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赤の勝負師


 火の魔力を持つ者はそう多くないが、その者たちは外見で見分けがつくらしい。

 みんな、燃えるような赤毛を持っていると。


 目の前に現れた喋る狼がしばらくアクラブさんと言い合いをしていた。

 この短時間で得た情報によると、アクラブさんは大変な愛国者で王族崇拝者で、狼さんもまた、異国の出身らしい。

 狼さんの名はテルツォ。本名かどうかは怪しいが、彼にとってアクラブさんが特別な存在だと言うことは理解した。


「折角セシルと楽しい旅をしようと思ったのに」

「諦めなさい」

「むっ、トリカブトてんこ盛りのヒ素スープが無かったら拗ねてやるんだから」

 どういうチョイスだ。

 この人相当な変人だね。

「アクラブが世話を掛けた」

「いえいえ、こちらは大変助かりました」

 挑戦者さんを一掃してくれたし。

「ごめんなさいね。今回は帰るわ。セシル、また会いましょう。あなたも」

 アクラブさんは魅惑的な笑みを浮かべて狼に跨った。

 まるでお伽噺の騎士のように。

「カッコイイ……」

「……お前は本当に何でも珍しがりますね」

「実際珍しいんだよ」

「……僕の名前はセシリオ、なんですがねぇ」

 駆けて行く狼を見てセシリオが溜息を吐いた。

「行こう、予定が狂う」

 ジルの一声で馬車を進める。

 なんか変な感じ。

 この面子もだけど。

 異国の王妃に会うなんてありえない。

「このままムゲットに帰らない?」

「は?」

「いきなり何を?」

「なんか嫌な感じするんだけど……」

 良くないことがありそう。

 ううん。

 会っちゃいけない人に会いそう。

「まぁ、僕にしてみれば好都合だけど、また、カメーリアに出直さなくてはいけなくなるよ?」

「分かってる。でも、今、そっちに行っちゃいけない気がする」

 だって、異国の王妃様が居て、喋る狼がわざわざ迎えに来たんだ。

 きっと良くないことが起きる。

「急ごう」

「どうしました? 震えています」

 スペードに言われ驚く。

「なんか、嫌な感じしただけ」

 よくわからない。

 怖い。

 分からないから怖いのか、強すぎるから怖いのか分からない。

 けど、とにかく「それ」が怖かった。

「俺が馬を走らせる」

「え?」

 アラストルが、馬に飛び乗った。

「何事?」

「後ろにヤバそうな奴が居た」

「僕には何も見えないけど」

「は? お前らまさかあれが見えねぇのか?」

 また、アラストルの右目が見開かれている。

「……セシリオ」

「はい?」

「絶対に窓から顔を出さないでください」

「なんです? 急に。そんなことを言われたら気になるじゃないですか」

「厄介事になるから顔を出すなと言っているんです。お前も大人しくしていなさい」

 スペードに突き飛ばされてセシリオに抱きとめられた。

「何?」

「ちょっと知人ですが、頭が逝っていまして……妄想癖があるんですよ。彼女」

 怖い。

 けど気になる。

 スペードの目を盗んでこっそり窓の外を見る。

 何も見えない。

 もしかして、と眼鏡を掛ければ燃えるような赤い髪の女の人が、真っ赤なドレスを来て、真っ赤な日傘を差して歌いながら歩いていた。

「こっちに気付いてないみたいだけど?」

「見るなと言ったはずだ」

「ご、ごめん」

「あれと関わると厄介です。ムゲットに急ぎましょう」

 スペードが慌ててる?

「一体何者だい?」

「クォーレ・アリエッタ。彼女は賭け事の最中はそれなりに楽しい人物ですが……何でもかんでも決着がつかないと気が済まない。全員と何らかの勝負を挑んでくるでしょうね。それに……」

 スペードは溜息を吐く。

「あれは昔から朔夜の命を狙っている」

「は?」

「へ?」

 セシリオが驚いてスペードを見た。

「彼女は、いかれた妄想に取りつかれて朔夜の命を狙っています」

 スペードの言葉にみんな固まる。

 ただ、ジルだけが何かを思い立ったかのように手帳にペンを走らせた。

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