◇告知板◇ 7章 私の高齢者医療の実際に <1-12> (1) 食べさせ上手 ⑫ 食べない患者さんには食べさせる工夫 を追加しました
<1-12> (1) 食べさせ上手 ⑫ 食べない患者さんには食べさせる工夫
「食べない患者さんには食べさせる工夫が必要」
これは医療の現場で日々実感する教訓です。
患者さんは90歳の男性でした。
数年前から物忘れや同じ質問を繰り返すなど、認知症の症状がみられていました。
ある時、転倒による頭部外傷で脳外科病院に入院しました。幸い、頭蓋内出血は軽度で、保存的な治療で経過観察となりました。
ところが入院後は意思疎通も難しくなり、経口摂取はごくわずかにとどまり、結局点滴で栄養をつないでいたのです。
1か月後、当院に転院しました。
表情は穏やかでしたが、昼食に出された全粥を前にしても、全く手をつけません。
紹介状に「食べられない」と書かれていましたので、やはりそうかと頭を抱えました。
「さて、どうするか……」
やむを得ず、試しに栄養補助食メイバランスを出してみました。
すると、意外なことに全部たいらげたのです。
「ええ!食べるじゃないの!」
みんな驚きました。
甘い物を好む人なので、メイバランスならよく食べたのです。
その瞬間、「食べない」のではなく「食べたいものが違う」と気づきました。
そこから、栄養補助食を中心に少しずつ食事を組み立てました。
必要なカロリーを補うことで血糖値は一時500mg/dLと大きく上昇しましたが、インスリンのスケール打ちでまもなく安定しました。
2週間が過ぎる頃、患者さんは、
「ご飯が食べたい」
と言い出しました。
そこで昼食だけ全粥に変えてみると、これもすんなりパス。
やがてすべての食事を全粥へと移行できたのです。
点滴だけで栄養を支えられていた人が、再び自分の口で食べられるようになったのです。これは本人にとっても、家族にとっても、そして医療者にとっても大きな喜びでした。
この経験から学んだことは、「食べたいものなら食べられる」ということです。
急性期病院では、食べられない時には、点滴による栄養管理が当たり前で、食事内容の工夫まで手が回らないのも当然です。
しかし慢性期の現場では、栄養補助食を含めた多様な食事メニューを備え、少しでも経口につなげようと工夫を重ねます。
それが、患者さんの「食べる力」を引き出すことにつながるのだと思います。
食べることは、生きることそのものです。口から栄養をとるという行為は、単に身体を養うだけでなく、「生きている」という実感を支える大切な営みです。
その可能性を閉ざさずに済むよう、「食べないから仕方がない」とあきらめず、「何なら食べられるか、どうしたら食べられるか」と工夫し続けたいものです。
水分から始めて、次に栄養補助食を。やがて昼だけ全粥にして、少しずつ全食へと広げていく。
こうした一歩一歩の工夫が、患者さんを「食べない人」から「食べられる人」へと変えていくのです。
※栄養補助食は、明治、森永などからたくさんの製品が販売されています。
〈つづく〉
┌───────────────
│いのうげんてん作品
│
│①著作『神との対話』との対話
│《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》
│
│②ノンフィクション-いのちの砦
│《 ホスピスを造ろう 》
│
│③人生の意味論
│《 人生の意味について考えます 》
│
│④Summary of Conversations with God
│『神との対話』との対話 英訳版
└───────────────




