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ハクチユウム  作者: 月刊乙女
8/9

ハクチユウム Ⅷ





 十五年前、世界のルールは変わった。 ルール改定に伴い、文明のいくつかは滅んでいった。 そのひとつにインターネットがある。

 情報メディアに乗ってALICEが拡散するのを防ぐためだ。

 だが、この世にコンピュータが消えたわけではない。 プライベートなコンピュータこそ回収されたものの、会社などの組織はコンピュータをネットに繋げず使用している。 外からはいることもできないし、出ることもできない。

そんなスタンドアローンな状態に保たれている。 おかげでハッキングの件数はゼロになったわけだが。


 そして、十五年前のインターネット上の情報が全て保存されているのがこの警視庁の資料室なのだ。


 野崎は明らかに誰かをかばっている。


『速瀬道流に関わるな』


 だが、速瀬は既に死んでいる。 守っているとすればあのマネージャー、それしか考えられない。

 野崎はこんなことも言った。


アキバ(ここ)には来るな』


 つまり、アキバに何かバレたらマズイものがある。 それはマネージャーか、あるいは、私の想像もつかない何か。


 私は検索エンジンに名前を打ち込んだ。

ディスプレイに無数の速瀬道流に関する情報が現れる。


『新曲  速瀬道流』

『WIKI  速瀬道流』

『歌い手 速瀬道流』

『速報  速瀬道流』

 エトセトラ エトセトラ。


 ログは2015年。 やはり速瀬道流はそれ以前からいたことになる。


「……まてよ」


 十五年前、速瀬道流が具現化した。 だがALICEには具現化するためのが必要となるはずだ。 ログからみて速瀬道流は十五年以上前から歌を配信していたことがわかる。 つまり、速瀬道流にはオリジナル(・・・・・)がいる。 もし今、そのオリジナルが生きていた(・・・・・)としたら、およそ四十代。

 つまり。

「マネージャーと同じ年代?」



その時、携帯が鳴った。


「……新十郎」


「野崎……」


「電話番号くらい定期的に変えろ。 不用心め」


 野崎は笑った。 共に仕事をしていたときのように。 しかし笑い声はだんだん小さくなって消えていき、長い沈黙をつくった。 とても長い時間だった。 ように思えた。

 私は野崎の次の言葉を辛抱強く待ち続けた。


「これから、私のいう場所にこい」


 まるで、自分の意思ではない、誰かに操られているかのように。

 まるで母親に言われ、友達に大切なおもちゃを嫌々譲る子供のように。


 彼は言った。


「彼女が、呼んでいる」



 今から私の言う場所に来い。 来なければ殺す。 一人で来い、仲間を連れて来るなよ。 あの頭の悪そうな斎藤とかいう男は絶対にな。 私も、私の仲間も誰もいない。 彼女とお前だけだ。 いいな。 彼女に何を言われようと、彼女を傷つけるな。 分かったか。 ……それと、お願いだ。 彼女を守ってくれ。




 C地区の外れ、デンジャーゾーンとの際目あたり。 そこに忘れ去られたひとつの教会がある。


 約束の場所。


 そこに彼女がいる。


 私は、誰にも知られることの無い、荒れ果てた黒い墓石の並ぶ墓地を抜け、錆び付いた忘却の扉を開いた。






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