◇告知板◇ 6章 私の医療あり方論に <4-9-6> 私の診療心得 ⑨ -6 「患者を世話したことのない家族は入院後クレームが多い」 を追加しました
<4-9-6> 私の診療心得 ⑨ -6 「患者を世話したことのない家族は入院後クレームが多い」
私が認知症専門の精神科病院で、内科医として勤務したてのときのことです。
ある日、精神科のドクターが次に入院予定の患者さんについて、
「この家族は少し大変ですよ」
と、私に耳打ちしてきました。
詳しく聞くと、その患者さんの家族は、患者さんと離れて暮らしており、これまで一度も直接の介護や日常的な世話をしたことがない、いわゆる「ノータッチ」の家族だったのです。
認知症の患者さんを長年自宅で介護してきた家族は、その大変さを身をもって知っています。昼夜逆転の生活、突発的な行動、排泄の失敗、同じことを何十回も繰り返す会話など。
その一つひとつにどれだけ忍耐と体力が必要か、骨身にしみています。だからこそ、入院後に少々の不便や不満があっても、「仕方がない」と受け止める度量があります。
ところが、患者さんの世話をほとんど経験していない家族は、現場の実状を知りません。
入院や施設入居の手続きをスムーズに済ませた時点で、介護の大変さからは距離を置いた気持ちになり、むしろ「お客様」としての感覚で病院と関わろうとすることさえあります。
そうした家族は、入院後に小さなことでもクレームをつけてくる傾向が強いのです。
たとえば、「服に食べこぼしが付いていた」「生活に自由がない」「周囲の人はみんな認知症で話し相手がいない」「リハビリをしてくれない」「手に小さな擦り傷がある」「オムツ代が高い」など、まるで揚げ足を取るように、細かなことを並べ立てます。
しかし、これは病院側の怠慢ではなく、認知症という病気と向き合う日常の一部なのです。
実際に介護を経験すればわかります。
重度の認知症患者さんは、オムツを破って口に入れてしまうことがあります。服を脱いで裸になってしまうこともあります。廊下や居室で排泄してしまうこともあります。
当院では「拘束をしない」という絶対的な方針を貫いています。なので、そうした行動も力ずくで止めることはできません。
職員は常に目を配り、時に体を張って見守っています。これがどれほど大変なことか、実際にやってみなければわからないのです。
ですから、服の汚れや軽い擦り傷に対して過剰な反応をされると、現場としては正直なところ、「そんなに気になるなら、ご自宅でご自身が看てあげてください」と言いたくなります。もちろん口には出しませんが、心の中ではそうつぶやくこともあります。
認知症患者さんのケアは、想像以上に過酷であり、同時に奥深い仕事です。だからこそ、実際に介護を経験していない家族ほど、現場との意識の差が大きくなり、クレームという形で表面化してしまうのだと思います。
〈つづく〉
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│いのうげんてん作品
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│①著作『神との対話』との対話
│《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》
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│②ノンフィクション-いのちの砦
│《 ホスピスを造ろう 》
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│③人生の意味論
│《 人生の意味について考えます 》
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│④Summary of Conversations with God
│『神との対話』との対話 英訳版
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