう一度。
「ふはははは!はーっはっはっはっはっは!」
周りの人の視線が痛いが気にしてはいけない。気にしちゃいない。これはスキルの検証なんだ。
泣いてなんかないったら。
うん。育ってる。【高笑い】育ってるよ。レベルの横にある熟練度だか経験値だかのバーが伸びてるよ。
『高笑い:相手の注意を引きつける』
え?
これだけ?
モンスターにも効くなら使い道はまだあるけど。
すっごい微妙なスキルだことで。
で、次だ。
【テイム】のレベルが上がってる。ってか、テイム可能枠も増えてるよね。数値的にスキルレベル+1が枠か?
問題は何の行為で【テイム】が伸びたのかってことだ。思い当たるのはブラッシングしていたことだけど、【ブラッシング】は別項目だ。
しばらく悩んでみてもわからん。
淡雪が体をこすりつけてくるので頭をなでてやる。
「きゃう♪」
うーむ。
「きゃふ」
ん?淡雪が腹を出して転がった。
……。てぃんときたので、足の付け根から腹のあたりまでなでまわしてやる。
うーん。モフモフ。
モフモフ
モフモフ
モフモフ
モフモフ
モフモフ
モフモフ
モフモフ
はっ。
気が付けば三十分ほどが過ぎていた。
「この魅惑のもふもふぼでぃめ」
「きゃふー」
≪スキル:愛撫 が有効化されました。≫
!?
またかよ!
スキル:テイム:2 [1/3]
召喚:1
徒手空拳:1
皮革加工:1
筆記:1
鑑定:1
識別:1
ブラッシング:1
高笑い:1
愛撫:1
【テイム】のバーが伸びていく。今何をしたかといえば。
「淡雪が喜ぶこと?」
「きゅい?」
可能性は高そうだ。だが。
「淡雪もモフモフ度アップしたし、依頼の錬金術師さんとこ行くかねー」
「きゅい」
スキルの検証なんぞ一人でできることなんて限られてる。
まずは金だ。
抜け毛をひとまとめにしたら移動しますか。
産毛竜の被毛
竜の子供の毛。子供だが竜だけあって耐久性は結構ある。もふもふ
「はい。依頼完遂確認しました」
依頼人の錬金術師はNPCで、何の問題もなく淡雪の抜け毛の引き渡しは完了した。裏もまったくなく、逆に拍子抜けしたくらいだ。救済イベントか何かかね、これ。
まあ、何はともあれこれで二十万Fが手に入ったわけだ。
これで装備と道具の更新ができるな。
まずは道具屋だ。革細工セットには本当の基本しか入ってなかった。革包丁、四本刃菱目打ち、ハンマー、針、蝋引き糸。接着剤。
これだけじゃあんまりなので包丁と針、接着剤は予備を。菱目打ちはピッチと刃数が違うものを。糸は数色、別で蝋引きのための蝋の塊。模様を彫り込むための刻印とスーベルナイフ。染色剤もいるか。あと革の手入れセット。最後に皮から革に鞣すセットを買って、と。お、大きめのずた袋があるな、丁度いい。これも買おう。あとは金具類をちょいちょいと。
「ありやとやしたー」
次は装備だな。
「いらっしゃい」
隣だから楽だ。やたら渋くていい声のお姉さんが迎えてくれる。うーん、立派な上腕二頭筋。あれ? お姉さん♂じゃなくてきちんとお姉さんだよね? 動くたびに揺れるあの胸は大胸筋じゃない。
さて、まずは防具から見るか。格闘主体だから重い金属鎧はなし、と。革鎧か金属でも胸当てくらいか。どうせなら【皮革加工】で自分で装備を更新するから革製で……。
「お?」
ウサギ革のコート
ウサギの皮をなめして作られたロングコート。要所に毛皮を使っているがあまりモフモフしてない。チクショウ。
……説明はともかく物は良さそうだ。サイズも大丈夫だな。
コートのすそをはためかせて拳打をぶち込むのってカッコイイよね(厨二感)。
あとはグローブ、グローブ、と。
ウサギ革のグローブ
ウサギの皮をなめして作られたグローブ。
カスタム:磨いた骨片を関節部につけ、打撃力を上げている。
決まりだな。
「すいませーん、これくださーい」
「あいよー」
こちら現場の毛皮丸。ただいま図書館に潜入中です。
あの後、渋くていい声したお姉さんにじゅうごさいにダメもとで特殊効果が付いた武器防具について聞いてみたところ、【付加】というスキルが必要で、この街には現在使える職人がいないんだそうだ。何でも後継者が育たなかったらしい。晩年嘆いた最後の職人は、持てる技術を本にして図書館に寄贈したそうな。
これは新しいスキルが手に入るかもしれない。そう思って図書館に来てみれば。相変わらずプレイヤーの姿はない。本読み放題。
今回はメモ程度ではなく、一冊丸ごと写すのだ。【付加】が取れれば他のプレイヤーから一歩抜き出れる。
さて、件の本はどこかな?
ぽーん
≪派生スキル:写本 が有効化されました。≫
おおう。意識が飛んでた。
現在15:03。写本を終わらせた段階でシステムメッセージが入った。
で、【写本】だって?
『写本:本を丸ごと写す。写したい本と白紙の本を重ねて使用。速度はスキルレベル依存。写本中ほかの作業ができる』
便利だな。時間さえかければ図書館丸ごとコピーできるってか。
まあ、こっちはいいとして音の正体はなんだ?周りを見渡しても音を出すようなものはないけれど。さっきからちらちら視界の左上あたりに影がうっとおしいけど。
と思ったら、これ、アイコンか?メニューを開けばフレンドメッセージのところにアイコンがある。
『やっほー。ログインしたよー』
モフナーか。
現実ではまだ一日経ってないんだよな。
『図書館にいる』
『ダッシュで行きます』
『入口集合で』
『あいあいさー』
さて。片づけるとするかね。
「よっ。昨日ぶり」
「そっか、こっちではもう昨日なんだよね」
外に出てみれば、モフナーはすでに来ていた。
「淡雪ちゃんは?」
「図書館はモンスター禁止だから送り返してる」
うん、呼ぶか。
「きゅい!」
詠唱すれば召喚されるのはすぐだ。
「なんかモフモフ度アップしてない?」
「たっぷりブラッシングしたからな」
「きゅい♪」
「で、どうする?」
「まずは装備!そして狩り!」
「なら武具だな」
「毛皮丸は装備整えたんだ」
「おう。おすすめの店があるぞ」
「じゃ、まずそこで」
「またマニアックな武器を…」
「別にいいじゃない」
武具屋でさんざん迷ったモフナーは、妙に体のラインを強調する革鎧をかった。初期所持金だとこんなものだな。武器は何と鎌だ。。
「農業系行くやつはともかく、戦闘のメインウェポンで鎌選ぶやつってお前くらいじゃね?」
「だからいいんじゃない」
こいつは昔からこうだった。流行しているものにはあえて手を出さず、常にマイナーな方へマイナーな方へ進んでいく。
飾らないから付き合うのは楽なんだけどな。
「じゃ、行くか」
「ごーごー!」
草原は相変わらずプレイヤーで埋まっていた。
「すごい人だね」
「奥ならなんとかなるだろ」
二人と二匹になって狩りの効率が上がったのか、日が落ちる前にモフナーとニャコのレベルは上がった。
「やっと上がった」
「僕は上がらない」
1から2へ上がるより2から3に上がる方が、必要な経験は多いよね。
「そろそろ戻ろっか」
「待った。あれ」
僕が見つけたそれ。
一羽のウサギが五羽のウサギに取り囲まれていた。
「ウサギの世界にいじめ?」
「いや、真ん中のやつ、周りのと種類がちがうっぽい」
念のため【識別】してみれば。
ファーラビット メス
モフモフウサギ。モフモフ初心者向け。
「ぶっ」
「毛皮丸?」
おい運営!わかってるじゃないかGJ。
「運営がこっち側の人間だった」
「なんかよくわからないのがわかった」
「とりあえず周り片そう」
「うん」
殲滅?一分でドーン。
周りのウサギを片づけても、ファーラビットはいつまでたっても襲ってこなかった。むしろ、鼻をうごめかせながら、つぶらな瞳で見上げてくる始末。
「何このかわいいモフモフ」
「戦闘にならないねー」
これはあれか?あれなのか!?
行っちゃいますか?
「来るか?」
びくっと反応してもうかわいいなにこのモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ。
「おーい、かえってこーい」
はっ
このウサギは魅了持ちか!?※運営注 断じて違いますが同類は歓迎します。
「スキル:テイム」
手をかざして唱えれば。
≪ファーラビット メス のテイムに成功しました。名前を登録してください。≫
きたーーーーーーーーーーーーー
名前、どうするか。
ファーラビット:トト Lv:1
HP:15
MP: 8
STR: 7
VIT: 5
DEX: 5
AGI: 9
INT: 4
MIN: 4
スキル:跳躍 蹴り
≪召喚可能枠がありません。送還されます。≫
お馴染みの立体魔法陣が浮かんで、新たな仲間、トトは消えていった。
「あれ、ウサギちゃんは?」
「無事テイム成功。でも召喚可能枠がないから送還された」
「えー、いいなー!」
「モフナーもそのうち増えるさ」
そうしてモフナーをなだめすかし、僕らは街へと帰った。