8 王室魔法騎士団③
「こんにちは」
「えっ、あなたがどうしてここに居るの?!」
エミリアは私の顔を見るなり、露骨に驚いた顔をした。
だが、部屋の主であるマチルダは全く気にした素振りもなく、にこやかにエミリアの背を押す。
「さあさあ、エミリアさん。早く入ってください」
「ちょ、ちょっと・・・・・・!」
半ば強引に部屋へ入れられた彼女は、不満そうに頬を膨らませている。
マチルダの私室は、淡い花柄のカーテンと白いレースで整えられた可愛らしい空間だった。
窓辺には小さな花瓶が置かれ、午後の日差しを受けた花々が柔らかく揺れている。
「それでは、全員揃ったことですし、お茶会を始めましょうか」
マチルダが嬉しそうに宣言する。
私とエミリアは顔を見合わせながら、向かい合う席に腰を下ろした。
「今日は美味しいローズティーを用意しましたの」
ティーポットから、ふわりと甘い香りが広がる。
(ティータイムに誘われただけでも驚きだったのに、まさかエミリアまで呼ばれているとは・・・・・・)
「・・・・・・どうして事前に言ってくれなかったのよ」
エミリアが恨めしげに呟く。
「何がですか?」
「この人が来るってことをよ!」
彼女がそう言って私を指さす。
「エミリアさん?」
マチルダがにっこり笑ったまま、声を少しだけ低くする。
すると、エミリアはびくりと肩を震わせ、視線を下げた。
「・・・・・・先に聞いてたら断っていたって、言いたかったの」
「だから、あえて言わなかったんです」
マチルダがさらりとそう言い切る。
「だって、私たち三人しか年の近い女の子はいないんですよ? せっかくだから仲良くしましょう」
「そんな簡単に・・・・・・」
「エミリアさん?」
マチルダはにこやかだったが、終始圧を感じさせた。
エミリアがまたもや視線を泳がせる。
「・・・・・・分かってるわよ」
「それならよかったです」
そう満足そうに頷くと、マチルダはカップにお茶を注ぎだす。
(なるほど。完全にマチルダが主導権を握っているのか)
私は二人のやり取りを見ながら、内心乾いた笑いを漏らす。
それから、マチルダに淹れてもらったローズティーをゆっくりと口元に運んだ。
一口飲んだ瞬間、すぐさま舌の上に華やかな香りが広がる。
「・・・・・・すごく美味しいです」
「本当ですか? とっても嬉しいわ」
マチルダが、ぱっと顔を明るくする。
「実はこれ、婚約者が送ってくださった茶葉なんですの」
「「婚約者!?」」
私とエミリアの声が綺麗に重なった。
「マチルダ、婚約者がいたの!?」
「あら、お話していなかったかしら?」
「聞いてないわよ〜!」
エミリアが思いきり身を乗り出す。
(婚約者・・・・・・!)
その単語だけで胸が踊る。
「それで、お相手はどんな方なんですか?」
気づけば、私も前のめりになって質問していた。
マチルダがくすりと小さく笑う。
「フランツという幼馴染の侯爵令息なの」
「家同士で決まった婚約?」
「全く無関係ではないけれど・・・・・・どちらかと言えば、お互いの意思かしら」
「!!」
エミリアと私は同時に赤面した。
(これは、いわゆる相思相愛・・・・・・!)
なんという甘美な響きなんだろう。
「でも騎士団に入ったら、なかなか会えなくて寂しいんじゃない?」
「ええ。だから、ずっと文通していますの」
(文通・・・・・・いい・・・・・・!)
私は思わず胸元を押さえた。
マチルダの口から、次々に「憧れワード」が出てくるので、胸が一杯になる。
「辛い訓練の後でも、彼の手紙を読むと頑張ろうって思えるんですの」
幸せそうに微笑むマチルダを見て、私は完全に感動していた。
(すごい! 私の人生の理想形がここにある!)
「あの、それで結婚はいつ頃を予定しているんですか?」
「三年で騎士団を退役する予定だから、あと二年後くらいかしら」
「二年後! ドレスとかはもう――――」
「あらあら、リズさん。結婚に興味津々ですのね?」
マチルダがそう言って愉しそうにこちらを見てくるので、私は頬を赤らめた。
「そ、それは・・・・・・まあ、それなりに」
「もうそういったお相手はいらっしゃるんですか?」
「まさか!」
私は両手をぶんぶん振って否定する。
「でしたら、理想の男性はどんな方なんですか?」
次々に恋愛話を振られ、私はしどろもどろになる。
「理想の男性ですか? えっとですね・・・・・・体が大きくて、逞しくて、強い人がいいです。あと、必要があれば私を軽々抱き上げてくれるようなやっぱり強い人が・・・・・・」
「・・・・・・かなり独特ですのね」
マチルダが少し困ったようにそう言うと、エミリアもまた真顔で頷く。
「あなた『強い』っていう言葉、一体何回使うつもり? それって、もはや人というよりは熊とかの方が近いんじゃない?」
「決して熊なんかではありません! つまり、それだけ包容力があってですね・・・・・・!」
私が思わずムキになってそう反論すると、二人が同時に吹き出す。
いつの間にか、部屋の空気は随分と柔らかくなっていた。
窓の外では、夕暮れの鐘が静かに鳴っている。
(こうして同年代の仲間達と笑い合う時間が、案外悪くないものだな)
――――私はこの時初めて知った。




