<1-7> 『患者中心の医療-ホスピス』 横浜市民講座講演録 その7 ホスピスケアのやり方 ①治療と看護を並列に
<1-7> 『患者中心の医療-ホスピス』 横浜市民講座講演録 その7 ホスピスケアのやり方
①治療と看護を並列に
ホスピスでは、いろいろなやり方を考えました。
私としては、キュアアンドケア体制、つまり治療と看護(および介護)を並列でやりたいと考えています。
一般の医療ですと、治療と看護ー医師と看護師が縦の関係にあるのです。医師が命令して看護師が動くという縦の関係です。普通どこでもそうですね。医者が「こうしなさい」「ハイ、わかりました」というのが、普通の治療病院です。これは治療中心の医療では、どうしても必要なのです。医師は治療の専門家ですからね。
ところがホスピスという、人間の生活の質を重視する、治すというのじゃなくて、安らかに健やかに余生を過ごしてもらうという看護中心のところは、やはりこれでは駄目です。
そこで治療と看護を並列にしようと考えたのです。
医師は治療の専門家、看護師は看護あるいは介護、ケアをする専門家として、両者が話し合って、物事を決めようというふうにしたのです。
というのも、看護師の方が患者さんに接している時間は、絶対的に長いのです。24時間です。医者が接している時間は、回診時の数分長くて10分くらいだけなのです。数秒かもしれません(笑)。スーッと通っていってしまう。そういう状況で、患者のケアを指示していたら、良い結果が出るはずがないのです。生活の質ということを考えたら、両者で話し合って決めるべきなのです。
例えを上げてみましょう。
ホスピスではめったにありませんが、一つの治療として、たとえば「抗がん剤を打つ」という場合、「抗がん剤のために食ベられなくなったら、かえって苦痛の方が多くなって、果たしていいのだろうか」というような議論しながら、物事を決めていくことを目指しているのです。
私なんか素直ですから、看護師さんの言うことはよく聞いて、
「こうして下さい!」
看護師さんがそう言うと、
「ハイ、わかりました、仰せの通りにいたします」(笑)
そんなふうに看護師さんが強いのです。それはいいことだと思うのです。それこそが生活の質を重視するということじゃないかと思うのです。
以前、急性病棟とホスピス病棟を兼任したことがあります。忙し過ぎて、両棟の診療を完璧に遂行することは不可能でした。
それで私は、治療の大枠を指示すると、細かいことは看護師にすべて任せました。
たとえばモルヒネの投与の際も、モルヒネの持続皮下注射器というのがありますが、麻薬処方箋を書いてその開始と初期投与量は指示しますが、微量調整は看護師に任せました。その方が、患者の痛みの具合を見ながら、リアルタイムで調整できるからです。
図 持続皮下注射器
また、食事については、カロリーとか水分量など大まかな食事内容を看護師に指示します。お粥がいいか米飯がいいかなど細かいことはすべて看護師に任せます。看護師は患者の飲み込み具合、嗜好、食欲などを勘案して食事内容を自分たちで決めていくのです。
そのような体制にしましたら、それまでは医師の指示を受けなければ動けなかったのに、自分たちの裁量でやれるようになったので、看護師はまさに水を得た魚のように、生き生きと仕事をするのです。
ケア中心の病棟では、医師の指示がなければ動けないという体制では、患者さんのニーズを満足させることはできません。
看護師は数々のグッドアイデアを考え出しました。私にしてみれば、まさに怪我の功名だったのです。
またこんなこともありました。
ある時、ホスピス病棟で患者さんの食事を指示する場面がありました。
スタッフに、
「どんな食事がいいだろうね」
と尋ねると、
「軟らかい方がいい」
「肉より魚が好きそう」
「辛目の味がいい」
などなど、たくさんの意見が出ました。
「あなた達に任せる」
そういって、私は急性病棟に呼ばれて行きました。
ちょうどその時、急性病棟でも同じようなことがあったのです。
高齢の患者さんで何とか食べさせてあげたいと思い、 看護師に、
「食事はどんなものがいいだろうね」
尋ねました。すると、
「それは先生が考えることじゃないですか」
そういう返事が帰って来たのです。
ほんの10分くらいの間に起きた両棟のこの違いに、私は唖然としたのです。
〈つづく〉
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│いのうげんてん作品
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│①著作『神との対話』との対話
│ 《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》
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│②ノンフィクション-いのちの砦
│ 《 ホスピスを造ろう 》
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│③人生の意味論
│ 《 人生の意味について考えます 》
│
│④Summary of Conversations with God
│ 『神との対話』との対話 英訳版
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