風の貴公子
カメーリアは何と言うか気持ち悪い。
気味が悪い。
何もかもがきっちりし過ぎている。
「なんでこうも全て左右対称になってるの?」
まるで鏡合わせの街。
人だけがずれている錯覚。
「昔は本当にド田舎ののどかな地だったのですが、世代交代で現在は服飾と技術の地になっています。この国ではあまり人気はありませんが化学繊維というものも作っています」
じゃあロートとは反対に科学の地なんだ。
「セシリオは昔ここに住んでいたこともありますよ」
「え? あの人王都出身だって言ってたのに」
「仕事に行くと言って五年くらい戻ってきませんでした。戻って来た時はかなり塞ぎこんでいて誰構わずすれ違った人間を殺すほどでしたね」
「……それ鬱? それとも別の何か?」
別の何かであってほしい。
「まぁ、セシリオの居たころはまだド田舎時代でしたからね。今なら彼はここで過ごそうとも思わないでしょう。綺麗な街が嫌いですからね。ムゲットの表通りよりも裏の廃墟の迷宮が好きな男です」
スペードはそう言って馬車を停める。
「通行料を払わなくてはいけません」
「え?」
「カメーリアはこの街並みの維持の為に通行料を取っています」
「ギリギリ合法の額で申請されているが実際はどうだかな」
「払ってみれば分かりますよ」
不機嫌そうなラファエラにスペードは意地悪く笑う。
けど、不思議だ。
ラファエラとスペード、どこか似てる?
髪型のせい?
スペードは衛兵に金貨を三枚渡した。
「取りすぎだろ」
「そうですか? この辺りでは普通ですよ」
庶民は通れないとスペードは笑う。
「あれってさ、通る人の身なりに合わせて払えそうな額を言ってるんじゃないの?」
「ええ、そうですよ。どうやら我々は相当金を持ってると思われていますね。まぁ、宮廷の馬車じゃ仕方のないことだ」
しかも馬はロートの馬だ。
「カメーリア伯とは随分話すことがありそうだ」
ラファエラは笑う。
店主はと言うとナイフの確認をしているし、アラストルはなるべく関わりたくないと窓の外をぼーっと眺めている。
ってかこの店主、玻璃が居ないと基本無気力なんじゃないか?
ゆっくりと馬車が城に向かう。
「待て。何者だ」
凛とした声が響いた。
「宮廷騎士団長補佐ラファエラ・ガットだ」
ラファエラが腕章を見せる。
「宮廷騎士がこのカメーリアに何の用だ?」
「侵略への備えがどの程度かを視察に回っている」
ラファエラの話し方はミカエラと似ているかもしれない。
軍人みたいな発声だ。威圧感がある。
ジルがいつだって気だるそうでやる気が無いような発声なのに、それでもちゃんと響いているというののに驚いていたが、彼女は響かせるための発声だ。
「想定より早いな。まぁいい。宮廷の方。城は現在工事中でな。宿の方にお越しいただく」
馬に乗った彼はついてこいと言わんばかりに馬車の前を走る。
緑の髪が随分と印象的だった。