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神様、魅了の対象そこじゃないです 〜魅了スキルをもらったのに、対象が動物と魔物だけでした〜  作者: たかつど
第1章「星空の死と、外れチート」

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8話:最初の魔獣(弱)

 村を出て、半日。


 道は、思ったよりも静かだった。

 舗装されていない土の道。

 左右には森が続き、風に揺れる葉の音だけが聞こえる。


「……王都、遠いな」

(とおい)


 モフの声が、すぐに返ってくる。


「真似するな」

(まねじゃない。ほんとうにとおい)

「そっちの意味か……」


 俺の肩に乗っているモフは、相変わらずふわふわだ。

 横を歩くポチは、尻尾を振りながら楽しそうにしている。

 頭に乗っている猫は、完全に寝ている。

 後ろをついてくる山羊は、マイペースに草を食べながら歩いている。


「お前ら……もうちょっと緊張感持てよ」

(たのしい!)

(おさんぽ!)

(zzz...)

(めぇ)


「全然危機感ないな……」


 俺は、少し歩くペースを落とした。

 体力には、正直、自信がない。

 元の世界でも、運動は苦手だった。

 若返った体でも、やっぱり運動は苦手だった。


「はぁ……はぁ……まだ半日なのに、もう疲れた……」

(まこと、よわい)

「うるさい」


 その時。

 前方の草むらが、不自然に揺れた。


「……っ」


 思わず立ち止まる。

 心臓が、嫌な音を立てた。


「な、なんだ……?」


 ポチが警戒するように唸る。

 モフは俺の肩でぶるぶる震えている。

 猫は起きない。

 山羊は草を食べている。


「お前ら、温度差激しいな!?」


 次の瞬間、飛び出してきたのは――

 小さかった。

 茶色くて、耳の大きい、イタチみたいな魔獣。

 牙はあるが、体長はせいぜい五十センチほど。


「……魔獣、だよな?」


 【微心読】が発動する。

(……おなか、すいた)

「え?」


 心の声が聞こえた。

 魔獣は、俺を睨んでいる……ようで、どこか迷っている。

 威嚇しているわりに、足が震えていた。


「……弱そう」

(こわい!)

「俺が!?」

(……ひと、きらい。でも……このひと、ちがう)

「違うって、何が?」

(やさしいにおい。でも……おなかすいた。どうしよう)


 魔獣は完全に迷っていた。

 襲うべきか、逃げるべきか。

 その時、ポチが一歩前に出た。


「ワン!」

(まこと、まもる!)

「お、おお……頼もしいな」


 猫も目を覚ました。


「ニャー」

(めんどくさい)

「お前は戦う気ないだろ!?」


 山羊は相変わらず草を食べている。


(めぇ)

「お前は完全に空気読んでないな!?」


 その時、魔獣が意を決したように跳びかかってきた。


「うわっ!?」


 反射的に後ずさりし、足がもつれる。

 ――転んだ。


「いてっ!」


 情けない音を立てて、地面に仰向けになる。

 魔獣は、俺の腹の上に着地した。


「やばっ――」


 噛まれる、と思った。

 だが。


(……あれ?)


 魔獣は、動かない。

 俺の顔を、じっと見ている。


 そして。


(……かなしい。つかれてる。さみしい)


 心を、読まれている。


「……それ、言うな」


 俺は、情けない声で答えた。


「今、戦闘中だぞ」

(……やめる)


 魔獣は、ぴょんと飛び降りた。


「え?」


 俺は混乱した。


「待って。今の、戦闘だったの?」

(……たぶん)

「たぶんって!?」


 ポチが首を傾げている。


(かった?)

「わかんない!?」


 俺は、ゆっくりと起き上がる。

 魔獣は逃げなかった。

 距離を取りつつ、俺を見ている。


(……このひと、へん)

「変って!?」

(ふつうのひとは、もっとこわい。でも、このひとは……やさしい)

「……なあ」


 俺は、手を下ろしたまま話しかけた。


「腹、減ってるんだろ」


 荷物を漁り、村で持たされた乾パンを一つ取り出す。

 魔獣は、目を見開いた。


(……くれる?)

「噛むなよ」


 そっと、地面に置く。

 魔獣は慎重に近づき、匂いを嗅いでから、がりっとかじった。


(……おいしい!)


 がつがつと食べる魔獣。

 その様子を見て、俺は肩の力が抜けた。


「……勝った、のか?」

(……まけた)


 魔獣が、心の声で答えた。


「いや、これ戦闘だったの!?」


 ポチが尻尾を振っている。


(まこと、つよい!)

「全然強くないから!?」


 猫があくびをした。

(ねむい)

「お前、起きたばっかりだろ!?」


 山羊は草を食べている。


(めぇ)

「お前は最後まで何もしてないな!?」


 魔獣が乾パンを食べ終わった。


(……もっと、ほしい)

「え?」

(おなか、まだすいた)

「お前……」


 俺は、もう一つ乾パンを取り出した。


「これで最後だからな」

(ありがとう)


 魔獣は、嬉しそうに食べ始めた。

 そして、食べ終わると――


(……いく)

「え?」


 魔獣は、俺の横に並んだ。


「待って。ついてくるなよ?」

(きまぐれ)

「気まぐれって!?」


 モフが、俺の肩で小さく鳴いた。


(なかま、ふえた)

「仲間って……勝手に決めるな」


 でも、魔獣は去らなかった。

 少し距離を保ったまま、俺と並んで歩き始めた。


「……名前は?」

(ない)

「じゃあ……チビで」

(ちび?)

「見た目、小さいし」

(……すき)

「え、気に入ったの!?」


 こうして、俺の仲間はさらに増えた。

 モフ、ポチ、猫、山羊、そして――チビ。


「……完全に、動物園だな」

(どうぶつえん?)

(なに?)

(zzz...)

(めぇ)

(わからない)


 全員、動物園の意味がわからないらしい。


「いや、こっちの世界にはないか……」


 俺は、前を向いて歩き出した。

 王都へ続く道。

 まだ何も始まっていない。


 でも。

 最初の一歩と、

 最初の魔獣と、

 最初の、よく分からない勝利。


 そして――

 増え続ける仲間たち。


「……賑やかになってきたな」

(たのしい!)

(わんわん!)

(zzz...)

(めぇ)

(おなか、いっぱい)


 それだけで、少しだけ。

 悪くない旅の始まりだと思えた。

 遠くで、鳥が鳴いた。

 青い空。白い雲。


 そして、続く道。


 俺の異世界冒険は――

 情けない勝利と共に、少しずつ進んでいく。

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