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動向

「すぐに陛下からの返答を頂きたい」

「それは無理だよ。僕もしばらくムゲットには戻らない」

「だが! 事は一刻を争うのだ!」

「なら、君か従者かのどちらかが直接陛下に」

「いや、我々は今ここを動くことはできない」

「ローザから出られないの間違いでは?」

「黙れ!」

 

 声がする。

 少しばかり険悪な雰囲気だ。

 それに多分私とカロンテ以外の全員がそこにいる。


「何の話?」

「お前か。寝たのではなかったのか?」

「寝れるわけないでしょ。カロンテが付きっきりなのに」

 って、そうじゃない。

「それに仕事の話でしょう? 今回の一件の全ては私にまかされたはずなんだけど」

 そう言って全員を見渡す。

「いや、これは君は知らないくていいことだよ」

「お前が気にすることではありませんよ」

 ジルとスペードが同じ考え? なおさら悪いことだ。

「変に隠せばこの子は自力で情報を手にする。素直に教えた方が良いのでは?」

「セシリオ! この子は知るべきではない!」

「俺も反対だ。理解するには若すぎる。受け入れられないだろう。何よりあいつはクレッシェンテ人じゃねぇ」

「裏切りも考慮した上だと? 確かにこの子は移住民とも交流がありますが、彼らは既にクレッシェンテ人と変わらない人たちだ。それに、この子は殺しの才能がある」

 セシリオはどこか楽しそうに言う。

「魔術の才能もありますよ。この子はいつか僕を超える。ええ、歴史に名を刻む魔術師になれる。だからこそ、今死なせるわけにはいかない」

 物騒だ。

「何があるの?」

 ここに来てからみんな何かおかしい。

 ローザ伯が時々寂しそうなくらい表情をする原因がみんなが隠したいことだ。

「シエスタ、ファントム……もしかして、森羅も? 兵士……」

 戦争、とか?

 食事の合間とか、来たときのスペードやローザ伯の解説何かを考えるとそういう話さえ浮かぶ。

 だけども、戦争は飛躍しすぎだ。

 内乱はしょっちゅうみたいだけど相手が他国となればクレッシェンテは間違いなく滅びる。

「クレッシェンテに戦争は無理だよ。多分陛下も解かってるからしないと思うけど」

「なっ……」

 スペードは目を見開く。ジルも同じ表情をしている。

 ただ、セシリオだけが解かっていたと言う顔をして笑う。

「鋭い洞察力です」

「だが、まだ戦にはなるまい。ファントムから来るのは偵察程度だ。クレッシェンテの秘密を探りに来るが、このローザの薔薇の餌食になる」

 ローザ伯は葡萄酒を呷りながら言う。

「だけど、シエスタは別だろ。陛下が攻め入ろうとしてるって噂だぜ? 王が獣になるってな」

「貴様!」

 ジルが剣に手を掛ける。

「落ち着きなさい。それが国民の素直な気持ちです。宮廷はそれを理解するべきだ」

 流石セシリオだ。僅かな殺気でジルを黙らせれる。

「王が獣ってどういうこと?」

「つまり気がふれるということですよ。狂う、とかそう言った言い方の方が解かりやすいですか?」

 スペードはテーブルに指で書いて見せる。

 「狂」成程。

「獣に王で狂うってことか。まぁ、王様に直接狂ってるなんて言える人居ないしね。でも、陛下はしっかりした人だって思うけど?」

「昔はね」

「え?」

「君が来てからがおかしい」

「え?」

 ジルの言葉に驚く。

「そう、君とあの図書館で出会ったころからこの国は何かが歪み始めている。これが何故か、理解できない。だから宮廷も動けずにいる」

 ジルは淡々とそう言う。

「俺らは未だ異常はねぇぞ? 庶民としての意見だ」

「貴方が庶民なら庶民はいませんよ。もっとも、ハデスとしての意見ならば重宝しますがね。で、僕らも今のところ異常はありませんね。賭師としては。魔術師としての意見なら師匠に訊いた方が有力でしょう」

 スペードはこれっぽっちも宮廷に力など貸したくないと言わんばかりだ。

「ディアーナとしては……そうですね。僕の可愛い奥さんが大聖堂に行く回数が増えたことと瑠璃が頻繁にアジトに顔を出すようになった程度ですかね」

「君の家庭事情は聞いてないよ」

 ジルの言うとおりだ。だけど、瑠璃が頻繁に戻るってことは……。

「情報を持ち帰ってる?」

 瑠璃が情報を得ずに帰るなんてことをするはずがない。

 もしかしたら、得た情報を自分なりに考察して再び情報収集に出ているのかもしれない。

 まぁ、行きあたりばったりの確立が高いけど。

「ってかさ、宙と武までこっちに来ちゃったことも引っかかるんだよね。私は魔女に呼ばれたから仕方ないけどさ」

 ローザ伯なら何か知ってるかもしれない。そう、期待してみたけれど、残念ながら、彼も知らないようだ。

「シエスタの妙な噂なら聞いたがな」

「シエスタの?」

「ああ、王子が行方不明なんだとよ。何年も前から。だけど、現に王子が何度かクレッシェンテに来ている。話が合わない。何せ、シエスタは代々一人しか王子が生まれない」

 いや、双子の影武者とかいてもおかしくないだろう。

「ああ、あの妙な男か。ついと十日前に陛下に殴られてたよ。本当に妙な男だ。影がない」

「は?」

 ジルの言葉に驚く。

「いや、実体が無いのかもしれない。とにかく妙だった」

 ジルは言う。

「アラストルが聞いた噂って、ひょっとして、すごーく魔術と関わってたりする?」

 スペードに訊ねると、スペードは何やら考え込んでいるようだった。

「前例がない」

「まぁ、そう、あったら困る事態ですね」

「不本意ながら師匠の力を借りなくては解決できそうにありません」

 スペードはいかにも嫌そうに言った。

「そんなに大変なの?」

「ええ、陛下が戦争を起こそうとしていることの原因がその影の無い王子ですよ」

「貴様!」

 ジルが剣を抜く。

 一体何が起こっているのか理解できない。

「落ち着きなさい。あの子の前ですよ。スペードも、国の機密をそう簡単に漏らさないで下さい」

「おや? セシリオも知っている事実が機密ですか?」

 スペードはさもおかしいと言わんばかりにそう言う。

「陛下を侮辱するならばこの場で殺す」

「落ち着け、騎士団長。餓鬼も見てる前で殺生沙汰はよせ」

「君は女子供に甘すぎる」

「なんとでも言え。んで? これからどうする?」

 冷静なのはセシリオとアラストルだけだ。

「他の伯爵たちを見て、陛下を裏切るものはいないか、足手まといはいないかを再び見極める必要がある。そうでしょ?」

「ああ」

 ローザ伯が頷いた。

「我々はやはりムゲットへ向かおう。カロンテ、城は他の召使に護らせろ。民には我輩の不在を気付かれるな」

「今、ムゲットへ?」

「ああ、やはり陛下に直接お会いする必要がある」

「……やむをえませんね」

 カロンテは静かに目を閉じた。

 何かを考え込んでいるようだ。

「私たちは?」

「次に進むしかないでしょう。お馬鹿さん。残念ながら次はメルクーリオですよ。僕はあまりロートへは行きたくないのですが……あの地は魔術的な罠が多いので、僕がいなければ全滅しますからね」

「罠? んなモンあったか?」

 アラストルは首をかしげる。

「貴方の特異体質はこの際話題にはしませんが、普通は幻覚に精神を蝕まれ自殺しますね。メルクーリオは自分が直接手を下すようなことをしたがらない。古い魔術で護りを固めていますよ」

 それだけ国境の近くは危険が多いということだ。

 私もそろそろ覚悟をしなくてはいけないのかもしれない。

「もう遅い。皆休むがいい。ああ、お前もだ。我が娘よ」

 ローザ伯に頭を撫でられた。

「お休み、良い夢を。悪夢は我輩が喰らってやろう」

「いや、それ、怖いから」

 不健康そうな顔とか、吸血鬼チックな格好とか結構怖いけど、悪い人じゃない。

 魔女の言っていた「素敵な人」と言うのはこういう意味かもしれない。改めてそう思った。


 次はロート。

 メルクーリオに会うと言うのはなんだか複雑な気分になった。

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