7章 私の高齢者医療の実際 <17-3> 「高齢患者の病気の自然経過」ー 76歳 I さんの慢性腎不全
<17-3> 「高齢患者の病気の自然経過」ー 76歳 I さんの慢性腎不全
「序」
認知症専門病院での医療は、一般の急性期病院とは大きく異なり、「治す」よりも「支える」ことを目的としています。
治癒を前提とせず、自然な生命の経過と尊厳を尊重し、延命よりも穏やかな生活を大切にしています。
家族もまた、転院や過剰な治療を望まず、自然な最期を願うことが多いのです。
そうした環境では、保存的治療の中で思いがけない自然治癒が見られることもあり、医療の限界より生命の力を感じます。
「治す医療」から「支える医療」への転換こそが、高齢者医療の本質だと感じます。
# 76歳 I さんの慢性腎不全
76歳の男性 I さんが中等度の認知症と慢性腎障害を抱え、近い将来、人工透析が必要とされていましたが、認知症のため透析は困難と判断され、薬による保存的治療を続けていました。
施設入所後に急性心不全を起こし、大学病院に入院。病状が安定したため当院に転院となりました。
入院時、利尿剤は通常の3倍量(ラシックス120mg、スピロノラクトン200mg)と強力で、尿量は1日3000cc近くありました。
当初は前医の処方をそのまま継続しましたが、摂取水分量を約2700ccにしていたため、次第に脱水が進行しました。
2週間後に I さんは意識が朦朧とし、検査でBUN120、クレアチニン3.82、ナトリウム124、カリウム6.7と重度の腎不全を示しました。
意識朦朧は高尿素窒素血症による意識障害であり、急ぎ水分と電解質の補正を開始。誤嚥の危険を避けて点滴で投与し、尿量と摂取水分を毎日記録しながらIN-OUTバランスを細かく調整しました。
この治療を継続して、約1カ月後、BUNやクレアチニンはすべて正常化しました。
点滴から経口摂取に切り替え、食事とおやつを合わせた水分量を4000ccとしたところ、尿量は約3000ccで安定しました。全身状態も良好で、電解質も正常。そこで利尿剤を少しずつ減らし、2カ月ほどで完全に中止できました。
利尿剤なしでも尿が大量に出ることから、私は「腎性尿崩症」の可能性を考えました。
その後1年半、腎機能は安定して推移しました。
I さんは認知症の進行で自力摂取が難しくなったため、介助での食事・水分補給に切り替え、尿量を基に水分投与量を調整する新しい指示を作成。1日1000〜1500ccの水分でBUNやクレアチニンは正常を維持しています。
慢性腎不全が「治まった」としかいいようのないこの経過は、医師として50年で初めての経験でした。
多量の利尿剤使用と水分不足が原因で、一時的に尿毒症を惹起したものの、適切な水分と電解質の調整により腎機能が回復したのです。
医療の教科書にはない、実際の臨床の中で得られた「奇跡のような回復」でした。
原文:5章<40> 名診誤診迷診-腎不全が治まった
https://ncode.syosetu.com/n8651bb/155
〈つづく〉
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│②ノンフィクション-いのちの砦
│《 ホスピスを造ろう 》
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│『神との対話』との対話 英訳版
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