八
「大成功じゃないか。よくやってくれた」
琥珀竜討伐作戦から帰還した翌日のことである。
執務室にて、レナードがダイアナに労いの言葉をかけた。なにせ、成功自体が危ぶまれた作戦だ。死者ゼロ・装備の損耗もほぼなしでの琥珀竜撃破、というのは目ざましい結果である。常識的に考えれば、指揮官の手腕が絶賛されて然るべきだ。
「いえ、この成功はニューマン殿のご指導の賜物でした。自らの未熟さを改めて思い知りました」
謙遜ではなく、ダイアナ本心からの言葉であった。
「どうだった? アルフ老と一緒の作戦は」
「はい。とてもいい勉強をさせていただきました」
「うむ、そうだろう」
ダイアナの表情を見て、レナードは満足げに頷く。
「それで、アルフ老はどうしてる?」
「ニューマン殿は、調査任務から帰還して、すぐにまた討伐作戦という強行軍でしたので。お休みになられているのでは」
「そうか。いい酒が手に入ったから、久しぶりにアルフ老と飲み明かそうと思っていたのだが」
レナードは、椅子に深く腰掛けて腕組みする。アルフレッドは斥侯としてきわめて優秀だが、もう七十になろうかという高齢だ。いつまでも負担をかけるわけにはいかない。引退も視野に入れ、後継者のスオウの育成を急がなくては。
そんなレナードの思考を乱したのは、窓の外から聞こえてくる喧騒だった。ドタドタという荒々しいいくつかの足音と、何か物が崩れるような騒音。
「待ちなさい! 乙女のお尻を何だと思ってるの!!!」
「ええじゃないか、尻の一つや二つ。減るもんでもあるまいて」
「こら! もう、歳のわりにすばしっこいんだから!」
「まったく、そこまでムキにならんでもいいじゃろう。胸と一緒で、度量の小さい女子じゃの」
「~~~っ! 絶対許さん!!!」
「ちょ、クリス! 真剣は拙いって! 二人とも待って!」
喧騒は、しだいに遠ざかっていった。
「……元気そうだな」
「ええ。賑やかなことです」
「まだまだ引退の心配は要らないようだな。アルフ老には、もう一頑張りしてもらうとしよう」
レナードとダイアナは、顔を見合わせ苦笑するのだった。




