セレナ編:「からかう人ほど、本気を隠す」
戦後、セレナは変わらなかった。
相変わらず余裕の笑み。相変わらず距離が近い。
そして、相変わらず、マコトをからかう。
「ねえマコト。英雄様って、寝不足?」
ギルドのロビーで、セレナが突然声をかけてきた。
彼女は今日も妖艶な笑みを浮かべている。
赤いドレスが、彼女の曲線を強調している。
「……なんで分かるんですか」
「顔に書いてあるもの」
ひょい、とマコトの額に手を当てる。
その手は、冷たくて優しかった。
そして、彼女の香水の甘い香りが、鼻腔をくすぐる。
「無理しすぎ。壊れない戦い方を覚えたのに、壊れそうな顔してる」
「……」
「ほら、座りなさい」
半ば強引に椅子に押し込まれ、セレナは後ろから肩を揉み始めた。
「ちょ、近……」
「今さら?」
耳元で、囁く。
彼女の息が、耳にかかる。
マコトの顔が、真っ赤になる。
セレナの手が、マコトの肩を丁寧に揉んでいく。
柔らかい手。温かい手。
そして時々、彼女の胸が、マコトの背中に当たる。
「せ、セレナさん……」
「んー? 何?」
セレナは、わざとらしく首を傾げる。
その仕草が、また色っぽい。
「ねえマコト。あなたは世界を救った英雄だけど」
「私にとっては、面白くて、心配で、放っておけない男の子」
彼女の声が、さらに近づく。
唇が、マコトの耳に触れそうなほど近い。
「……からかってます?」
「半分」
「半分は?」
セレナは、少しだけ黙ってから答えた。
「本気」
マコトが振り返ると、彼女はいつもの余裕を取り戻していた。
「ほら、深読み禁止」
「……ずるい」
「ふふ、でしょ?」
セレナは、妖艶に笑う。
だが、その目は、少しだけ優しかった。
「マコト、あなたはもっと自分を大事にしなさい」
彼女は、マコトの頬に手を添える。
その手が、マコトの顔を優しく包む。
「戦争は終わったけど、あなたの戦いはまだ続く」
「だから、壊れないでね」
彼女の手が、マコトの頭を優しく撫でる。
そして、
「ねえ、マコト」
セレナは、マコトの目をまっすぐ見つめる。
「もし、あなたが本当に壊れそうになったら――」
「私が、抱きしめてあげる」
その言葉に、マコトの心臓が跳ねる。
「……本気ですか?」
「さあ、どうでしょうね」
セレナは、くすりと笑う。
「でも、試してみる?」
彼女の手が、マコトの胸に触れる。
心臓の鼓動が、手のひらに伝わる。
「……早いわね、心拍数」
「それは……」
「私のせい?」
セレナは、さらに顔を近づける。
唇が、触れそうなほど近い。
「……セレナさん」
「はい、終わり」
セレナは、さっと手を離す。
そして、くるりと振り返る。
「これ以上は、他の子が怒るわ」
彼女は、妖艶に微笑む。
「じゃあね、マコト」
「また、からかいに来るわ」
そう言って、彼女は、腰を揺らしながら去っていった。
マコトは、自分の胸に手を当てる。
心臓が、まだ早鐘を打っている。
顔が、熱い。
耳が、熱い。
「……セレナさん、ずるい」
マコトは、小さく呟いた。
そして、彼女の背中を見つめる。
彼女は、振り返らない。
だが、その耳が、少しだけ赤かった。
マコトは、それに気づいた。
(……セレナさんも、照れてる……?)
その事実に、マコトの心臓がさらに跳ねる。
からかいは、好意の裏返し。
マコトは、そう確信した。
そして、少しだけ嬉しかった。




