ただいま
「戻ってきた……」
砂時計を回して景色が変わったと思ったら、もう既に何度も見たことのあるあの噴水広場の前に居た。
「遅かったじゃないですか!」
いきなり声を掛けられてびくりと身体が震えたけれど、振り返るとスペードが居た。
「スペード、ただいま?」
「何故疑問系なんですか?」
「いや、ただいまでいいのかな? って」
「当然です。お馬鹿さん」
スペードは以前に比べて自然に笑うようになったと思う。なんというか、今日はあの意地悪そうな笑みではなかった。
「すぐ戻ってくると言っていたくせに随分と遅かったですね」
「そう? 向こうにいたのは本当に三日くらいなんだよ。あ、みんなにお土産持ってきたんだ」
「みんなに、ですか?」
「うん。沢山お世話になったし、多分これからも沢山お世話になるから。ってことで、真っ先に玻璃に会いに行きたいんだけど、ディアーナの本部って知ってる?」
スペードに訊ねると彼はとても不機嫌そうな表情になる。
「知りませんよ。そんなもの」
「嘘だ。その顔絶対知ってる。ってかスペード、セシリオと仲良いから知らないほうがおかしい」
「知っていてもお前に教える義務はありません」
そう言うスペードは本当に子供みたいだ。
「ふぅん。じゃあ、スペードはお土産いらないね」
「ええ、いりません。お前が傍に居てくれれば何も要りません」
「へ?」
この前からスペードは変だ。まさか魔女が何かやらかしたのだろうか?
「スペード、あんた変だよ」
「普通です」
「嘘だ」
「嘘ではありません。ところで、お前は居場所はあるのですか?」
「居場所?」
ぽかんとして訊ねるとスペードは面白そうに私を見た。
「住む場所ですよ。いつまでもアラストル・マングスタの世話になっているわけにもいかないでしょう?」
「ああ、メディシナに頼んであるんだ。どっか安アパートでも確保しといてって。あと、どこかバイト先探さなきゃって話はした」
「何故僕には何も相談が無いのですか!」
スペードは本当に不機嫌そうに言う。
「あ、いや……メディシナのほうがこういうの得意だと思って」
こんなスペードは凄く扱いづらいと思う。
「とりあえず、メディシナのところ行こうか。あー、新しいお家どんな場所かなー」
不自然すぎる話題転換に更に眉間の皺を増やすスペード。もう、この人どうしていいか解らない。宮廷騎士団長来てくれないかなって期待してしまう。
「スペード」
「なんですか?」
「あ、いや……とりあえず一緒に行ってくれることには感謝するよ」
そう告げればスペードは微かに笑う。
「お前は……もう少し言い方は無いのですか?」
「もう何もいわない」
戻った瞬間から憂鬱な気分にさせられるとは思わなかった。
けれど、クレッシェンテでの新しい生活が楽しみだということは確かだ。
クレッシェンテ。
ただいま。