<21> 医者の仕事は驚くことばかり-手術のやり方が違う その1 研修制度
その1 研修制度
医系大学(大学医学部と医科大学)は全国に82校あります。
これほどの情報化社会にありながら、大学やその系列病院ごとに手術のやり方(手技)が違うことに驚きます。
もちろん大枠では同じです。胃の手術なのに、胆嚢を取ってしまうということではありません。(←(^ω^)当たり前)
ついでに申し添えますと、手術現場では、切除する臓器を間違えることがたまにあります。
左右に対になっている臓器で起こります。脳、肺、腎、乳房などです。脳は1つしかありませんが、左右に半球が対になっています。なので左右を間違えるのです。
「神の手」の異名をとる名医でも、術前に滅菌シ―ツで覆われてしまうと、左右を取り違えることもまれにはあるのです。
もっとすごいのは、患者本人を取り違えることもあります。正常な臓器を切除されてはたまりません。それを防ぐために、手首に名札をくくりつけておくような事も、現場ではしているのです。(⇒豆知識①)
(Google画像より)
①外科医はどのようにして技術を習得するのか
昔の人間なので、話しが、ちと古いかも知れません。ご容赦くださいね。ただ、当直のアルバイトに来る若手医師と雑談すると、今も大して変わりはないようです。
研修医制度が整備される前は、よほどの一匹狼でない限り、大学の医局に属していました。
医局に入るといっても特別な試験があるわけではありません。
講座の長たる教授にお願いして、許されれば入局できるのです。
小さな親切(大きなお世話)精神で用語をちょっと説明しますね。
「講座」、「医局」、「教室」は、医学界では、みんな似たようなニュアンスで使っています。ただ「医局」だけは、学閥を連想させるような「医師の集団」という、独特のニュアンスがありますよ。(⇒豆知識②)
私の卒業当時には、卒業間近になると、医局員の少ない教室の先輩から入局の誘いがあったものです。
さらには、入局内定の卒業生が落第しないように、裏で教授たちが談合(←(^ω^)ちと、言い過ぎかな)していました。
講座の大学院に入るにはそれより厳しくて、ちょっとした試験がありました。
医局に入ると、新人医師には、研修日と称して、アルバイト日が1日あてがわれます。関連病院でアルバイトをして収入を得るのです。
スタッフ(教授、準教授、講師、助手など)つまり有給医員でないと、収入がまったくないので生活できません。
医局は、医師の研修から生活の世話までしてくれるのです。昔は、「医局さまさま」でした。
学生時代のポリクリ(各科の臨床実習)の時、指導する先輩が講義そっちのけで、ジッツ(⇒豆知識③)つまり自校の関連病院が、東はどこどこまで、西はどこどこまでと熱弁をふるっていました。
その時は何のことだかよくわかりませんでしたが、卒業して研修医となると、なるほどと思いました。
つまり関連病院は、大学にとっては、時代物風に言えば、領地の「城」のようなものなのです。
城を落とせば自分の領地となるように、病院の長たる地位を手に入れれば、大学病院のジッツにすることができるのです。
そこに医局員を派遣すれば、多くの医局員を養うことができるし、病院側にとっては医師を派遣してもらえて助かるので、相互扶助というわけです。(←(^ω^)既得権益ってうまくできてるね)
話しのついでに、大学教育について持論を述べちゃいますよ。(←(^ω^)この人、話がよくとぶね)
果たして大学は、卒業間もない新人医師を、教育できるところなのかというテーマです。
私に言わせれば、そもそも大学というところは、教育よりも研究に熱心なところです。というより研究にその主眼を置いているのです。
「教育」と「研究」というのは、二律背反的なものだと私は思っています。
「教育」というのは、基本を教える、つまり医学レベルとしては最低限のものを教えます。
一方「研究」は、最高レベルでなければなりません。一番でなければダメなのです、2番ではダメなのです。(←(^ω^)どこかの政治家のセルフみたいだ)
この二律背反的な両者が、同一の場所、期間および人間によって行われるというのは、そもそも不合理です。
結果、次のようなことが起こります。
大学の医局に入ると、教授の研究の小間使いをさせられます。
実験の手伝いなどは勉強になりますが、データや文献整理などのデスクワークは、外科技術向上には役立ちません。
手による技術というのは、こんなことをしていては、とうてい進歩しないのです。
私が勤めていた病院には、卒業して6年ぐらいの外科医が大学から派遣されていました。手術をやってもらうと胆嚢切除もうまくできませんでした。
胆嚢切除というのは、虫垂切除の次ぐらいに簡単な手術なのです。
新しい研修制度が2004年にスタートすると、臨床研修病院が全国至る所で名乗りを上げました。
結果、大学の医局に入る新卒の医師は激減しました。(⇒豆知識④)
そりゃそうでしょ。臨床医としてやりたいなら、症例数が多くしかも臨床をしっかり教えてもらえるところに行った方が、ずっと早く腕は上達するもんね。
かくして、大学医局の医師派遣(←(^ω^)覇権か?)という医療界の構図は、もろくも崩れたのです。
☆豆知識
①リストバンド
入院患者には、手首にリストバンドを付けています。リストバンドには「患者の名前・生年月日・性別・入院している病棟名」などが記載されています。
リストバンドを付けることで、手術や検査、注射、処置などの時に、患者が自分で名前を伝えられない場合でも、患者自身であることを確認でき、間違いを防ぐことができます。
(参照:http://kyoto-min-iren-c-hp.jp/koho/2004-04/2.html)
②1)講座とは、大学院や大学に置かれる研究・教育のための組織。教授・准教授・助教・講師・助手などの人的構成からなります。例)内科学講座(参照:goo辞書)
2)医局とは、主に大学医学部・歯学部・病院等においての各「研究室」、「診療科」、「教室」ごとのグループ組織のこと。医学部の教授を中心とした講座、大学付属病院の診療科を中核とする医師の集団を指すことが多く、周辺として関連病院等の医師も含めた一大グループ組織であることが多い。法令上の組織、仕組みではありません。 (参照:Wikipedia)
3)教室とは、大学で専攻科目ごとの研究室をいいます。(参照:goo辞書)
③ジッツとは、ある機関と関連を持つ医療機関、いわゆる「関連病院」のことです。狭義には、人事において医局と関わりを持っている病院などを指します。また、関連病院の院長や部長などのポスト(地位)などを指すこともあります。ジッツはドイツ語の「sitz」に由来する語です。
(参照:https://epilogi.dr-10.com/dictionary/ct01/610/)
④研修医制度
戦後、日本の臨床研修は、インターン制度で始まりました。これは大学卒業後、1年間の「臨床実地研修」をした後に医師国家試験の受験資格を得られるというものでした。
1968年医師法が改正され、この制度は廃止されました。
この法改正により、大学卒業後すぐに医師国家試験を受けて医師免許を得ることが可能になりました。臨床研修制度も改正され、医師免許取得後に2年以上の臨床研修を行うよう努めるものと定められました。
しかし、研修医には長時間の過酷な労働の対価として月額数万円程度の「奨学金」が支払われるに過ぎず、生活費を当直などのアルバイトに依存せざるを得なかったのです。
新しい臨床研修制度は2004年4月1日にスタートしました。プライマリ・ケアを中心とした幅広い診療能力の習得を目的として、2年間の臨床研修を義務化するとともに、適正な給与の支給と研修中のアルバイトの禁止などが定められました。
(参照:Wikipedia)
〈つづく〉
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│いのうげんてん作品
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│①著作『神との対話』との対話
│ 《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》
│
│②ノンフィクション-いのちの砦
│ 《 ホスピスを造ろう 》
│
│③人生の意味論
│ 《 人生の意味について考えます 》
│
│④Summary of Conversations with God
│ 『神との対話』との対話 英訳版
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