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カルテに書けない よもやま話  作者: いのうげんてん
   私の診療心得
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<4-7-3> 私の診療心得 ⑦-3 「良い思い出作り」ー 認知症もいいものですね

<4-7-3> 私の診療心得


⑦-3 「良い思い出作り」ー 認知症もいいものですね


「認知症もいいものですね」


 これは、中等度の認知症だった80歳代のFさんを看取った奥さんの言葉です。


 Fさんは、肝臓がんで余命半年と宣告されて錯乱状態になり、家族に当たり散らしていました。


 ついには自宅で看るのが不可能になり、当院に入院となりました。


 入院の時に奥さんは、旦那さんの暴力に対して怯えていました。


「いろいろ検査しましょう」


 そう本人に話し、検査入院の名目で入院してもらいました。


 Fさんは入院してからも、病気のことが心配でしょうがないという様子でした。


 ゆっくりと検査し時間かせぎをしました。その間に向精神薬で精神を落ち着かせたのです。


 結果も1日1件くらいの割で、説明していきました。


 話していくうちに、Fさんは、どうも「脳」と「肝臓」を取り違えているようでした。


 自分のがんがどこだったのか忘れていたのかもしれません。


 CT写真の患部を指して、


「これが腫瘤ですよ」


と説明すると、


「そうですか」


と、Fさんはそんなに驚く気配がありません。


 以後、2回ほど肝臓のCTを撮りましたが、がんはその都度、大きくなっていました。


 症状のコントロールに徹するため、症状が出ない限りは検査をすることはしませんでした。


 不安が取れたFさんは、いつも穏やかでニコニコして、入院前、自宅で看ていた時とは、別人のようになりました。


 奥さんやご家族は、頻繁に病院に来られ、面会しておられました。


 Fさんは会話はできるのですが、内容は支離滅裂です。


 ときには、ほんの一瞬ですが、会話が成立することもありました。


 奥さんによると、面会しているとき、本人は奥さんのことを分かって話しているように感じたそうです。


 がんのことは一切口にせず、家族みんなと穏やかに笑顔で話すFさんでした。


「認知症もいいものですね」


 面会の帰り際に、奥さんがこうおっしゃいました。


 入院前、がんと聞いて錯乱状態にあったFさんを思い出し、しみじみとおっしゃったのです。


 その後、Fさんは時々下肢のむくみがひどくなり、利尿薬で治療したことはありましたが、大きな出来事もなく、穏やかな毎日を過ごされていました。


 結局、肝臓がんで余命半年と宣告されたFさんは、当院に入院後3年3カ月の20XX年7月に亡くなられました。


 Fさんが他界される前に、音楽家のお孫さんたちによるコンサートが院内で行われました。


 その3人のお孫さんたちによるコンサートは、Fさん亡き後も続き、10回を数えました。


 私たちケアの大切な仕事の一つとして、患者さんとその家族に、良い思い出を作ってあげることがあると、しみじみと思いました。


〈つづく〉



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│いのうげんてん作品      

│               

│①著作『神との対話』との対話

│《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》

│②ノンフィクション-いのちの砦  

│《 ホスピスを造ろう 》

│③人生の意味論

│《 人生の意味について考えます 》

│④Summary of Conversations with God

│『神との対話』との対話 英訳版

└───────────────


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