八~フランシスの書簡~
親愛なるクリスティへ
お元気ですか?
こちらはますます寒くなり、雪がたくさん積もっています。シラーズでも、そろそろ雪が降るころでしょうか。
もうすぐ雪で街道が通れなくなるため、明日村に来るのが最後の行商人になるそうです。春になって雪が少なくなるまで手紙は送れなくなるでしょう。この手紙の返事も、たぶん受け取れないと思います。ごめんなさい。
さて、この前村の近くに狼が出ました。小隊の三人と、村の人たちとで協力して退治しましたが、ハンター曹長に怪我をさせてしまいました。「犠牲を出すことに責任を感じるのはいい。でも、犠牲を出してしまうことを恐れて判断を鈍らせてはいけない」ということを、ハンターさんに教えられました。
僕は、まだまだ軍人になるということへの覚悟が足りなかったようです。それから、人の上に立つというこの難しさを教えられました。いつも竜相手に僕たちを指揮している少佐の気持ちが、少しだけわかった気がします。
ハンターさんは熊、狼ときたら次は竜だ、なんて冗談を言いましたが、それだけは勘弁して欲しいです。
さっきも書いたけど、もうすぐ街道が通れなくなります。隣村くらいまでなら行けないこともないらしいけど、危険な山道を通らなければならないので、村はほとんど孤立状態になってしまうそうです。春までの食料や薬を蓄えるため、年の瀬を前に大忙しの毎日です。駐在所の食料はドロシーがすべて管理してくれているので、僕たちはもっぱら火口を作ったり、薪を割ったりしています。
狼が出た以外は、最近の村は平和そのものです。僕たちの仕事は村の平和を守ることですが、本当に何も起きないので正直なところやることがありません。なので、訓練のほかは、村の人たちの手伝いをして過ごしています。男の人たちはほとんど出稼ぎに出ているので、力仕事をしてあげるととても喜ばれます。
村の人に気に入られたのは嬉しいんですが、結婚していない娘さんがいる人からは、しきりにうちの娘を嫁にもらってくれ、と言われるのが困り物です。でも、僕はシラーズに戻らなければならない身だし、いつ死んでしまうともわからない危険な任務に就いています。なので、まだ結婚は考えられないかなぁ。小隊のアントニーさんのほうが年上なので、村の人たちもアントニーさんのお嫁さんの世話をしてあげればいいのに。当のアントニーさんも、しきりにうちのドロシーをもらってくれ、と言ってきます。でも、ドロシーみたいないい子なら、僕以外にもすぐいい相手がみつかるんじゃないかなぁ。
時間も遅くなったので、今日はこのへんでペンを置きたいと思います。次に手紙が出せるのは、この村での任期が切れるころになると思います。隊長という役目に就いてから、たくさんのことを学びました。春には、少しでも成長した姿を見せられたらな、と思います。
では、これからますます寒くなりますので、風邪などひかないよう気をつけてください。隊のみんなにもよろしく。
追伸
村名産のすぐりのお酒を一緒に送ります。量は多くないけど、みんなで分けて飲んでください。白ワインで割って飲むのがお勧めです。




