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カルテに書けない よもやま話  作者: いのうげんてん
2章 医者もいろいろ
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<17-6> 良いお医者短編集-私が出会ったホスピス医師たち

 私は以前、ホスピス病棟を埼玉県内の病院に造りました。それは関東初のものでした。


 その時、数多くのホスピス医師たちに出会ったのです。ホスピス医師たちは、みなさん人格的に素晴らしい人たちばかりでした。


 そのお一人が、本章「病室で結婚式を挙げた」に登場する女医さん、町田医師です。


 町田医師はホスピスの申し子のような優しい人柄で、患者目線で、心ゆくまで患者の話に耳を傾けてくれるお医者さんでした。


 時には、3時間ぶっ通しで話を聞くこともあったのです。巷で揶揄される「3時間待ちの3分間診療」とは、大違いでした。


 医師に話を聞いてもらうだけで患者さんの苦痛は和らぎ、それにつれて使うモルヒネの量も減っていくのでした。


 その後私は、倒産した病院の再建を託され、病院長としてその病院に赴任しました。


 横浜郊外にある地域病院でした。


 経営難から、院長、事務長ともに失踪してしまい、廃院寸前に陥ったのです。ところが廃院から病院を守ろうと、職員たちは無給でその病院に籠城したのです。


 その医療戦士の熱意に打たれて、私はその病院に赴任しました。(←(^ω^)本サイト『いのちの砦』にその闘いの日々をつづりました)


 いかにして職員の士気を高めるかが、その時、大きな課題でした。


 院長、事務長の失踪という前代未聞の出来事がトラウマとなって、知らず知らずのうちに職員の士気は低下していたのです。


 私は、「ホスピスを造ろう」というスローガンを思い立ちました。その頃はまだ、ホスピスは全国に10施設あるかないかの時代だったのです。


 スローガンに、活気が戻りました。


 その手始めに、市の各界に呼びかけ、ホスピス市民運動を起こしたのです。


 第1回講演会に講師としてお迎えしたのが、日本のホスピスの草分け的存在である大阪の淀川キリスト教病院柏木哲夫先生でした。


 「病院で迎える温かな死」が、講演のテーマでした。


 病院を半日休みにして、職員全員で臨んだのです。


 会場には定員650人のところに800人が入り、通路に座る人も出るほどの盛況ぶりでした。終末期医療に市民の関心が高まっていたのです。


 開演を告げるブザーとともに、緞帳どんちょうが上がり始めたその時、思いがけないことが起こったのです。


 机が幕に寄り過ぎていたため、上がっていく幕の下端が、机の片脚に引っかかってしまったのです。机の左端が宙に浮き上がり、1メートル程上がったところでバタンと舞台に落ちて、ひっくり返りました。


 一瞬、場内が水を打ったように静まり返ったのです。


 進行役の私はとっさにマイクを握ると、


「失礼しました。このまま天国へのぼるのかと思いました」


 場内は割れんばかりの拍手喝采で、講師も腹をかかえて笑ったのです。


 こうして何事もなかったかのように講演が始まり、ユーモアたっぷりの講演に、90分があっというまに過ぎ去りました。


 講演後の質疑応答で、私は質問しました。


「看取り(死)の話をしていて、こんなに笑っていいのでしょうか」


 柏木先生は笑っていいました。


「いいんですよ。それほど普通の事のように死を語ることは、とても大切なことなのです」


 その後、講演会には、上智大学のアルフォンス・デーケン先生、解剖学者の養老孟司先生、ノンフィクション作家の柳田邦男先生、聖ヨハネ会桜町病院ホスピス科部長の山崎章郎先生、昭和大学緩和ケアチームの高宮有介先生を、お迎えしました。


  挿絵(By みてみん) 


 ある有名な評論家に講演を頼んだところ、30分の講演で、100万円の講演料を請求されました。ところが、これらの方々は、ボランティアでそれを引き受けて下さったのです。


 しかも講演会後のスタッフの反省会にも、みなさん参加してくださいました。柳田先生、養老先生は、テレビ出演や講演などで多忙極まりない身でありながら、最後までスタッフと歓談してくださいました。


 ホスピス医のその誠実な姿勢に、私は強く心打たれたものでした。


 ホスピス病棟がオープンしたのは、それから1年後のことだったのです。


〈つづく〉



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