1 かつての部下との再会
――――その日、14年間会うことのなかった元部下と再会した。
「ノア、逃げて!」
私、リズは、大声でそう叫んだ。
しかし、突然買い物途中に現れた魔獣を前にし、弟は恐怖のあまりその場で硬直している。
騎士達がこちらに向かっているのには気がついたが、おそらく間に合わない。
(このままだと、ノアが危ない!)
一瞬、躊躇う。
なぜなら、私には前世の記憶があった。
以前の私は祖国を救った大魔導士――しかし、14年前に王城で何者かに毒殺された女。
(だから、今世こそは面倒事に巻き込まれたくなかったのに。でも、さすがにこの状況でそんなことも言ってられないか・・・・・・)
私は覚悟を決めると、生まれてから一度も口にしなかった呪文を詠唱する。
素早く、しかし正確に。
(一度徹底的に習得したものは、なかなか忘れないものだな)
頭の片隅でそんなことを考えながら、私は魔物に向かって手をかざす。
『破壊せよ』
その瞬間、魔獣が青白い炎に包まれる。
やがて、それは断末魔をあげながら黒炭へと変わっていく。
私はそれを見届けると、すぐにノアのところへと駆けつける。
「ノア、大丈夫? 怪我はないか?」
「・・・・・・お、お姉ちゃん、怖かったよ!」
「よかった、無事で」
ノアは安心したのか、私に抱きつくなり泣き出した。
私はそんな弟の背を優しく撫でた。
その時。
「お前は一体何者だ?」
硬質で低い、でも聞き覚えのある声が頭上から落ちてきた。
視線を上げると、そこには枯草色の騎士団の制服を纏った、一人の美丈夫が立っていた。
艶やかな黒髪に濃い銀色の瞳、そして騎士にしては細身だが恵まれた躯体。
その整った容貌には見覚えがあった。
「どうしてお前のような子供が魔法を使える、一体どこで習得した?」
冷たい口調でそう問いただす男の顔を見つめながら、私はどうしようもなく胸が一杯になっていた。
(信じられない。まさかこんなところで再会するなんて!)
「ちゃんと答えるんだ!」
「・・・・・・マクシミリアン」
私がぽつりと呟いた名に、彼はあからさまに反応してみせた。
「なぜお前が俺の名前を知っている? 俺とどこかで会ったことがあるのか?」
私ははっとして、顔を伏せた。
「いいえ、騎士様とお会いするのは今日が初めてです」
「だが、たしかに今俺の名を・・・・・・」
「私は何も申しておりません。弟が泣いているのでこれで失礼します」
私はノアを抱え上げると、一礼してからその場を走り去る。
「おい、待てっ、待つんだ! まだ話は終わっていないぞ!」
マクシミリアンが私を呼び止める声は聞こえていたが、私は決して振り向かなかった。
(失敗した!)
14年間、この片田舎でせっかく静かに暮らしてきたのに。
弟を助けるために、封印していた魔法を使ったのはやむ得なかったとしても、まさかそれをかつての部下に見られるなんて。
完全に失敗だ。
「神様、さすがにこの状況は少々意地悪すぎやしませんか?」
私は天に向かってそう呟きながら、ため息を吐いた。




