9話:冒険者ギルドへ
王都は、でかかった。
「……すげえ」
思わず声が漏れる。
高い城壁。
石畳の道。
行き交う人、人、人。
馬車が走り、商人が叫び、冒険者らしき人たちが闊歩している。
村とは、空気が違う。
(におい、いっぱい)
モフが俺の肩でもぞもぞする。
「お前、興奮しすぎだろ」
(わくわく!)
ポチも尻尾を振りまくっている。
猫は俺の頭の上で寝ている。
山羊は相変わらずマイペース。
チビは俺の足元できょろきょろしている。
「……目立つな」
案の定、通行人の視線が集まる。
「あれ、動物連れてるぞ」
「魔獣もいる……魔物使いか?」
「でも、弱そう……」
最後の一言が、妙に胸に刺さった。
「弱そうって……事実だけど、言わなくてもいいじゃん……」
(まこと、げんき)
「元気じゃない」
俺は、なるべく目立たないように歩く。
……無理だった。
動物5匹連れの男なんて、どう考えても浮いている。
「あ、あそこだ……」
俺が目指したのは、王都の中心にある大きな建物。
看板には『冒険者ギルド』と書かれている。
「よし……行くぞ」
(がんばれ!)
(わんわん!)
(zzz...)
(めぇ)
(ついていく)
猫以外は応援してくれているらしい。
大きな扉を押し開けると、ざわっとした空気が流れ込んできた。
中は、さらに人だらけだった。
鎧姿の男。
ローブを着た女。
傷だらけのベテラン風。
酒を飲んでいる者。
依頼書を見ている者。
武器を手入れしている者。
みんな、強そうだった。
視線が、一斉に集まる。
そして――
「……ぷっ」
誰かが吹き出した。
「動物園かよ」
「魔獣連れてるけど、あれ戦闘力ゼロだろ」
「っていうか、頭に猫乗せてるんだけど」
「しかも寝てる」
笑い声が、あちこちから聞こえてくる。
顔が、熱くなった。
「う……」
(まこと、だいじょうぶ?)
「大丈夫じゃない……」
でも、引き返すわけにはいかない。
俺は、受付に向かった。
「し、新人登録を……」
声が、上ずった。
受付の女性が、ちらりと俺を見る。
美人だ。
茶色の髪をポニーテールにした、二十代前半くらいの女性。
でも、その目は――
完全に、冷めていた。
「……冒険者ですか?」
「は、はい」
微妙な間。
受付の女性は、俺の後ろを見た。
ポチ。チビ。山羊。
そして、俺の肩のモフと、頭の上の猫。
「……魔物使いですか?」
「え、ええと……そういうわけでは……」
「なら、なんでそんなに動物連れてるんですか?」
「そ、それは……」
答えに窮する。
自分でもよくわからない。
気づいたら、増えてた。
周囲から、ひそひそ声が聞こえてくる。
「魔獣連れてるけど、あれ戦闘できんのか?」
「無理だろ。見た目、完全にペットじゃん」
「本人も弱そうだし」
胸が、ちくっと痛んだ。
事実だから、反論できない。
「……登録は可能ですが」
受付の女性は、事務的に言った。
「ランクはEからになります」
「……ですよね」
むしろ、ありがたい。
いきなり期待される方が、怖い。
「名前は?」
「高橋誠です」
「タカハシ……マコト」
受付の女性は、登録用紙に名前を書いた。
「はい、これがあなたのギルドカードです」
木製の札を受け取る。
そこには『Eランク冒険者:タカハシ・マコト』と刻まれていた。
「初任務は、掲示板から選んでください。Eランクは、森のゴブリン討伐とか、薬草採取とか、そのあたりです」
「ありがとうございます……」
俺は、掲示板の前に立った。
そこには、色々な依頼が貼られている。
Sランク:古代竜討伐。報酬:金貨100枚。
Aランク:盗賊団壊滅。報酬:金貨50枚。
Bランク:魔物の巣調査。報酬:金貨20枚。
そして――
Eランク:薬草採取。報酬:銀貨3枚。
「……地味だな」
(これ、できる?)
「できる……と思う」
その時、背後から声がかかった。
「よお、新人」
振り向くと、筋骨隆々の男が立っていた。
Bランクのバッジをつけている。
「あ、はい……」
「お前、その動物たち連れて冒険者やるつもりか?」
「は、はい……」
男は、ハハハと笑った。
「面白いな。でも、すぐに辞めるぞ」
「え……」
「冒険者ってのはな、甘くないんだ。特にお前みたいな弱そうなやつは、すぐに心折れる」
男は、俺の肩を叩いた。
「まあ、頑張れよ」
そう言って、去っていった。
周囲の視線は、冷たいままだ。
誰も、本気で応援してくれない。
期待もされていない。
俺は、隅のベンチに座った。
「……場違いだな」
(だいじょうぶ)
モフが、俺の胸元に顔を埋める。
温かい。
(まこと、つよい)
ポチが、俺の足元で尻尾を振る。
(おなか、すいた)
チビが、俺の膝に乗ってくる。
(zzz...)
猫は相変わらず寝ている。
(めぇ)
山羊は、何も考えていない。
「お前ら……」
苦笑する。
ギルドの空気は、甘くない。
弱いやつは、すぐに切り捨てられる。
それが、よく分かった。
「……でもさ」
俺は、立ち上がる。
「来ちゃった以上、やるしかないよな」
足は、少し震えていた。
自信なんて、ない。
俺は、強くない。
格好良くもない。
魔法も、まだ使えない。
それでも。
「……頑張るか」
モフが、元気よく鳴いた。
(まこと、できる!)
ポチも吠えた。
(わんわん!)
チビも鳴いた。
(いっしょ!)
猫は起きない。
山羊は草を探している。
「お前ら、温度差激しいな……」
それでも、嬉しかった。
弱くて、ダメで、頼りない。
それでも、俺は冒険者になった。
ここからが、本当のスタートだ。
「よし、薬草採取の依頼、受けてくるか」
(がんばれ!)
(わんわん!)
(おー!)
(zzz...)
(めぇ)
猫以外は応援してくれた。
俺は、受付に向かった。
新しい一歩を、踏み出すために。
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