ミルファ編:「誠の膝は世界遺産」
結論から言う。
マコトの膝は、ミルファの定位置だった。
「ほら、空いてるにゃ!」
「いや今立って――」
「はい確保にゃ!」
即、座る。
マコトの膝の上に、猫獣人が鎮座する。
「ミルファ、近すぎ」
「えー? だって落ち着くもんにゃ」
尻尾が、ふわふわ揺れる。
マコトの顔に、尻尾が当たる。
「くすぐったい……」
「にゃはは! ごめんにゃ!」
ミルファは、全く悪びれていない。
むしろ、楽しそうだ。
彼女の耳が、ぴょこぴょこ動く。
その仕草が、とても可愛らしい。
「戦争の時さにゃ」
「うん?」
「マコトが前に出ると、すごく怖かったにゃ」
ミルファの声が、少し沈む。
耳も、少し伏せる。
「マコトが、壊れちゃうんじゃないかって」
「マコトが、いなくなっちゃうんじゃないかって」
彼女の声が、震える。
尻尾も、動きを止める。
「でもね、帰ってきてくれたにゃ」
「だから」
ぎゅっ。
ミルファが、マコトに抱きつく。
その力は、とても強い。
「今は、離れないにゃ」
「……重い」
「幸せの重みにゃ!」
ミルファは、満足そうに笑う。
マコトは、ため息をつく。
だが、嫌ではなかった。
むしろ少し、嬉しかった。
「ミルファ」
「にゃ?」
「……ありがとう」
「にゃ? 何がにゃ?」
「心配してくれて」
ミルファの目が、キラキラと輝く。
耳が、ぴんと立つ。
「マコト! 大好きにゃ!」
「うん、俺も」
ミルファは、さらにマコトに抱きつく。
そして、マコトの頬に、自分の頬を擦り付ける。
「にゃー! マコト、あったかいにゃ!」
「お前もあったかいよ」
「本当にゃ?」
「本当」
ミルファは、嬉しそうに尻尾を振る。
その尻尾が、マコトの顔に当たる。
「だから尻尾が……」
「にゃはは! ごめんにゃ!」
その瞬間。
「……何をしている」
ベルゼビュートの声。
冷たく、威圧的な声。
「膝占拠ですにゃ!」
「解除しろ」
「やだにゃ!」
ミルファは、さらにマコトに抱きつく。
「マコトは、私のものにゃ!」
「……貴様」
ベルゼビュートの魔力が、解放される。
空気が、震える。
「ちょ、二人とも落ち着いて……」
「黙っていろ」
「マコトは黙ってるにゃ!」
ミルファは、全く動じない。
むしろ、挑発的だ。
「ベルゼビュートは、嫉妬してるにゃ?」
「……誰が」
「嫉妬してるにゃー!」
「……貴様」
ベルゼビュートの目が、赤く光る。
「やばい……」
マコトは、慌てる。
だが、
「にゃはは! ベルゼビュート、可愛いにゃ!」
「……可愛い、だと?」
「そうにゃ! マコトが好きだから、嫉妬してるにゃ!」
「……違う」
「違わないにゃ!」
ミルファは、ベルゼビュートに向かって舌を出す。
「ベルゼビュートも、マコトが大好きにゃ!」
「……っ」
ベルゼビュートの顔が、少し赤くなる。
「……認めん」
「認めるにゃ!」
修羅場。
マコトは空を仰いだ。
(……平和だ)
リーネが、遠くから呟く。
「……あの二人、また始まった」
エルナが、微笑む。
「……でも、楽しそうですね」
セレナが、笑う。
「マコト、モテモテね」
アイシアが、ため息をつく。
「……賑やかだな」
マコトは、ため息をついた。
だが、嫌ではなかった。
むしろ、
「にゃー! マコト、私のものにゃ!」
「……違う、私のものだ」
「二人とも、俺は物じゃないから……」
「黙れ」「黙るにゃ」
二人の声が、重なる。
マコトは、再び空を仰いだ。
(……これが、俺の日常か)
素直な好意は、最強。
マコトは、そう思った。
そして、少しだけ、嬉しかった。




