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カルテに書けない よもやま話  作者: いのうげんてん
1章 医者も人間
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<12> 医者の仕事は驚くことばかり-人体解剖

①解剖実習


 医者しか経験できないものに、人体解剖があります。(←(^ω^)したい人なんかいるの?)


 解剖は、「死体解剖保存法」という法律に、医師もしくはそれに準ずる者のみが行うとありますから、一般の人が係われるものではありません。医師だけの特権、というより義務といった方がいいでしょう。


 はっきりいって、解剖が好きな医者は、解剖専門医以外ではまずいません。(←(^ω^)そうそう)


 そういう私めも、医学の進歩のためだと無理矢理自分にいい聞かせて、やっとの思いでやっていたたぐいなのです。


 医師を目指す医学生には、解剖実習が必須です。本を読むだけではすまされません。


挿絵(By みてみん)


 大きな教室に、ステンレス製の解剖台が20台あまり、整然と並べられています。


 台の上には、献体された遺体が1体づつのっています。


 遺体を取り囲むようにして、学生が4人1組で椅子に座り、頭から足の先まで解剖していくのです。


 それぞれがメスやハサミ、ピンセット、時にはノコギリを持って、午後の半日を、毎日、半年かけて解剖していくのです。


 その光景は一種独特のものです。


 当たり前です。世間では1体でも死体があれば大騒ぎです。それが20体以上ズラリと並んでいるのですから、そんな光景はほかではまず見られません。


 解剖を始める前に、毎回、全員起立して黙祷をささげました。


 遺体に向かって一礼して始めます。


 そこで遺体もお辞儀したらえらいことになりますが、それは1度もありませんでした。(←(^ω^)当たり前)


 献体保存用のホルマリンの臭いは、鼻を突く大変きついものです。臭いに敏感な人は、それで参ってしまうこともあります。


 ホルマリンに浸かった身体は、すべてが凝縮していて硬いのです。生きた身体のような軟らかさは全くありません。無理やり例えていうと、ワニ皮のような硬い皮膚なのです。それにメスを入れ、ハサミで切って、ピンセットでほじっていくのです。


 これがまた大変な作業です。


 例えば上腕を解剖します。皮膚を切開してから、その皮膚を皮下組織からはがします。皮下脂肪をピンセットでこまめにほじくって、除いていきます。そして目指す血管や神経を、1本1本露出させていくのです。


 さすがに解剖学の教授ともなると慣れたものです。


 遺体の皮下脂肪でべたべたに汚れた解剖書を、解剖台の脇で指をなめながらめくって読んでいました。私などはそれを見ただけで、吐き気がしていました。(←(^ω^)弱っちいね)


 解剖実習は医師になるための第一関門です。


 その激務に耐えられず挫折して休学する学生や、試験に合格できずに留年してしまう者が、少なからず出てきます。


 何せ解剖学で覚えなければならない名称は何千とありますから、解剖の作業自体が大変な上、それを覚えなければならないとあっては、生半可な気持ちではやれないのです。(←(^ω^)これだけやって、臨床で使う名称って100あるのかな)


②病理解剖


 医師になってから係わる人体解剖には、司法解剖、行政解剖、病理解剖があります。


 犯罪性のある死体に行われるのが司法解剖で、災害など行政上の見地から死因を明らかにする必要がある時に行うのが行政解剖です。


 司法解剖や行政解剖は専門の医師が行いますので、一般の医師が遭遇する解剖は病理解剖です。


 病理解剖は、病気で死亡した人を対象に、死因を特定したり診断、治療の妥当性を判定したりするために行われる解剖です。


 解剖は医師ならだれでもできるというわけではありません。解剖するためには特別な解剖資格が必要なのです。


 解剖資格を持たない内科や外科の臨床医は、病理解剖医の解剖を見学するか、指示を受けながらいっしょに解剖します。


 私も公立病院時代に、何度か病理解剖医といっしょに解剖に携わったことがあります。


 8畳間くらいの飾り気のない解剖室の中央に、ステンレス性の解剖台が置かれています。(←(^ω^)別に飾る必要もないけどね)


 死亡診断され家族の承諾が得られた場合、病理解剖が行われます。


 解剖実習の場合の遺体は、薬に長く浸けられて保存されていますから、皮膚や体つきそのものがだいぶ変化しています。


 ところが死亡して間もない場合は、体にまだぬくもりがあり、ともに病気と闘ってきた記憶が主治医には鮮明に残っています。いくら死体といえども物体と見ることはできません。


 病理解剖する先生は、そのような感情的なつながりはありませんので、作業は機械的になります。


 解剖には決まった手順があり、それに従って解剖されていきます。


 私も手術でお腹や胸を開くことは何度もありましたが、解剖の場合は、活気あふれる手術室とは違った独特の雰囲気があります。

 

 当然ですが活気があふれてはいないのです。(←(^ω^)後で書きますが、手術室はすこぶる騒がしいよ)


 シーンと静まり返った肌寒く感じる解剖室の中で、黙々と臓器を調べ摘出していくのです。交わす言葉は必要最小限のことしかありません。(←(^ω^)夜中のことも多いのでいっそうそう感じるのかもしれませんよ)


 皮膚切開は、胸から腹にかけてY字状に、いっきに切開します。


 そして肋骨をニッパのようなハサミで切断し、車のボンネットを開けるように胸をパカッといっきに開き、心臓、肺など胸腔内を目視します。


 腹部は中央の切開創から腹腔内に入っていき、肝臓、胃腸などを調べます。


 手術の場合は間違えば死に至らしめるので、細心の注意を払って切開、切断、切除をしていきますが、解剖の場合は視触診で臓器を調べると、一塊にしてその臓器群を取り出してしまいます。


 これがいかにも大胆というか、機械的というか、手術とは大違いで、外科医の私にはすこぶる違和感を覚えたものです。(←(^ω^)物体だと割りきらないと、とてもじゃないがやってられんですよ)


 臓器を取り出すと、ガランドウになった胸腔や腹腔内に綿を詰めて、切開創を縫合閉鎖します。


 衣服をつけると外見からは、重さだけからしかその変化は分かりません。


 取り出した臓器はその後、病理組織標本にして顕微鏡で精査していくのです。


 視触診で得たマクロの情報と、顕微鏡で得たミクロの情報から、病理学的な診断を下すのです。


 手術後に亡くなった患者さんの家族から、


「医学に役立つのなら、どうぞ解剖してください」


 そう申し出があったこともありました。


 その真摯な態度に胸が熱くなったことを覚えています。


〈つづく〉


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│いのうげんてん作品      

│               

│①著作『神との対話』との対話

│ 《 あなたの人生を振り返る 》《 自分の真実を取り戻す 》

│②ノンフィクション-いのちの砦  

│ 《 ホスピスを造ろう 》

│③人生の意味論

│ 《 人生の意味について考えます 》

└───────────────



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