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黒衣の騎士に捧げる花束  作者: すずな
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長い冬があけて、西国には色鮮やかな花々が咲きだした。

その名のとおり、西国は大陸の西側に位置する小国だが、周辺各国に陸路も海路も開けている。

ここ数十年は戦争もなく、比較的平和な治世だ。

戦を望まず、民が平和に安心して暮らせる世を作ろうとする国王のおかげで、人々は農作物を作れるし商売もできる。


そんな西国の中心、王都にある王城で。

春の穏やかな風が、軽い足取りで歩く少女の髪を揺らす。

少女・ラヴィの長くフワフワした薄茶色の髪は、西国の民にしては薄すぎるのだが、日に当たると金色のようにも見える自分の髪を、ラヴィはとても気に入っていた。

ラヴィは西国の王城で働く女官だ。

とあるつてで城に上がって、すでに7年になろうとしている。

今の主に仕えだして3年だが、それまでは城のあちこちで仕事をさせてもらい、城内に顔見知りもたくさんできた。

この日も、朝から主の使いに走り、昼前にようやく落ち着いたところだ。

ラヴィの職場は王城の東側の棟、皇太子の暮らす宮である。

王城の中心部である中央宮に用があったため、そこと東側をつなぐ回廊をラヴィは進む。

するとちょうど回廊の反対側、東側の棟から歩いてくる団体が目にとまる。


「ラヴィ!」


その中の1人の少年が、ラヴィを呼ぶ。

西国王の1人息子、つまり皇太子であるカデル王子だ。


「カデル様、ただいま戻りました」


ラヴィは、カデルと、その周りにいる複数の女官達の元に駆け寄る。

女官達は、ラヴィの先輩女官や同僚達だ。


「おかえり、ラヴィ。どうだった?母上に渡せた?」


カデル王子が気にしているのは、王子が描きあげた絵画を母親である王妃に渡せたかどうかである。

ここのところ政務で忙しく、王妃と皇太子はまともに話をする時間すらとれないのである。

カデル王子自身も日中は、王族の勉強や作法の授業があり、王妃のいる中央宮に足を運ぶ時間がとれない。

そのため皇太子付きの女官であるラヴィが、早く母親に絵を見せたいというカデル王子に代わって中央宮まで届けに行ってきたのだ。

絵画ひとつでも母親に見せたいという幼心が、賢いカデル王子の年相応さを表しているかのようで、皇太子付きの女官達はみな微笑ましく思っていた。


「政務の合間に、直接王妃様にお渡しする事ができましたよ。とてもお喜びのご様子でした」


ラヴィはにっこり笑って答える。

するとラヴィの答えが相当嬉しかったらしく、カデル王子は満面の笑みになる。


「良かった!母上のお仕事が落ち着くまでは、僕も頑張るんだ!」


なんていじらしく可愛いらしいんだろうと、ラヴィも目じりが下がる。

カデルが3歳の頃から女官として側に仕えているが、カデル王子はとても利発で賢く、それでいて素直な子供だった。

王族に産まれついたため、6歳児にしては勉強量も多く自由も効かないはずだが、彼は文句も言わず、将来の次期国王候補として学ぶ毎日なのだ。


「あのね、ラヴィ。今みんなで中庭の花畑で花冠を作ってたんだ。これ、ラヴィに似合うかとおもって…」


そう言ってカデル王子が差し出したのは、ピンク色と黄色の花を基調とした、手作りの花冠だった。


「まぁ、素敵な花冠!ありがとうございます!」


カデル王子みずからラヴィの頭に乗せてくれようとしたので、ラヴィは彼が乗せやすいように少し屈んでみた。


「やっぱり、ラヴィの髪に似合う淡い色のお花ですね」


ラヴィの先輩にあたる女官がそう言った。

カデル王子はその言葉に満足そうにうなづき、


「ラヴィの頭が小さな花束みたいだね」


そう言って笑顔を見せた。

主のその笑顔に、ラヴィは心の中まで春の暖かさを感じたような気持ちになった。



ラヴィが王宮に始めて来たのは今から7年前。

ラヴィが10歳の時だった。

ラヴィは物心つく頃には、父親と2人で大陸のあちこちを旅していた。

そうしている内にこの西国にたどり着き、縁あって父は王城内で仕事を得る事になったのだ。

働くことはちっとも苦ではない。

仕事仲間には恵まれたし、仕えている主のカデルは王子とはいえ、とても素直な良い子供だ。

ラヴィはこの王城での日々にとても満足していた。

そう、少なくともあの夜までは。




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