<5> 医者の仕事は驚くことばかり-先生と呼ばれる
世間では、医者のことを先生と呼んでいます。私なんかも、大した者でもないのに「先生」なんて呼ばれちゃっています。(←(^ω^)そう呼ばれて悪い気はしませんけどね)
先生と呼ばれる人には、学校の教師は当然として、政治家、弁護士、医師、作家、その他、偉い又は偉そうな方々がいます。
たまにフザケて、そう呼んだりすることもありますね。
そういう私も同じ部類で、大学を卒業して国家試験に合格し、医者になったとたん、みんなが私のことを「先生」と呼ぶのです。(←(^ω^)最初は鳥肌が立ったよ)
それまで、自分の名前は呼び捨てか、君付けがせいぜいで、先生などとは間違っても呼ばれたことがないのに、医師免許を取ったらとたんに「先生」になってしまったのです。
これには驚きました。突然先生になったんですからね。同僚を先生と呼ぶのも、同僚からそう呼ばれるのも、どうもしっくりとこない感じで、きまりが悪かったことを覚えています。
病院内の電話で、
「先生ですか」
などとナースに言われると、あまのじゃくの私は、
「いや、先生ではありません。医者です」
とわざわざ返答するのです。相手はそれを聞いて、しばし途方にくれていました。
先生とは、人の「師」となるような人を指す言葉なのですが、右も左も分からない者を、医者だからといって、先生と呼ばれるのにはすこぶる抵抗があったのです。
しかし、本音をいって、そう呼ばれて悪い気はしないものです。
そうこうしているうちに、「師」でもない者が、本当に先生になったような気がして来ますから、言葉というものは恐いものです。
そして態度も、ついつい偉そうになってきます。患者やナースを怒鳴りまくるヤカラも、出て来るのです。
病院の当直には、研修医を終えたばかりという、若い医師が時々来ます。まだ若いので、社会の悪弊に毒されておらず、偉そうな話し方や態度はありません。話していて、すがすがしさを感じます。
もちろん、相手の私が先輩であることもあります。理系の世界には、文系とは違って、先輩後輩の立ち位置がはっきりしているのです。人柄はどうでも、先輩がとにかく偉いのです。(←(^ω^)昔の徒弟制度の名残かな)
それが年を取って、先生という呼称が板に着くころになると、残念なことに横柄な物言いになり、上から目線の態度になっていくのです。(←(^ω^)先生と呼ばれることが当たり前と思っている人に、大した人物はいないのは本当だね)
医師という言葉には、人命に直接関わるところから、本来「先生」という意味合いが含まれています。しかし、単なる技術屋になり下がった場合は、医師ではなしに、医術屋と呼んだらいかがでしょう。
とにかく医を志した以上、本当の意味で「医師」になりたいものです。