異世界召喚
今、俺は大勢の人が集まっている街の中を馬車に乗りながら呆然としている。
いや、驚いているのは俺だけじゃないはずだ。
俺の周りには俺と同じ様な反応をしているクラスメイトが数人いる。
恐らく、後ろの馬車に乗っているクラスメイトや同級生も同じ様な反応をしているだろう。
今俺達がいるのは馬車の中で、何をしているかというと大勢の街の人達の真ん中をまるでパレードのように馬車で運ばれている。
「勇者様ー!」
「魔王を倒してください、勇者様ー!」
「勇者様是非魔王をお倒しに!」
俺達を囲んでいる大勢の街の人達が俺達に声援を送ってきて、期待の目で見つめている。
かけられてくる声援の中で“ 勇者 ”や“ 魔王 ”というフレーズが聞こえてきた。
“ 勇者 ”とは俺達のことだろう。
“ 魔王 ”というのを倒せということなのだろうか?
俺達は訳が分からずに連れられて来たのだから何のことかさっぱり理解できない。
とりあえず、どうしてこのような状況になっているのかというと・・
〜遡ること一時間前〜
キーンコーンカーンコーンー。
学校のチャイムもなって昼休みに入った。
「今日やった内容はテストに出るぞー、きちんと復習しとけよー」
数学の授業担任が来週のテストの内容に出る範囲を生徒達に話し、午前の授業が終わる。
教室にいる生徒達はというと寝ている生徒が数人、欠伸をしている生徒も少なくない。
数学というか授業は眠くなる、というのはやはり当然だろうか。
授業が終わり、生徒達は昼飯を食べようと購買部に行ったり、弁当を食べようと鞄から出したりしようとする。
高校生の昼休みと言ったら友達と机を並べて昼食を取るというのが普通だろう。
そんな中、窓際の一番後ろに一人机に突っ伏している男がいた。
その男の名前は桐谷泰斗。
身長は185センチ、体重は75キロ、細身に見えるが筋肉質。
顔立ちはというと俗に言うイケメンで、黒目に黒髪。
見た目はクール系といった感じだ。
ちなみに彼女なし、友達もいない。
ついでに童貞だ。
勉強は上の下、運動神経も抜群というリア充のような男だ。
しかし、何故このような男に彼女、しかも友達が居ないのかというと間が悪いのである。
彼は女子にモテていた。
毎月告白されているのだが、どうしようかと答えを出すのに考えてる時間が長すぎて、女子が断られたと思って帰ってしまうことが多かったのだ。
友達の場合もそうだ。
遊ぶ約束をするといつも急に風邪を引いたり、急用ができたりするので嫌な奴だと勘違いされるのだ。
そんなことが数回あって噂になり、尾ひれがついて、顔は良いが性格は悪いと誤解されているのである。
彼自身も友達や彼女は絶対に欲しい、とも思わなかったのでそのようなことになってしまった。
泰斗がそうやって何時ものように寝ようとするとクラスにいる全員の足元が突然光り出した。
クラスメイトが慌てている中、泰斗は起きたがまた寝ようとする。
すると、机が無くなり、教室ではない視界全体が暗いところに立っていることに気付いた。
その事に驚いて周りを見るとクラスメイトや隣のクラスの人など泰斗の学年の生徒約100人が同じ様にその場所に立っていた。
みんなこの状況に驚いている。
「暗いなー、なんか不気味だわ」
「どうなってるんだぁ?」
「おーい、大丈夫か?」
「ここどこ?」
とクラスメイトが不安の中で泰斗は眠いなぁ、と的外れなことを考えていた。
ニ、三分経った後、視界全体が変わった。
今度はなんだ、とみんなが思っていると目の前には森が広がっていた。
ただの森ではない。
どこか神秘という感覚を持たせ、ファンタジーを思わせるような木々が立ちのぼっている。
そんな景色にみんな惚けていた。
「貴方様方が勇者様なのですね?」
綺麗で澄んだ声を掛けられて全員我に返る。
そこにはおとぎ話に出てくるお姫様の様な格好をした自分達と同じ歳の女の子がいた。
その女の子は金色のいわゆるドリルヘアーをしていて、顔の造形は整っていた。
「とりあえず立ち話もなんですので、こちらに付いて来て下さい」
そう言われてみんな困惑していたが、何も分からずに案内され馬車に乗せられた。
そうして冒頭のようになった、ということだ。
あのパレードの様な出来事から解放されて馬車が止まった。
「皆さんお着きになりました、ここが我が城でございます」
「「「「「「おおー」」」」」」
先ほどの女の子がそう言うので馬車から降りてみると、そこには立派なお城が建っていた。
あまりの光景にみな驚いている。
これには泰斗も流石に驚嘆し、喜ぶ。
泰斗は実はお城マニア、である。
「では、こちらに付いてきて下さい」
そう言われ、また女の子に付いていく。
女の子の側には鎧を着た騎士の様な男が数人立っていた。
腰には剣を持ち、刺されると痛そうだ。
というか本物なのだろうか?
そんなことを考えて十分くらい歩いていると
女の子が豪華な扉の前で止まった。
「こちらに国王様がいらっしゃいます。
皆さんには国王様と会ってもらいます。では、お入り下さい」
そう言い、大きな扉の中に入っていく。
泰斗達も扉の中に入っていく。
中には数人のなにだか高貴な感じの人が数人とその中央には王様らしき人物がいた。
その人物は白い髭を生やしたトランプのキングのような人で、玉座に座っている。
これには思わず笑いそうになってしまうが、相手は王様と聞いていたので何とか堪えている生徒は何人かいた。
王様はそんなことに気付かず、喋り出す。
「我はこの国の王、アズマール・ドレッドじゃ。」
王様はそのように自己紹介をして、後ろに立っている大臣達も紹介した。
大臣の紹介を終えると、先程の女の子が自己紹介をした。
「私はその娘クリスティーナ・ドレッドですわ。先程から何も説明いたしませんで申し訳ありません。今からこの世界ガイアについて説明いたします」
この世界?ガイア?
聞いたことがない単語が出てきて皆困惑する。
そんな時泰斗はおそらくここは異世界であり、異世界転生されたな、と大方の予想はつけていた。
泰斗は何を隠そうライトノベルやその類の小説が結構好きだったのだ。
友達もいなかったので本やネットを検索していくうちに見つけ、それ以降どっぷりとはまってしまったのだ。
「まずこの世界はガイアと言って、貴方達の世界とは違う別世界です。最初に皆様がいた場所が召喚場になっていて、私達にそこに迎えに行くように、と世界神キース様がお告げになられたのです」
「何故私達はこの様な所へ呼ばれたのですか?それと、元の世界へ帰れる方法があるのでしょうか?」
そう言って、質問したのは泰斗達の学年で生徒会長をやっていた八神祐介がいた。
彼は八神財閥の御曹子で成績もトップクラス運動神経も抜群、ハーフということで金髪に青い目を持ったイケメンだ。
ただし、泰斗とは違って友達も多いし、彼女もいる。
彼女と言っても親に決められた許婚だ。相手は嫌がっているらしいが、彼は乗り気らしい。
ちなみに相手もこの学年にいる。
「貴方達を呼んだのはキース様であるので私達には分かりません。恐らくは私達と争っている魔族や魔王の退治をしてもらいたい、という私達の願いにキース様が応えてくれたのかもしれません。
それと元の世界に帰る方法ですがこれも私達には分かりません。魔王が知っているという噂もあるのですが、キース様に聞かないと何とも言えません」
その言葉を聞いて皆が不安がる。
もしかしたら帰れないのでは、という憶測が頭の中で繰り返される。
そんな中泰斗は腹減ったなぁ、とまた的外れな事を考えていた。
《その質問には我が答えよう》
何処からか、老若男女の不思議な声が聞こえてきた。
「キ、キース様なのですか?」
王女や王様、後ろの大臣が驚きそう答えた。
《如何にも我はキースだ。アズマール、クリスティーナ、ご苦労であったな。》
「い、いえ滅相もございません」
《それと地球の諸君、我がさっきの質問に答えよう。
まず、諸君をこの世界に呼んだ理由は先程クリスティーナが言った通り、魔王の討伐だ。
近年魔王や魔族が強化しており、人族では戦争に勝つのは難しくなった。そこで高い能力を持つ地球の若い者達を呼んだのだ。
地球の者はこの世界より高位の存在だから能力は高い。勝手ですまない、とは思っている。
そして、帰る方法だがそれは魔神が持っていたのだ。つまり魔王達がその方法を知っている可能性が高い。君達が魔王を倒してくれると手に入ると思う》
「そ‥そんなこと言われても…
私達には戦う力などないし、戦争だなんて無理ですよ」
ほかの生徒達が不安に思っている中、八神は世界神キースに言う。
《案ずるな。先程言ったように諸君等地球人は力が強い。並大抵の相手では相手にならないだろう。
それに召喚した時に我の力で諸君に力を与えた。人それぞれ違うだろうが、全員が強力な力を持っているはずだぞ》
「しかし…戦争なんて…」
いきなり、戦争と聞いて少し恐れている八神が反論する。
《そうだな、タダでと言うのは流石に無理よの。では、魔王を討伐したあかつきには諸君一人一人の願いを叶えるというのはどうだ?もちろん、地球に帰るという以外でしゃ》
「そんな事も出来るのですか?」
《うむ、容易いことよ。こちらが頼んでるのだしな》
八神が迷っている顔をしている。
そして、みんなに意見を聞く。
「みんなはどうしたい?」
「俺は戦ってもいいと思うぜ、男ならドンとやれだぜ」
「私も!願い叶えてくれるとかヤバい〜」
「異世界だから魔法とか使えんのかな?」
何だかんだで皆乗り気である。
男子はこんな状況に酔っているのか殆どが乗り気になっているし、女子はも同様だ。
“ 異世界 ”というのはやはり、オタクじゃなくても興味をそそる。
「じゃあ、承諾していいんだな?」
「オッケーだよな、みんな?」
「「「「「おう」」」」」
「「「「「ええ」」」」」
殆どの男女が賛成したので反対の少数派も参加することになった。
「キース様、私達やってみせましょう」
《おぉ、そうか。では頼んだぞ。我は少しの間眠る。いい結果期待しているぞ》
そう言って世界神キースは何処かへと行ったのか、声は聞こえなくなった。
「では、魔王を倒してくれるのですね?」
王女はさっきの会話を聞いてそう尋ねる。
「はい、我々に任せて下さい」
「ありがとうございます、勇者様。なんて凛々しい殿方…」
王女はそう言って八神に近寄った。
八神はそんな状況になれているのか王女の手をとり、手の甲にキスをする。
王女は照れて赤い顔をした。
俗に言うちょろイン、なのか?
同級生達は
「「「「おぉぉぉぉぉ!」」」」
「「「「きゃぁぁぁぁ!」」」」
という感じで盛り上がっていた。
そんな時泰斗はなんか怪しいんだよな、と王女達を疑っていた。