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勅命

 嫌な予感とは尽くよく当たるものだ。



「久しぶりね。スペード」

「何の用です? 師匠」

 スペードは不機嫌そうに魔女を見た。

「あら、久しぶりに息子の顔を見たいって親心よ」

「貴女から生まれた覚えはありません」

 母とは生まれる前に生き別れですよとスペードは言う。

「冗談よ。それに、今回私が用があるのは貴方じゃないの。この子よ」

 魔女は面白そうにスペードを見て、それから私を見た。

「私?」

「ええ、陛下からの預かり物をね」

 ほら、今、宮廷からの郵便物が届かないでしょう? と魔女は笑う。

「陛下から?」

 たまには顔を出せとかそういうのだろうか?

「そういえば……戻ってきてから陛下に会ってない!」

 ジルには何回か会ってるけど……。

「ふふっ、別に呼び出しじゃないわよ? 少し拗ねてたけど、ちゃんと正式なお仕事の依頼よ。報酬がなかなか良かったわよ? ローザの薔薇を百万本にロートの蓮の香が十年分、ナルチーゾの水仙が百万本、それにオルテーンシアの紫陽花を庭の垣根にって」

「いや、いらないから」

 ってかどういう基準でそうなったんだろう。

「あ、オルテーンシアの花火も付くわ」

「そういうのじゃない」

「蓮の香なんて珍しくも無いでしょうに」

「あら。それは貴方がロート出身だから言えることよ? ムゲットにはあまり出回ってないんだから」

 魔女はスペードを見てからかうように言う。

「へぇ、スペードはロートの出身なんだ」

「まぁ」

「どんなところ?」

「そう面白くも無いところですよ。何せ田舎ですからね」

「そんなこと無いわよ。アザレーアよりは発展してるわ。それに、魔術が特に発達した地方ね」

「へぇ」

 スペードと魔女のどちらの解説もあまり役に立ちそうもない。何しろスペードはいつも以上に不機嫌で説明する気も起きない様子だからだ。

「それで? 陛下は何て?」

「ああ、忘れるところだった。これよ」

 魔女に手紙を渡される。

 どこかで見たデザインの封筒に封蝋がされている。

「うわぁ……宮廷の紋章だ……」

 見慣れてはいるけどいざ、目の前にそれが付いたものがあると緊張する。

「破って……いいかな?」

「さっさと破り捨てなさい。どうせくだらないことですよ」

 スペードは不機嫌を顕に言う。

「いや、そういうわけにはいかないから」

 思い切って封筒を破る。

 中には黒い紙に白い文字が書かれていた。

「は?」

 文字を追うととんでもないことが書かれている。

「何これ? なんで私がクレッシェンテ中の伯爵たちの様子を見に行かなきゃいけないのかな?」

「あら、だって既に二人も知り合いが居るんでしょう? だったら楽じゃない。アザレーア伯は今は不在だし、それにローザ伯はとっても素敵な人よ? ちょっと変わってるけど」

 魔女は楽しそうに言う。

「ってか、これおかしいよ。だって、騎士団とハデスとディアーナから一人ずつ誰か連れてけって」

「ええ、公正な目で見れるようにでしょう? 今、色々大変なのよ。リヴォルタの動きのほかに他国との関係もあるし、陛下も安心材料が欲しいのよ」

「それ、私に言っていい情報?」

「それだけ陛下が信用してるってことでしょう?」

 楽しそうに笑う魔女に思わず溜息が出た。

「で? 誰を連れて行くの?」

「え? 決定事項?」

「拒否権はないわ」

 やっぱり……。

「じゃあ、ミカエラとリリムと玻璃? うわぁ、楽園みたい」

「残念だけど、騎士団からは騎士団長が同行することになってるの。他は貴女が選んでいいみたいだけど……」

「え? ジル? だったらリリムは借りれないから、やっぱハデスはアラストルに頼もうかな? ディアーナは……本当はセシリオに頼みたいけど、このバランスだと魔術師が居ないからやっぱ朔夜?」

 クレッシェンテの地方を旅するとなれば余計に危険が増える。

 それに地域ごとの特色でどんなトラップが仕掛けられているか分からない。

「あら、色々考えてるのね」

「だって、クレッシェンテだよ? どんな危険があるか……」

「お馬鹿さん」

 スペードに小突かれる。

「アラストル・マングスタは外せませんね。彼は抜けていますが、魔術を見破る才能があります。それに、それなりの戦闘力はある。あとは、野生の感ですね。朔夜は使えません。ここはセシリオを同行させるのが得策です」

「え?」

「朔夜は三日大聖堂に行けなくなるとヒステリーを起こすそうです」

「へ、へぇ……」

 朔夜にも驚いたけど、スペードが真剣に考えてくれたことにはもっと驚いた。

「ってか、スペードか魔女が同行してくれれば一番確実じゃない? 二人とも魔術のスペシャリストでしょ?」

「私は無理よ。陛下からのお仕事がたくさんあるの」

「僕は構いません、といいたいですが、あのアホ二匹の引き取り先が問題ですね。あ、こういうときこそメルクーリオに押し付けましょう。ああ、それがいい」

「いや、ちょっと、メルクーリオに宙を任せたらメルクーリオがおかしくなっちゃうよ」

 宙は取り扱い注意なんだから。

「大丈夫よ。宙はまた玻璃ちゃんに任せるから。武は……あら? どうしましょう? ディアーナには断られたのよね。あ、朔夜のサーカスにお願いしようかしら?」

 

 ここで知った。

 魔女のお願いはお願いではなく決定事項であることを。


「とりあえず、アラストルとセシリオに連絡取ってみるね」

「ええ、出発は週末よ。安心して頂戴。今回は宮廷の馬車を使えるわ」

「良かった。徒歩だったらどうしようと思ってたよ」

 そういえば馬車はウラーノに乗せてもらった以外に乗ったことがない。

「スペードも一緒だし、大丈夫、だよね?」

「そうね。口と目つきと性格は悪いけど、才能は認めるわ」

「余計なお世話です」

 不機嫌そうなスペードが少しばかり心配だけど、何とかなると自分に言い聞かせ、出発の準備をすることにした。


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