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カルテに書けない よもやま話  作者: いのうげんてん
2章 医者もいろいろ
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<14> ちょいワルお医者-すずめ医者

 医者も人間、ピンからキリまで十人十色。


 昔に比べると残念なことに、世間一般の人間性低落は否めません。犯罪の番人たる警察官が、痴漢、猥褻、飲酒運転、万引などなどで、マスコミをにぎわすご時世です。医者も同じ人間、「医者だけ立派であれ」というわけにはまいりません。


 老婆心ながら、私が今まで出会った中で、特に印象深かったお医者さんを紹介してみましょう。初めから駄目な「すずめ医者」の話で恐縮です。


 「すずめ医者」とは落語に出てくる話しで、これから「やぶ」に行こうとする医者のこと。やぶのやぶといったところです。



【雇われ院長】


 ある病院に、まさに「すずめ医者」と申すべき御仁がおりました。それも役職が病院長とあっては手がつけられません。


 勤務時間が終わると、誰よりもまっ先に帰ります。普通、病院長ともなると、事務長や看護部長の全体報告を受けて、何事もないことを確認してから、帰宅の途につくものですが、病棟がどうなっていようが全くお構いなしで、帰ってしまいます。


 こんなことがありました。ある日の夕方急患が入って緊急手術とあいなりました。その病院では外来は7時まで受け付けていましたから、誰かが外来の留守番をしなければなりません。その時は、あいにく院長しか出来る人がおりませんでした。


 そこで院長に事情を説明しお願いしたのです。ところがところが院長さん、


「今日は私の当番ではない」


のいってんばり。院長としての責任感はまるで感じられません。


 彼は大学で解剖学を専攻していたといいますから、病人に対する考え方そのものが違っていたのかも知れません。


 烈々たる説得にも、


「外来を中止したら良いでしょう」


 平気で言ってのけます。


 それほどまでに断る理由は一体何だろうか、尋ねてみて、


「わあ!!」


 驚天動地!契約したマンションの下見に今夕行くのだそうです。


 あきれ果て、話すのも無駄と他の方策を考えたのでした。


 それから間もなくして、当然といえば当然、その院長さんは解雇されました。



【手抜き医者】


 こんな言葉があるのかどうかは分かりませんが、話しついでにもう一人。


 脳外科のT医師は、手術の腕は悪くないのに、人間性が少々おかしいのです。


 朝起きが苦手らしく、いつも遅刻ばかり。


 外来が9時から始まるというのに、10時頃顔を出します。隣の診察室で診療している外科の私には、待たされている患者の苦情の声が、毎日のように聞こえてきました。


 ある時、頭部外傷の救急患者が運び込まれてきました。頭は泥だらけです。どうも田んぼの中に突っ込んだ交通事故のようです。


 幸いのことに、頭の裂創の縫合処置だけですみ、観察入院となりました。


「脳には異常がないから外科で診てくれ」


 数日後T医師は、その患者を外科に回してきました。


 入院して5日ほどして熱が出だし、縫った傷から膿が出始めました。泥まみれの傷ですから、こういうことは仕方ありません。


 膿を出すために縫合した糸を抜きました。


「わあ!!」


 傷を開いて、びっくり仰天。


 膿といっしょに出てきたのは、大小の木の葉っぱでした。


 縫合するときに、手を抜いてきちんと傷を洗わずに、ゴミをいっしょに縫い込んでしまったのです。


 入院患者のカルテには、ほとんど病状の記載はありませんでした。


 あげくの果てに、若い女性看護師に手を出して妊娠させ、ついに首になりました。


 医師には、良い腕はもちろんですが、ほどほどでいいから良き人間性も欲しいものですね。(←(^ω^)まったくだ!)



【取り立て屋?】


 またまたついでにもう1人。


 ある時、地域中核病院から電話がありました。呼吸器専門医からの電話でした。


 電話に出ると突然、


「あんた、何でキャンセルしたんだ!」(←(^ω^)取り立て屋かとほんとに思ったよ)


 大声で怒鳴りだしたのです。


 そのしゃべり方は、サラ金業者の取り立て屋と見まがうようなしゃべり方です。よくテレビ番組で、取り立て屋の録音テープを流す場面がありますが、まさにあのようなしゃべり方で、恐喝まがいな話しぶりでした。


 その前日に、私が80代男性の胸部レントゲンとCTを撮ったところ、大きな腫瘤陰影が認められ、肺癌が疑われたために、呼吸器科に紹介したのです。


 胸部CT写真を添えて、家族に一緒に行ってもらいました。


 帰ってきたら、翌日からびっしりと精密検査が予約されていました。家族は、この年齢でどうしたものかと考えあぐねて、私に相談にきたのです。


 侵襲の少ない画像診断検査ならともかく、気管支鏡検査や生検などが入っていて、とても80代の男性で、しかも、腫瘤が4センチもある人にやるべき検査とは思えませんでした。


 そこで家族と話し合ってその合意のもとに、検査を取り下げてもらったのです。それに怒って、先ほどの電話が来たのでした。


 医者の世界には、先輩を立てるという暗黙のしきたりがありますが、どう見ても私より一回りも若そうな医者なのに、全くお構いなしで、ヤクザのような口ぶりでした。


 私は丁重に、


「家族がそこまで検査すべきでしょうかと相談に来たので、肺癌と分かってもこれ以上何もしないつもりなら、止めてもいいのではないでしょうかと話しました。家族も了解しましたので、キャンセルさせてもらいました」


と話しました。


 ところが、


「そんなことはそちらの都合であって、こちらには関係ないだろうに」(←(^ω^)ほんとにこういう口調だよ)


と言い張るのです。最後には、


「こんりんざい、あんたの患者は診ないからそう思えよ」


 捨てぜりふまで残して、電話を無造作に切りました。


 私はじっとこらえて、声を荒げることもなく淡々と応対しました。それは、こちらから確定診断を頼んだ以上、礼を尽くさなければいけないと思ったからです。


 その言葉遣いや態度には、開いた口がふさがりませんでした。


「医者より取り立て屋の方がお似合いではありませんか」


と言いそうになりましたが、口は災いのもと、止めておきました。


 患者に対して、高圧的なしゃべり方をする医者はよく見聞きしますが、先輩と思われる医者を相手にして、こういう話し方をする医者には今までお目にかかったことはありません。


面食らいました。


 その患者さんは、半年で左胸に胸水がいっぱいになり、亡くなりました。


 むこうの医療連携室に、うちのワーカーから連絡を入れてもらいました。


「いろんな医師がいて、こちらも困ってます」


と、平身低頭して謝りの電話がきました。やはりその病院でも、問題になっているようでした。


 恐い患者もいれば、恐い医者もいるものです。



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│ いのうげんてん作品      

│               

│①カルテに書けない よもやま話 

│②ノンフィクション-いのちの砦 

│③『神との対話』との対話  

└───────────────


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