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魔術入門

「別に戻ったわけではありませんよ」

 スペードはそう言いながら私を下ろした。

「貴方に用があるのはこの子です」

 スペードが言うと、メルクーリオは私を見た。

「そなたか。よくぞ、カトラスを連れ戻してくれた。今夜は私の城でゆっくりと休むと良い」

「あ、ありがとう」

「食事の用意は出来ている。湯浴みをしたいのであれば浴場へ案内させよう。それとも直ぐに休むか? 寝台も用意してある。好きに過ごすと良い」

 ……今の一言でわかった。

 メルクーリオは人の世話を焼きたい人間だ。

 だから玻璃を気に入っているのだろう。世話を焼きたくなる子だもん。

「いーな、メルクーリオみたいなお兄さん欲しいなぁ」

「馬鹿なことを言わないでください」

「冗談だよ。死んでもスペードと結婚なんか嫌だ」

「は?」

 何故そうなるのですとスペードは不思議そうに言った後、固まった。

 いや、よくわからない。

「だって、メルクーリオにお兄さんになってもらう方法ってスペードたちのパパの養子になるかあんたと結婚するかしかないじゃない」

「別に戸籍の問題に拘る必要は無い。そなたが私を兄と思いたければそう思って構わない。カトラスがこれだ。それに、妹が欲しいと常日頃から思っていた」

「ホント? メルクーリオゲット!」

 いや、なんか違う。

 ってか何したいんだろう。私。

「君、目的忘れてない?」

「うん、思った。でも、なんだろう。クレッシェンテで私がしたいこと、少しだけわかった気がする」

 でも、これを母さんに言うのは悪いことだと思うからきっと言えない。


「なんか、クレッシェンテの方が私の居場所だって感じる」


 そう言えば、アラストルもセシリオも複雑そうな表情を浮かべる。

「それだけ魔力が高ければ当然だ。どうだ? 簡単な魔術を学んでみるか? もしや才能があるかも知れぬ」

「この子は才能はありますよ。何れ僕を抜くほど。だが、貴方に任せるつもりは無い」

「ほぅ、面白い。ますます試してみたくなった。我が妹よ」

 いや、そこで張り合わないでよ。

「まずは理論です、僕が徹底的に教えますから」

「いや、この子は実践から入るべきだ。まずは魔方陣の書き取りをしてみるといい」

 いや、二人そろって教育方針違うんですけど。

「まずは元素の関係を理解するべきです」

「目で見て失敗した点を理論で補えば良い」

「あの……二人とも張り切ってるところ悪いんだけど、どっちも嫌です」

 魔術師になる気ないし。

「魔術向いてないと思うし」

 スペードの見て真似する程度が限界だからと言えば、二人は嬉しそうに笑う。

 気味悪い。

「天性の才能ですね」

「これは偉大な魔術師になれる」

「は?」

「普通カトラスの魔術を見て真似は出来ない」

「いや、スペードは簡単なのしか見せてくれないし」

 うん。着替える術とか邪魔な髪の毛を除ける術とか。

「お馬鹿さん、普通は見ただけで真似なんか出来ません。お前は魔術を盗む能力が高いと言っているんですよ」

 盗むって……。

「何その魔術泥棒みたいな」

「良いですね、それ。就職決まりました」

「いや、違うから」

 ったく……人事だと思って……。

「ふざけていないで本題に戻ってください。それで? この子は魔術師向きなんですね?」

 保護者のセシリオが二人の間に入ってくれた。

「才能はありますよ。何れは師匠も抜くでしょうね」

「それは言いすぎだろうが歴史に名を刻む魔術師になれることは確かだ」

 いや、子供に過度な期待を持つのは止めて欲しいな……。

「じゃあ、私、お屋敷のお掃除してきます」

「何故そうなるんです?」

「魔術の基本は清潔な部屋とか前にスペードが言ってた」

 いきなり箒と雑巾と桶を渡された時は驚いたけど。

「ほぅ、良い心がけだ。確かに魔術を使う際清潔な場所であるほど良いが……この屋敷は必要ない」

 そりゃ伯爵のお城じゃねぇ。お掃除してくれる人も居るんだろうなぁ。

「あれ? そういえばここにはカロンテみたいな人いないの?」

 まぁ、あんなに怖い人ではないだろうけど。

「いませんよ。メルクーリオは一人でここに居ますから。使用人が居ると落ち着かないと言って数年前に全て追い払いましたからね」

「ああ。他人と過ごすのは好まぬ。だが……やはり嫁を迎えるには使用人を雇うほうが良いかも知れぬな」

 だめだ。この人頭の中玻璃しか居ない。

「早くお嫁さんもらえると良いね」

「そなたもそう願ってくれるか?」

「勿論」

 玻璃以外のね。

 心の中で呟いてアラストルを見ると、呆れたように溜息を吐いている。

 まぁ、どうやらめんどくさい魔術のお勉強はなくなりそうだし後始末はセシリオに押し付けることにした。


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