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決意









「あら、おかえりティオ。ごめんなさいね、私の為にわざわざ。

……で、そちらの方は?」



泰斗に気付いたティオの母が尋ねる。



「初めまして、俺は桐谷泰斗っていいます。

泰斗と呼んでください」

「私はティオの母で名前はフィーです。

よろしくね、泰斗さん」

ティオのお母さん、フィーは泰斗に微笑みかける。



その花のような笑顔を見て、やはり親子だな、と泰斗は心の中で思った。



「お母さん、具合は大丈夫なの?

泰斗さんは助けてくれた人でね……。

あと、治療薬の材料も採ってきたの……。

それから、それから……」

「落ち着いて話しなさいよ、ティオ」

穏やかな口調でティオを落ち着かせる。



「ごめんなさいね、泰斗さん。落ち着きのない子で…」

「いえいえ、気にしないで下さい。俺も幼い時はこんな感じでしたから」

「ちょっとお母さん、それに泰斗さんもっ‼︎

泰斗さん、それはどういう意味ですかぁ?」



三人は顔を見合わせて笑いあった。
















ティオがこれまでの経緯と泰斗との出逢いをフィーに話す。


「そうだっの。泰斗さん、この度は私と娘がご迷惑をかけて…」

「いえいえ、自分でやった事ですから」

「ありがとうございます。お礼も兼ねて是非、晩御飯はうちで食べていってくださいね」

「お言葉にあまえさせて、ご馳走になっていきます」

「ホント⁉︎私が腕に寄りを振るうよ!」



どうやら、晩御飯はティオが作るらしい。

ティオが晩御飯を作っている間、泰斗とフィーが話をする。



「そう言えば、泰斗さんはあの子の気持ちに気付いているのでしょう?」

「……何のことでしょうか?」

「惚けたって無駄よ。女の勘は鋭いのよ」

そう言ってウインクをする。



”女性は勘が鋭い”と言うが、泰斗はこの時、身を以てその意味を知った。



「…まいったな、降参です。一応気付いてないって言うのも嘘じゃありませんよ?確信がもてなかったんです」

「あら、やっぱり気付いてたの?」

「……カマをかけてたんですか?こわい人ですね」

「あら、やだ。自分の子供だもの、初恋は実らせてあげたいじゃない?」



フィーはそう言って昔を懐かしむ。



「あの子の父親、つまり私の旦那も私の初恋の相手だったわ。だから、あの子の初恋も実ってほしいのよ」

「……俺はこの国にはいられません。もし俺がティオとそういう関係になるのなら、この国には居られなくなるかもしれませんよ?」



泰斗は一応、【ドレッド王国】の『異世界の勇者』だ。

そんな人物がおいそれと、他国に留まり続けることは出来ないし、バレたら何をされるか分からない。



フィーはその言葉に驚きを示した。

しかし、それは一瞬の事ですぐにさっきのように微笑みながら続ける。



「…それも覚悟の上でよ。もし、あの子が望むなら私は絶対に反対しないわ。泰斗さんが

例えどんな人物だったとしても関係ないわ」

「……そうですか、覚悟を決めました。

ですが、少し時間を下さい。こういう事は初めてなものですから…」

「構わないわ。急かしているワケではないから安心して」











ティオが夕食を作り終わえ、三人で晩御飯を食べる。

出てきた料理はビーフシチューがメインの洋風なメニューだった。



「「「いただきます」」」



泰斗はビーフシチューをスプーンに掬う。

ティオは泰斗の様子を恐る恐る見つめる。

そんな視線を受けながら、泰斗はそのまま口に入れる。



まろやかでクセになるような味が口に広がっていく。

ビーフシチューは泰斗が今まで食べてきたものよりも美味しい、と感じさせる一品だった。



「美味しいよ、ティオ」

そう言ってティオに微笑む。

その言葉を聞いてティオは嬉しそうな顔をする。



フィーは、今までで見たことのないティオの笑顔に心を綻ばす。

お似合いの二人だ、フィーはそう考えながらティオの作った夕食を食べ始める。














夕食を食べ終わると、泰斗はソファーに寄り掛かって少し考え込む。

そして、決心する。



「ティオ、少しいいか?」

泰斗は、先程食べた夕食の皿洗いをしているティオに話しかける。



「え?‥ちょっと待って下さい、もう少しで皿洗いが終わりますので」

「あらティオ、私がやっておくから行ってきなさいよ。場所はそうね……裏山の頂上とかがいいんじゃないかしら?」



フィーはそう言って、泰斗に向かってウインクする。

ありがたい、と泰斗は言葉に出さずに手でお礼する。



「ありがとう、お母さん。あそこは景色が綺麗だしね。泰斗さん、そこでいいですか?」

「あぁ、案内してくれるか?」

「はい、じゃあ行きますか?」

泰斗とティオはそう言って出掛ける準備をした。














ティオ達の家は兎人族の集落にあり、その周りは低い山で覆われている。

ティオの家の裏にはその中でも一際高い山があり、頂上までおよそ数百メートル。

山は【森】とは違い、魔物はいないが動物や植物がある。

山はよく狩りなどに使われる。



泰斗とティオは頂上まで続く一本道をどちらも無言で進んでいった。

十分後、二人は頂上に着き、二人は空を見上げた。

空気が澄んでいるのか、いつもより空がハッキリと見え、黒い世界の中に輝き続ける星がより綺麗に写る。

二人はその光景に感動し、少しの間再び沈黙が続く。




そして、泰斗が勇気を振り絞って話し出す。



「ティオ、俺は君が好きだ。花のような笑顔で微笑む君の顔が好きだ。料理上手な君が好きだ。優しい君が好きだ」

「え……本当‥ですか?」

泰斗の突然の告白に、ティオは驚く。



「あぁ、本当だ!」

「わ‥私も泰斗さんが好きですっ‼︎

強くてカッコいい泰斗さんが好きです。私を守るって言ってくれた泰斗さんが好きです。

私に微笑んでくれる泰斗さんが大好きです」

ティオも泰斗の告白に応える。

そして、ティオは泰斗の方へと近づくが、


「すげぇ嬉しいけど、言わなくちゃいけないことがあるんだ」

「…え?何ですか?」

「俺は【ドレッド王国】の異世界の『勇者』なんだ。だから、俺とティオが恋人になると安全な生活が出来なくなるかもしれない。

それでも君は…んちゅ……ってな‥何を?」



ティオは泰斗の言葉を遮って、そのまま少し背伸びをして泰斗の唇に自分のそれを押し当てる。

つまり、接吻キスということだ。

突然のキスに泰斗は顔を真っ赤にさせて、ティオを見る。

そこには泰斗と同じくらい真っ赤な顔をしたティオがいた。



「あなたがどんな人物だろうと関係ありません。私は貴方を愛しています。だから私は何処までも貴方に付いて行きます。多分、お母さんも許してくれるでしょう」

ティオはそう言って、さっきの大胆な行動を思い出したのか、顔を俯かせる。

そして、泰斗は、



「…まったく……君ってやつは。俺、桐谷泰斗はティオを死ぬまで守り、愛することを誓おう」

この騎士の様なプロポーズは獣人に使われるプロポーズらしく、出掛ける前にフィーに聞いていたのだ。



そう言って顔を俯かしているティオに近づいて、今度は泰斗が少し屈んでティオに口唇を合わせた。




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