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ドラゴンズヘブン  作者: 田崎 将司
老人と竜
35/60

「大成功じゃないか。よくやってくれた」

 琥珀竜討伐作戦から帰還した翌日のことである。

 執務室にて、レナードがダイアナに労いの言葉をかけた。なにせ、成功自体が危ぶまれた作戦だ。死者ゼロ・装備の損耗もほぼなしでの琥珀竜撃破、というのは目ざましい結果である。常識的に考えれば、指揮官の手腕が絶賛されて然るべきだ。

「いえ、この成功はニューマン殿のご指導の賜物でした。自らの未熟さを改めて思い知りました」

 謙遜ではなく、ダイアナ本心からの言葉であった。

「どうだった? アルフ老と一緒の作戦は」

「はい。とてもいい勉強をさせていただきました」

「うむ、そうだろう」

 ダイアナの表情を見て、レナードは満足げに頷く。

「それで、アルフ老はどうしてる?」

「ニューマン殿は、調査任務から帰還して、すぐにまた討伐作戦という強行軍でしたので。お休みになられているのでは」

「そうか。いい酒が手に入ったから、久しぶりにアルフ老と飲み明かそうと思っていたのだが」

 レナードは、椅子に深く腰掛けて腕組みする。アルフレッドは斥侯としてきわめて優秀だが、もう七十になろうかという高齢だ。いつまでも負担をかけるわけにはいかない。引退も視野に入れ、後継者のスオウの育成を急がなくては。

 そんなレナードの思考を乱したのは、窓の外から聞こえてくる喧騒だった。ドタドタという荒々しいいくつかの足音と、何か物が崩れるような騒音。

「待ちなさい! 乙女のお尻を何だと思ってるの!!!」

「ええじゃないか、尻の一つや二つ。減るもんでもあるまいて」

「こら! もう、歳のわりにすばしっこいんだから!」

「まったく、そこまでムキにならんでもいいじゃろう。胸と一緒で、度量の小さい女子じゃの」

「~~~っ! 絶対許さん!!!」

「ちょ、クリス! 真剣は拙いって! 二人とも待って!」

 喧騒は、しだいに遠ざかっていった。

「……元気そうだな」

「ええ。賑やかなことです」

「まだまだ引退の心配は要らないようだな。アルフ老には、もう一頑張りしてもらうとしよう」

 レナードとダイアナは、顔を見合わせ苦笑するのだった。


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