軍隊
夕食の席、セシリオは退屈そうに林檎を齧っていた。
ほかにも色鮮やかな果物があるのに、さくさくパイやビスケットがあるのに、こってりとしたクリームのケーキがあるのに、彼は林檎しか食べない。
「どうして林檎しか食べないの?」
「ちょっと知り合いの娘を思い出しただけです」
「娘?」
「なかなか優れた暗殺者に育ちましたよ。彼女は。あれの娘でなければもっと伸びただろうに。勿体無い」
彼はそういいながら林檎を齧る。
小気味良い音が鳴る。
「その人、どんな人?」
「ある国で、王都一の美女と称されていましたが、まぁ、華の女神を表現できる貴重な人材ですね」
退屈そうに彼は言う。
どうしたのだろう。
「異界の君、そなたが出かけている間に騎士団長と話をした。宮廷の調査でいらしたようだな」
「あ、はい」
ネットーノって仕事とプライベートはきっちり分けるタイプだ。偉い。
頭なでたい。
じゃなくて。
「戦になるらしいな」
「そのようで」
「……嫌だな。民が死ぬ」
ネットーノはお気に入りらしいウサギの人形を抱きしめる。
「ネットーノ様、食事中は人形を横の椅子に座らせてくださいといつも言っているでしょう?」
あの椅子人形用だったんだ。どうりて小さいわけだ。
「わかったよ、ネレイド。それで? 陛下のご意向は?」
「返り討ち、だそうだ」
ジルはため息を吐く。珍しい。
陛下のご意思に不満なんだ。
「国境警備の強化をしろってことなのかな? 我に出来る限りはさせてもらうぞ」
きりっとしては見せるがネットーノは頼りない。
「あれは完成するの?」
「後はネットーノ様の魔力次第です」
「じゃあ、頑張るしかないな」
「あれって?」
「民を死なせたくないとネットーノ様が作った軍です」
「は?」
ジルが食べていたパイを落とした。
汚いな。
「軍と言っても魔力で動く人形です。ヴィオーラ印の安心人形、レプロットです」
安心人形って……あれ? ライナスの毛布的な?
「レプロットが悪いやつをたこ殴りにしてくれるかららヴィオーラの民は安心して眠れる。ヴィオーラの国境は我が守る」
「心強いね、ヴィオーラ伯。任せるよ」
ジルが笑う。
珍しい。見下した笑みではなく、心からの笑み。
そういえばこの人子供に甘いんだっけ。
「ネレイド、君は伯爵を出来る限り支えてよ」
「言われなくともネットーノ様以外私の主はいませんから。極端な話、女王陛下がくたばろうがネットーノ様さえ無事なら私は何も感じません」
この人口悪すぎ。
カロンテとは別な意味で怖い。
「僕は、ヴィオーラにそんな技術があったことに驚いています」
セシリオがふてくたれた様子で言う。
あ、この人魔術嫌いだっけ?
「カメーリアの技術を借りた。カメーリアは繊細な技術が売りだから。我がヴィオーラのおもちゃの発展のためにね」
本音そこだ。
絶対玩具目当てだこの子!!
「本当は変形合体するの欲しいって言ったけど、それはさすがに危険武装で宮廷から懲罰貰うから駄目だって。ねぇ、ジル、次は変形合体する巨大ウサギ作っていい?」
「……ウサギなのかい?」
ジルはそこだけ気になったらしい。
「ヴィオーラ印のウサギだよ」
「……宮廷の紋を入れて設計図と完成品部品を研究部に提出して、警護部に申請すれば許可しないことも無いけど……ウサギである必要が理解できないな」
大丈夫。私も理解できないから。
けど、変形合体の憧れって万国共通なのかな?
「アラストル、さっきから目がきらきらしてるんだけど」
「そ、そうか? いや、変形合体は男の浪漫だろ」
「知らないよ。ねぇ、スペード?」
スペードを見ればバタークリームのケーキに苦戦していた。飲み物の選択肢がジュースとココアしかないのが拷問だったらしい。
「甘いもの苦手だっけ?」
「別にそういうわけではないのですが……この量にはうんざりします」
あっそう。
「で? 変形合体に興味は?」
「僕はどちらかというと呪文で開く岩戸に興味があります」
「あー、そんなのあったね」
どうやらスペードは英雄より魔術に憧れた少年だったらしい。
ぶっちゃけどっちもあほらしいと思うのは私だけだろうか?
セシリオに至ってはまったく興味が無いらしく林檎を握ったままうとうととしていた。
暗殺者が安心しすぎだろ。
そう思った瞬間殺気が飛んでくる。
どうやらいつでも起きれるというアピールらしい。
「セシリオ退場させてもいい?」
「話を聞く気が無いようですからね。セシリオ、僕が聞いていますから、先に部屋に戻りますか?」
「僕はあなたが暴れるのを待っているんですよ? いつ騎士団長とやり始めるか楽しみで楽しみでものすごーく楽しみなのにまったくはじめないから退屈なんです」
「すみません、可愛いお馬鹿さんの頼みなので暴れる予定はありません。退場してください」
あ、スペードの方が保護者だ。
「いや、なんかネットーノは問題なさそうだから私も寝る。ジルとアラストルと三人で楽しそうだしさ」
男の子ってロボットとか変身とか好きだよね。
例外がいるけどさ。