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カルテに書けない よもやま話  作者: いのうげんてん
   私の診療心得
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<4-2> 私の診療心得 ② 「深追いをするな」

<4-2> 私の診療心得


② 「深追いをするな」


 外来や入院患者が、時々よその病院に転院したいと希望してくることがあります。私はその理由などを聞いて正当であれば、それを認めることにしています。


 「去る者は追わず」なのです。


 まだCTがなかったころのことです。時間外に、女子中学生が車にはねられて入院してきました。頭部外傷です。


 保存的に脳の治療をしていましたが、家族が地元の市会議員を介して、専門の病院を紹介して欲しいと言ってきました。夜を徹して懸命に治療していた私たちとしては、少々憤りを感じましたが、家族の希望通りにすることにしました。


 夜も遅かったので、なかなか紹介する病院も見つかりません。やっとのことで見つかり、大病院に転院しました。


 その病院でも特別、なすすべがなく、ただ経過を観察していたようです。それで早朝に亡くなったという報告が、後に入りました。


 大病院で亡くなったのなら仕方ないと、家族は納得したのです。


 自分が診断したりあるいは手につけた患者は、責任を持ってそれを最後まで治療したいと思うのが医者の良識です。しかし、患者や家族が希望し、別段不適切なこともない場合は、それに抵抗することなく、彼らの希望に沿うことが賢明です。


 ただし、そうすることが最適だという意味ではありません。賢明だということです。


 往々にしてそれを拒み、メンツや意地のために深追いをすると裏目に出て、痛い目に会うことがあります。


 こんな例もありました。


 ある日の夕暮れ時、60代の男性患者が外来に来ました。主訴は胸痛です。しかも今までに経験したことのないものだといいます。


 診察したのは既に5時近く、診療の終了時間がせまっていました。


 急いで心電図を取りましたが、特別な異常所見は認めません。


 数日前から時々痛むということと、その痛みの具合からして、私は狭心症を疑い、精査した方が良いと考えました。


 狭心症は発作時でないと、心電図には異常が出ません。つまり、心電図に異常が無いからといって問題なしとするのは、こういう場合は大変危険なことなのです。


 ここの病院では心力テができませんので、高次病院に紹介することにしました。


 狭心症の治療薬を処方して、紹介状を書き、今取った心電図を添えて、なるべく早く高次病院に行くように指示しました。


 数日して、紹介した病院から連絡が入ったのです。


 私が診察したその夜中に、患者さんは胸痛発作を再び起こし、そこへ救急搬送されたというのです。


 救急外来ですぐ心電図を取りましたが、典型的な虚血性心疾患の所見はありません。心電図では診断できなかったのです。


 手をこまねいていたところに、幸いにも、こちらから手渡した心電図を患者は携行していました。


 それと比較して見てみると、心電図の波形が少しだけ違っていたのです。


 それで急性心筋梗塞(AMI)がきわめて疑わしいということになり、夜中の緊急心力テとあいなったのです。


 冠動脈の急性閉塞が見つかり、心筋梗塞の診断のもとにすぐ処置できた、という高次病院からの返事でした。


 幸いにも両例とも、痛い目にあわずにすみました。


 「深追いをしない」とは、言い換えれば、患者離れが良いことになります。


 私は患者離れが早く、すぐに他院へ紹介してしまいます。病院経営者からすると要注意人物なのです。


 短期的には病院経営にマイナスですが、大局的に見れば、患者の幸福に寄与し、ひいては病院評判を上げるものと私は思っています。


〈つづく〉



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│いのうげんてん作品      

│               

│①著作『神との対話』との対話

│《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》

│②ノンフィクション-いのちの砦  

│《 ホスピスを造ろう 》

│③人生の意味論

│《 人生の意味について考えます 》

│④Summary of Conversations with God

│『神との対話』との対話 英訳版

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